「無印良品」という玉手箱

奈良ひさぎ

あの匂いが好きなのかもしれない。

無印良品、とだけ打ち込んで検索すると、元は西友のプライベートブランドだったのが独立してできた、という旨の記述が出てくる。会社名も「株式会社良品計画」らしい。そこは会社名も無印良品ではないのか。しかし「ムーミンの皮膚(無・未・非・不)」と覚えさせられた否定・打消の漢字の一つである「無」を名前の一部に入れておきながら、これだけ馴染みのある名前になっているのも不思議なものだ。


私の中で、無印というのは家具や雑貨をいろいろ売っている場所だ。あるところではクッションや座布団、またあるところではポロシャツ。さらに別の店舗では訳アリバウムクーヘン。行く店によって、敷地に入った時最初に目に入ってくる商品がまるで違う。無印良品は経験上、イオンのようなショッピングモールの中に専門店の一つとして入っているケースが多いので、ショッピングモールの大きさに依存して無印良品の店舗サイズも変わってくるのだろうが、商品の並びに何か規則性があると気づけるほど、私はまだ無印良品という店をうまく観察できていない。それはこれから、無印良品でもっと生活必需品や何やらを買うようになれば、自ずと分かってくることなのかもしれない。


ところで、無印良品はある程度の大きさ以上のショッピングモールであれば必ずテナントに入っている。それだけ「MUJI」ブランドが人気を博している証拠なのだろう。ショッピングモールに入って「無印良品はどこかな」と探すほどのファンではまだないが、「そういえばここには無印良品がないな」というモールを思い出すこともできない。ショッピングモールあるところに無印良品あり、という説は正しいかもしれない。

そんな無印良品は、まず店のイメージカラーが何となく好きだ。コーポレートカラー、と呼ぶべきかもしれない。小豆色、ワインレッド、あるいは阪急風に言うならマルーン色である。その昔、高校入学祝いにノートパソコンを買い与えてもらえる話になった時、大きさを度外視してワインレッドのかっこいいPCを欲しがったくらいには、この少し暗めの赤が好きなのだ。小さい頃から両親に「赤が似合う」と言われたのがきっかけで赤を好きになり、しかし原色の赤は目がチカチカするので少し暗めがよい、と落ち着いた結果である。

不思議なもので、あの色を見かけるとまだ「無印良品」の四文字が見えていなくても、あああそこに無印があるのか、と分かってしまう。これは客の頭の中で色と店とを結びつけることに成功している証拠だ。視覚情報というのはとても頼りになるもので、たとえ遠く離れた場所でもこの色を見つけると、安心してそちらの方へ吸い寄せられてしまう。


そしてなぜ無印良品に何となく惹かれてしまうのかと考えた時に、匂いがキーになっているのではないか、という可能性に至った。嫌な臭いのする場所からは一刻も早く離れたいし、いい匂いがする場所にはずっといたいという気にすらなってしまう。人間として当たり前のことかもしれないが、私は嗅覚を判断基準にすることがそこそこあるのではないか、と気づいた。

無印良品はどの店舗も言葉にしがたい良い香りがする。アロマディフューザーやアロマスティックが一番表に置いてあることが多い気がするので、それのおかげかもしれない。特に買いたいものがあるわけではない。家具に過不足はないし、服も特に欲しいものはないし、下の階のマックスバリュでお菓子をたらふく買い込んだ後でバウムクーヘンなんて要らないと思いつつも、ついつい立ち寄ってしまう。ついに先日、アロマスティックを購入してしまった。家は男の一人暮らしで狭い場所、他人を呼ぶわけでもないのだが、少しでもいい匂いをさせたいと思い、爽やかな香りの消臭力を玄関と部屋の真ん中に配置しているほどだ。無印良品に何度も立ち寄っていれば、購入するのは時間の問題だったのかもしれない。


今はまだ無印製のものが家に非常に少ないので意識する機会もまた少ないが、このまま行くと無印のアプリを入れる日も近いかもしれない。そうなれば、私もすっかり無印良品という「ブランド」のファンである。こうした日常のごくごく小さな「好き」たちを、これからも大事にしていければいいなと思う。

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