第32話 田中さんはおっちょこちょい
「先生、途中式があってたら何点ですか?」
「半分の二点だ」
「じゃあ、途中式間違っているのに答えがあってたら?」
「カンニング容疑で0点にしとけ」
「それはそれで酷くね!?」
クラスが小テストの採点で盛り上がっている中、俺は一人頭を悩ませていた。
理由は当然、テスト用紙に書かれた『sumika 0818』の文字。
これが突然パスワードを忘れそうになって急いで書き出したとかでなければ、メッセージアプリのIDなんだと思う。
でも、本当に何で渡されたんだ?
昼の一件に対する田中さんなりのアンサーだろうか?
友達から始めましょう的な意味で。
だとしたら、意外と好感触?
いや、待て。早まるな。
もしたから、直接話すのが嫌で、もうメッセージアプリでしかやり取りしない的な感じかもしれない。
てことは、田中さんにとって俺は仲の良い隣人からマッチングアプリで変に絡んでくる面倒臭い男?
それ、めちゃくちゃ降格してるじゃねぇか!?
田中さんが優しいから律儀に相手してくれてるだけで、縁切れる直前じゃん!
……まぁ、流石にそんなことはないと願いたいけど、万が一そうだったら流石に凹む。一週間くらい余裕で寝たきりになる自信がある。
ていうか、考えれば考えるほど本当によく分からん。
何でこのタイミングでIDを送られてきてるんだ?
そこそこ仲が良かったから、正直に言って交換するタイミングはいつでもあったように思う。
じゃあ、何で交換してないのか?って。
べ、べ、べ、別に日和ってたわけじゃねぇし!
連絡先というのは女の子にとって非常に大事なものだからな!
出会ってすぐに交換しようと言って気軽に教えてもらえるものじゃねぇんだよ。
ある程度仲良くなってから交換するものだからな、あれは。
決して、断られるのが怖かったとかそういうのではない。
学校の連絡事項とか宿題については、親切な友人達のおかげで事足りてたから聞く必要もなかっただけだし。
……でも、まぁ、実際にもらってみると──
「──……すっげえ、嬉しい」
ずっと欲しいと思っていた好きな人の連絡先が手に入ったのだから当然だろう。
多分ないだろうけど、夜遅くまで今まで話してこなかった色んな話をしたりとか、田中さんの日常写真が見られるかもしれないのだ。
だから、どんな理由であろうと心躍ってしまう。
やばい。想像したら色々と妄想が止まらない。
そうだ。よし、小テストの採点しよう。
ていうか、今はそういう時間だ。
流石にこのまま妄想に耽って、田中さんに迷惑を掛けるわけにはいかん。
俺は急いでIDを付箋にメモって黒板に書かれた答えと、田中さんの解答用紙を見比べながら丸つけを行っていく。
「よし、もう終わっただろう。お前らその解答用紙集めるから前の席の奴に渡せ。解答者に戻して、答えを書き換えられるかもしれんからな」
丁度、採点が終わったところで先生からそんなことを言われた。
あっ、あぶねぇ。これで何とか田中さんに迷惑をかけずに済んだぜ。
俺は赤ペンを置き、言われた通りに前の席に座っている奴に解答用紙を渡そうとした瞬間、「ちょ、ちょっ、ちょっと待ってください!」と横から声が聞こえたかとう思うと、少し遅くれてガタンッ!と椅子が倒れる音が教室に響く。
教室全員の視線が俺の左隣。解答用紙に向かって手を伸ばしている田中さんに集中した。
「どうした!?田中、なんかあったか?」
「あっ、えっと、その。名前を書き忘れたのを思い出して……」
それにより、田中さんの顔が一気にカアッと紅くなり、しどろもどろになりながらも理由を説明した。
「そうか。田中が書き忘れるのなんて珍しいな。おい、金子。それ、渡してやってくれ」
「は〜い。田中さんってしっかりした人だと思ってたけど、意外とうっかりしたところあるんだね、可愛い」
「あ、あう、揶揄わないでくださいよぉ〜。……解答用紙ありがとうございます」
普段真面目なおかげで、特に田中さんはお咎めはなく軽く揶揄われる程度で済んでいた。
恥ずかしそうにイソイソとシャーペンを動かす田中さんの横で、俺は机に突っ伏していた。
勿論、笑いを堪えているわけではない。
純粋に罪悪感と田中さんの可愛さにやられたからである。
さっき田中さんが解答用紙を回収しようとしたのは、メッセージアプリのIDを消すためだ。
まさか、採点の終わった解答用紙が、自分の手元に一度も戻ってこないと思っていなかったのだろう。
そのため、IDを消す前に回収されそうになって大慌てしてしまったのだ。
すげぇ、申し訳ない。
こっちが気を利かせて消してやれば良かったのに、何て馬鹿野郎なんだ俺は!?
というか、好きな子の連絡先が他の男の手に渡るとか嫌なんだから普通消すだろうがアホ!
……しかし、アワアワする田中さんマジで可愛かったな。破壊力えぐ過ぎるだろ。
特に最後、プリントで顔を隠すところがもう最高!日本国宝だろ、あれは。
本当ええもの見せてもらいました。
ありがとうございます。そして、マジでごめんなさい。
次からもっと気遣いが出来る男になります。
俺はそんなことを心の中で決意しながら、先生に指摘されるまで机に突っ伏し続けるのだった。
あとがき
一話にまとめるつもりが二話くらいになりそうだったのでここまで。
続き書いてしっくりこなかったら、明日あたりに加筆されます。よろっぷ。
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メインヒロインより可愛いモブの田中さん 3pu (旧名 睡眠が足りない人) @mainstume
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