急『心残り』

〈これで誰も争えまい。この星には、我ひとりなのだから〉


 救世主メシアは、広い星で、一人で過ごす。


 しかしある日、異変が起こった。


 頭痛がするのか、頭を両手で抱え、地をのたうち回る救世主メシア


「「「「「「「「「「「「リビングではスリッパ履いてって言ったでしょう! なら、今死ね。水が余計に減らぬうちにな……そんなの高くて、ウチでは買えない!! 仕方ないのだ。この国の存続のためには、犠牲が必要なのだ。白き者どもは、相応の対価も約束してくれた。そうかそうか、あるのか! なら、全部いただこうか。どうせまた湧いてくるだろう? しかし長よ、長たるもの、こんな時こそ民を守るべきではないでしょうか? うるさいわね! ここは私のウチなんだから、おとなしく家主の言うことを聞きなさいよ!! あんたバカァ? 満腹で気持ちが良くなってる時に、食器洗いなんて、正気の沙汰じゃないわ。つけ置きしとけばいいの、そんなのは! なら、力ずくだ。奴らを信じるのです? 対価など、きっと嘘に決まっています! どうかご慈悲を……私たち、お互いに同じ人間同士じゃありませんか……そ、そんな、ふざけないでくれ! そんなことされたら、死んでしまう! なぜ、食べ終わってすぐ食器を洗わない? すぐ洗えば、最も簡単に汚れが落ちると言うのに! 人間同士? 我々には、お前らは、野蛮なに見えるが? 白き者どもが、奴隷をご所望だ。よって全ての村は、一〇〇人ずつ差し出すのだ。でも、キッチンや洗面所では履かないときた。一体どういった基準で、スリッパを履く、履かないを判断しているのか、教えてほしいものだね。黙れ! 部下の分際で……わきまえろ! そんなお前を、奴隷として差し出してやろうではないか! すまないが、私たちもなんだ。おい、山賊よ。きんをよこせ。はいはい、わかりましたよっと……嫌だね! そ、そんな! 長よ、どうか目を覚ましてください! ケンカやめてよ。それなら食洗機を買えばいいのに。おい、野蛮人よ、我が帝国に奴隷をよこさぬか! なんだと! ならこっちも、黙ってないぞ!」」」」」」」」」」」」


 頭の中を、支離滅裂の声が飛び交う。


 救世主メシアの頭の中で、数多あまたの魂が、暴れ出したのだ。


 耐えきれず、救世主メシアの人格は、無限に分裂した。


〈痛む……頭が痛む……心も……痛む……〉


 魂たちの暴走は、救世主メシアの肉体を、心を、破壊し始める。


〈ああ!!!! 苦しい!!!! 消えてしまいたい!!!!〉


 すると、救世主メシアの声に呼応するかのように……


 旋風つむじかぜが吹いた。


 風が、この星で唯一の魂の入れ物を、切りつけ始める。


 〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆


 鎌鼬かまいたちだ。


〆左腕がもげる〆

        〆右腕がもげる〆

  〆左脚がもげる〆

    〆右脚がもげる〆


 芋虫のように、モゾモゾとうごめくことしかできない。


 散らばる四肢と胴。


 鎌鼬かまいたちは、容赦なく襲い続ける。


 救世主だったものを形づくっていた、器官や、組織は、粉微塵こなみじんに切り刻まれていく。

 

 唯一、心臓だけが、無傷で残った。


 どくり、どくりと、弱々しいが、確かな拍動。


 そして、救世主の心は、最良で最悪の選択アポトーシスにより……


 止まった。



▽△▽△▽


 

 自と他は所詮、他人同士である。

 決して、完全には、理解し合えない。

 かと言って、独りになってしまえば……

 苦しみ、消えることを選ばざるを得ないのだ。


  〈完〉

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収斂する魂 加賀倉 創作 @sousakukagakura

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