異世界ショートショート

タコリー

第1話 受付の葛藤

本当ならゴブリンと戦いたい。しかし、それはできない。

なぜならば私はただの冒険者ギルドの受付だからだ。

依頼者から話を聞き依頼書を作成し、冒険者へ斡旋するのが仕事だ。

魔物と戦うのは冒険者の仕事だ。


時間は刻々と過ぎていく。私はどうすればいいんだ。

死んだ父の言葉が頭によぎる。

「静かに暮らせ。戦わずに平和に生きていくのが一番だ」


周囲が騒ぎ始めた。

外で叫び声や剣と剣がぶつかる音が聞こえる。

「ああ、もう町の中心まで来たの‥」

隣で同僚が震えている。


ゴブリンの群れが町に攻めて来たのだ。すでに冒険者が戦っているが、ゴブリンの数が多くて対応しきれていない。

私たち冒険者ギルド職員はギルドに閉じこもって息を潜めている。

しかし、ゴブリンたちが中に侵入してくるのも時間の問題だろう。


私は決めた。

剣を取って扉に走り出した。

「え、どこいくの!?」

同僚の声を無視して外に出た。

ゴブリンが2匹視界に入った。そのまま奴らに向かって走る。

ゴブリンが剣を振るが、それを避けて2匹の首を斬った。


「ははっ」

自然と笑みがこぼれた。

仲間を斬られたことに気づいたゴブリンたちが向かってくる。

そんなゴブリンたちの首を斬っていく。


やっぱり剣を振るのは楽しいなぁ。

父から教わった剣のおかげでこんなに楽しい時間を味わえる。


剣聖と呼ばれた父は戦いに明け暮れた日々だった。

そんな日々に疲れたのか晩年の父から冒険者になるのはやめろと止められていた。


小さい頃から剣が好きだった私にはショックだったが、激しい戦いのせいで消耗して年々弱っていく父の姿を見て言われた通りに生きることにした。


それでも剣が好きだということは変わらなかった。

こうして剣を振っている時がとても幸せだ。

肉を斬る感触、命が消える感触が剣を通して伝わる。


ゴブリンたちが周囲からやって来る。

あー、ずっとこの時間が続けばいいのに。


転がるゴブリンの首の数が増えていく。

間もなくその数は止まるだろう。

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