第2話 盗賊団の男

こいつを捕まえるか、見逃すか。


俺は魔物を狩るために森を歩いていた。そこで大怪我をしている男と出会った。

「冒険者か?ポーション持ってないか?」

全身ボロボロのこの男が尋ねた。

「ひどい怪我だな。ちょっと待ってくれ」

驚きながらもなんとか平静を装ってポーションをかける。


この男は盗賊団のボスだ。手配書に描かれた顔と一致する。

こいつの盗賊団は金品を盗むだけでなく殺しまでやっている。金持ちや貴族まで被害に遭っていた。

あまりにも凶悪すぎて騎士団が総力を上げて対応した。


1000人規模の盗賊団なので、拠点も複数あり見つけるのも難航したが無事に全て発見し制圧した。

幹部も全員捕まり、残ったのはボスのこいつだけだ。


こいつが潜伏していた拠点は山の中にあった。騎士団がひっそりと接近し、一気に拠点に踏み込んだ。

ボスを追い詰めたが拠点から脱出されてしまった。騎士団は山をくまなく探したが結局見つからなかった。

騎士団との戦闘で深手を負っていたので、山のどこかで死んだのだろうと結論づけられた。


「川に落ちて流されちまってね。ここがどこか分からなくなっちまったんだ」

俺が渡した干し肉を食いながら男はそう言った。

ここの近くの川は騎士団が攻め込んだ拠点の山と繋がっている。しかし、距離はかなりある。歩いて3日以上かかる。

騎士団が制圧したのが1週間以上前だから、よく装備もなく生き延びたものだ。


「それは大変だったな。街まで案内するよ」

「助かる。あんたに出会えて運がいい」


男の怪我はひどそうだ。全身に怪我がある。

おそらく左腕は動かないのだろう。

歩くのも大変そうだ。


男のペースに合わせて先を歩く。

男は無言でついて来る。乱れた呼吸が聞こえる。

男は俺のことを覚えていないのだろうか。


この男は俺の幼馴染だ。間違いない。

故郷の村で一緒に冒険者になった。

戦いの才能があり、よく助けられた。

あっという間に強くなり、村を出て行った。あいつならもっと冒険者として成功するだろうと思った。

それから10年以上たった。

あいつの顔を久しぶりに見たのは盗賊団のボスの手配書だった。

名前が違うが本人にしか見えなかった。


あいつが盗賊になったとは信じられなかった。

強くて人望のあるやつだった。

初めて2人でオークを倒した時、俺はビビっていただけだった。ほとんどあいつが倒した。

それでも討伐の報酬は2人で分けた。

俺はいらないと言ったがあいつは聞かなかった。

「俺が足を引っ張っとき、次はお前が助けてくれ。それでチャラだ」

にっこり笑ってあいつがそう言った。


どうして盗賊になってしまったんだ。

この10年で何があったんだ。


もうすぐで街が見えてくる。

こいつの手配書はまだ有効だ。生死問わず懸賞金がもらえる。

10年前はとても敵わなかったが、今なら勝てるだろう。

こいつの怪我はかなりひどい。

迷うことはない。すぐに斬るべきだ。


10年前のこいつの姿が脳裡に映る。

やはりあいつが盗賊になるとは思えない。

盗賊団の所業とこいつが結びつかない。

そのせいでなかなか行動に移せなかった。


「なぁ、ちょっと休ませてくれ」

男は座り込んで木にもたれた。

「もう少しで街か?」

疲れた様子で聞いてきた。


いつまでも悩むわけにいかない。

俺は決めた。


「お前は街に行くな。まだ騎士団が警戒している」

俺はじっと男を見ながら喋り続ける。

「俺が街で薬や食料を調達して来る。もっと遠くに逃げてやり直せ」


当然横から何かが飛び出た。魔物だ。

とっさに剣を抜いたが押し倒された。

魔物の牙が俺に迫る。

男が走り出し、横から魔物を剣で貫いた。

魔物の力が抜け、俺は起き上がり死んだのを確認した。


男は剣を突き出した勢いのまま倒れている。

「その体で無茶をするな。大丈夫か?」

俺は男を抱き起こそうとする。


男は微笑んでいる。

「チャラにはできなかったな」

そう言い残すと眠ったように息を引き取った。

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異世界ショートショート タコリー @tacollie

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