第34話 さよならの先にあるもの(最終話)
「それではいくぞ」
トルクの転移魔法で、王女のいる部屋へ転移してすぐにシロたちは行動した。強制力が働き始める数瞬の間にクロが擬人化小石兵を10体。仮面の賢者バフワンの隷属化兵5人が動き出す。しかし、なにも知らない金翼騎士団ヴェールと近衛兵5人が迎え撃った。そして、シロたちに向けて強制力が働く前に結界の賢者リリスから授かった【結界(隠蔽)】で姿を隠し、シロ達が狙われるのを避けた。
少し遅れて迷宮の賢者マレイアの【迷宮化】によって部屋の外を迷宮化し、外からの干渉を遅らせる。最後にトルクの大魔法が完成した。隠蔽の結界から飛び出し、転生の魔女ことマルサイユ王国を何百年にもわたって支配してきた王女に触れるとトルクの姿が消えた。
「この世界から消えてよいのか? 異界人よ」
「そのつもりで来たんよ」
王女は強制力の力を解いて、私たちに話しかけてきた。
すでにトルクは過去の世界へと旅立った。
ほんの少しの間だけ私たちはこの国を捻じ曲げた魔女の真意を聞くことになった。質問にはクロが返事する。ヴェールたちも事情が変わったのを察したのか小石たちとの戦闘をやめた。
「かつてこの国は未曾有の危機に瀕したことがある」
転生の魔女の名は、ミレニア・エドワード・シュロイツ。
シュロイツ家はマルサイユ王国に使える宮廷魔法使いの家系で、100年以上にわたって王家に仕えてきたそうだ。
マルサイユ王国は当時、隆盛を極め、大陸でもっとも豊かな国として何百年も栄えていたという。
そんな豊かなマルサイユ王国を他国は妬み、複数の国家が共謀して攻め入ってきたそうだ。マルサイユ王国は数百年という平和の中で戦う術を忘れてしまっていた、形骸化した王国軍では侵略を止められず、王家は滅ぼされ、国土は蹂躙されたらしい。
家族も全員殺されたミレニアは、シュロイツ家に伝わる禁術「強制力」で、他国を領土から撤退させることに成功したそうだ。
国を崩壊寸前にまで追いやった武力に対して、「一部の争いによる均衡」を保つことで、より大きな破滅を回避しようと動いた。ミレニアにとっては、彼女の手によって「統制された戦争」こそが最善の平和を維持するために必要なもので他国からの侵略の抑止力になると考えたそうだ。
「偽りの平和なんて誰が欲しいん?」
平和ボケした日本で暮らしていたクロらしい率直な感想。
しかし、ミレニアにとってはその言葉は重しになったようで、顔を歪ませた。
「たしかに人間って、力を持つとおかしくなるアホがいる」
そんな一部の自分勝手な人間が国民を振り回し、安全なところから人々を死地に向かわせる。
「だから私は何度も転生して見守ってきた」
「それがアカンて。間違いを犯しやすい人間が舵を取ったらエライ迷惑なんよ」
「ではどうしたら良かったと言うんだ?」
「今だけじゃなく後世の人を見守るなら『法』をしっかりさせればええんよ」
「──っ!?」
今いる人間が老いてこの世を去っても、法は生き続ける。
その法が民によって支えられている限り、一部の独裁者や人民を騙し偏った思考の先に突き進まないよう楔の役割が機能し続ける。
法もまた、民が作らないといけない。
間違った法も多少は含まれていても長い歴史の中でそれらは少しずつ良くなっていく。
この世界にも法は存在するが、極端に少ない。悪いことをした時の罰則くらいしかないため、それ以外は権力者の采配に委ねられてきた。
法に守られた国で平和を享受しつつも法により、諸国に対する武力は常に磨いておかなければならない。相手が専制国家であれば、戦争はいとも簡単にそれも何度でも引き起こされる。軍事力なんてないから戦争をしかけてこないでください、だなんて実に虫の良い話で相手国の目にはいいカモにしか映らないだろう。
「そう……かもしれないな」
トルクや3賢者を巻き込んで転生を繰り返してきた魔女は、ぎゅっとスカートの裾を握っていた両手を緩め、ため息をついた。
「遅くなったの」
「どやった?」
トルクが帰ってきた?
彼が帰ってきたってことは失敗を意味するのでは。
「そこのミレニア嬢に改心してもらったわい」
時空間転移したトルクだったが、他国の侵略戦争は始まる数年前に誤って転移してしまったそうだ。だが、そのおかげで他国の侵略する恐れを王国に伝え、王国はその話を聞き届け戦争に備えた結果、侵略は軽微なもので済み、王家もシュロイツ家に取って変わられることなく存続するところまで見届けてきたそうだ。
トルク自身はミレニアと面識が会ったので、彼女が転生魔法と強制力の力を行使して、現在の世界に至ったのだろうと予想してミレニアに近づき、未来で起こる不幸な出来事を伝え、禁術をこの世から抹消するように働きかけたそうだ。
「今はなんで変わらんの?」
「たぶんだけど……」
都市マスターの質問にシロの予想を伝える。
過去に遡ってトルクがミレニアによる王国支配を改変した。
その時点で、世界線が2つに分岐し、マルサイユ王国が一度も滅んでいない世界線ができた。
今いるこの世界線を変えるにはその原因となったものを過去の分岐点まで運べばいい。つまり……。
「王女を過去に連れていけばええってことやね」
「その通り、じゃが……」
トルクの姿が白くぼやけ始めている。
まるで存在そのものが消えようとしているように……。
「儂だけでは過去に遡る魂の力が残っておらん」
見ると、バフワンやマレイアの姿も消えつつあり、おそらく結界の賢者リリスも同じ状態にあるだろう。
「じゃあ、ワイが行く」
「クロ!」
「それはできん、一定の魔力を備えているものでないと資格がない」
クロが何を思ったのか立候補したが、トルクに却下された。
時間が限られている中で一定の高い魔力を持つもので3賢者以外の人物。消去法で考えて私しかいないとトルクが話す。
「わかりました」
「いや、アカンねん、それだけはダメ」
めずらしくクロの聞き訳が悪い。
いつだって、どんなことが起きてもすぐに柔軟にその環境に対応する彼がこれから起きることを全力で拒否しようとする。
「どうしてクロはよくて私はダメなの?」
「そんなん当たり前やん、自分より大事なモン犠牲にできんし」
クロが自分より私が大事?
そんなこと初めて言われた。
クロの表情は別に恥じらったり頬を赤くしたりしていない。ただ憮然とした表情で物語のエンディングを観ようとしない駄々っ子のような顔をしている。
「クロがそこまで私を大事に思ってくれているなんて本当に嬉しい」
素直にお礼が言えた。
私だって魂の片割れに恥ずかしがったりして遠慮などしない。
「でも、みんなの未来のために私の魂を使わせてほしい。私だってクロのことが一番大事だから」
そう言って、トルクに合図を送り、悲しそうな顔をしているクロに別れを告げた。
「クロ、またどこかで会いまし……」
「うっへーボゲぇぇ、ぶんなぶるぞぉぉ?」
なん?
このムカつく顔は戸塚とかいうワイの上司。
なんでこのオッサンの方を支えてるん?
はっ!
思い出した!
「もう、限界なんだよぉぉぉぉぉぉっ!」
「甘ったれるな、ボケぇぇぇぇ!」
「ぐはぁ!」
あぶなかった。
あやうく柏さんに戸塚のオッサンごとホームから突き落とさるとこやった。
戸塚を放り捨てて、柏さんをぶん殴るとその場で泣き崩れた。
「しろおー、おまべ、よぐも上司を」
「うっせー、ジブンも黙ってろや!」
「ぐべぇぇ!」
ついでに戸塚のオッサンも蹴り倒してやった。
異世界帰りのワイにとっては、こんなジジイ大したことはない。
「よし、帰ろっと」
あんなアホみたいなブラック企業なんて願い下げや。退職届けは戸塚のオッサンの顔についたワイの靴跡。
酔っ払いふたりを駅に置き去りにして、住んでいるアパートに帰ってきたワイは、ベランダから見える自分の部屋の窓から明かりが漏れているのに気が付いた。
マジなん?
部屋の鍵を開けて中に入ると、士郎宗近の半身ともいえる女の子がエプロン姿で、キッチンに立っていた。甘く焦げたバターの香りとほのかに漂うローズマリーの清涼感が混じり合い、士郎の鼻腔をくすぐる。振り返った彼女が士郎を見て照れくさそうに微笑んだ。
「お帰り、クロ」
─FIN─
ワイ、TS白髪美少女になる あ、まん。 @47aman
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