三十一 ソタナのミヨ

「ミヨちゃーん!」

「はいはーい!」

「おやつもっていってー!」

「はーい!」


遊び場には今日も新しい子どもたちの魂がいた。

ミヨは従業員として走り回っている。

朝から遊び場に行った当初は、知らなかった忙しさに驚いたものだった。

しかし、慣れてしまえばその仕事は楽しく、悩む暇はなくなった。

何よりも、毎日が充実していた。


「おやつの時間ですよ~」

「わーい」


用意されたおやつは、温泉まんじゅうやせんべい。

中庭と同じ物だ。

それをみんなに配り、自身も食べる。


魂は安定化し、傷を負うことはなくなった。

ミヨの白髪も変わらず、左の後れ毛だけだ。

それでも、他の魂と違うかもしれないから、とソタナの食べ物は定期的に食べるように言われていた。

可能なら金湯きんゆにも入るように言われたため、今では子どもたちの入浴係もしていた。

金湯が濁ることはない。

濁っても子どもたちで濁っているのか、自分なのかわからない。

そのせいか、今は疲労も含めて体調はよい。


「おねーちゃーん!おにごっこしよー!」

「はーい!おにごっこするのはだれかな~⁈」


呼びかけるとわらわらと、集まる魂たち。


「おえーちゃんがおにねー!」

「にげろー!」

「わ~!」


魂が散らばる。

ミヨが数を数えていると、サネが近付いてくる。


「おー気合い入ってんねー」

「サネさん」

「それに、その前掛けもいいじゃないか」

「コミツからもらったんです!」

「あの子は器用だねぇ」


ミヨが使う前掛けはコミツがくれたもので、左下に桜の刺繍ししゅうが入っている。

コミツがミヨのために作った刺繍で、桜の花びらの一つが桜色ではなく銀色になっている。

ミヨの後れ毛が一部白髪になっているのを再現したらしい。


「そういえば、今日の夜でしたね?」

「はい」


サネが確認してくる。

ミヨは大きくうなずいた。


「すいません。お借りします」

「いいのよ」

「ちょっとー!おねえちゃああん!」

「あーはいはい。うおおお!」


ミヨは走り始めて、おいかける。

手が触れる手前で走るのを止める。

みな勢いよく逃げ始め、追いかけた。

死ぬ前に憧れていたことがこんなにも日常に溶け込んでいる。

それがとてつもなく嬉しかった。


 * * *


『コンコン』


ノックの音がして、ミヨは慌てて扉のほうに向かう。

今遊び場にはミヨしかおらず、このあとの準備をしていたのだ。


「こんばんは。失礼しても?」

「お待ちしてました!どうぞ!」


扉を開けた先にいるのは、ヒラサカとセダ。

それと。


「やっほー!」

「か、神様⁈」


コミツがくる予定だったが、それよりも背の高い神が目立った。

陽気に手を上げている。


「ミヨちゃん、元気そうじゃ~ん」

「すまないミヨ」


セダが心底不満そうな顔でミヨに謝ってくる。


「今日の仕事の後に突然やってきて、断り切れなかった……」

「そろそろ天界に行きたいかなぁって思ってーミヨちゃんに会いに来たんだよ~そしたら、今日双六すごろく大会するって話じゃん?そんな楽しいこと、我が参加しないとどうするんだ‼」

「すいません、ミヨさん。私が口を滑らせてしまったばかりに………」


ヒラサカも申し訳なさそうにそう言う。


「まぁ、前回勝ったコミツは勝ち抜けということで」

「残念です……」


神の後ろから入ってきたのはコミツ。


「でも、五人でしてもいいんじゃないですか?」


客人が増えたので、湯飲みをもう一つ用意しながら、ミヨは素朴そぼくな疑問をいってみた。


「……」


返事が返ってこない。

みんなをみると、驚いた顔でこちらを見ていた。


「あ、ごめんなさい。もしかして、わたし、よくないことを言いましたか?」


双六は四人で参加、というのは誰が決めたのだろう、と思っただけなのだが。

もしかしたら、なにか深い理由があるのかもしれない。


「いや、いいかもな」

「確かに、言われてみればそうですね」

「よいな!我が許そう!」


セダ、コミツ、神が口々に同意する。

ヒラサカだけがうーん、と考え込んでいた。


「ヒラサカさま!コミツも参加していいですか⁈」

「まぁ、冥王様が許可されるなら、よいのですが……」


ヒラサカの歯切れが悪い。


「コミツが参加したら、コミツが勝ちますよ?」

「もちろんです!」


ヒラサカの渋々という言葉に、コミツが同意する。

しかし、それに対して神が、はははと笑う。


「いーや!勝つのは我だね!」

「いえいえ。残念ながら神様。うちのコミツはあなどれませんよ」

「良いじゃないか。我もやる気が出てきたぞ」


どうやら五人での双六になりそうだ。

ミヨはもう一つのおはじきを探しにいった。


「ミヨ」


静かに呼びかけられる。


「冥王さま。どうされましたか?」


何か準備不足があっただろうかと、ミヨは慌てて対応する。

セダは静かに手元の袋を持ち上げた。


「ブドウを持ってきた」

「あ、ありがとうございます」

「みなに配ってほしい」

「わかりました」


セダからブドウを受け取る。

ヘタを外して、実のみにする。

それを双六周りに集まっているみなに配りに行く。


「冥王さまがブドウをもってきてくれました」

「おい話が違うぞ、セダ!」


神が突然立ち上がった。

セダに指をさす。


「そのブドウは我が天界から持ってきたものだ。セダ!なんで自分の手柄てがらにしてる!」

「お前が勝手に私に持ってきたものだ。私がどうしようと勝手だろう」

「お前が、果物が好きだから、毎回持ってきてやってるだろ!」

「余計なお世話だ」


神とセダが言い合いしているが、最終的には双六で勝負をつけるようだ。

それにしても。


「冥王さま、果物すきだったんだね……」

「しらなかった……」

「だから、ミヨに果物をよく送ってたのか……」


コミツと二人でそんな話をする。

ミヨ、コミツ、ヒラサカ、神、冥王が双六を囲んで座る。


「では!天界冥界合同双六大会!開始!」


神の高らかな宣言で、戦いの火蓋ひぶたは切って落とされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『蘇りの巫女』は冥王に溺愛される~私を殺したのはあなたですよね⁉~ 維社頭 影浪 @Ishdws_kgrh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画