自虐の糸が綻べば。

自虐の糸で編まれた砂の城に籠城してきたふたり。自分を守る術としては、あまりに剥き出しで脆い。でも柔らかく細い糸は、重ね合わせれば意外に強固で、その紬目にすら、焦点があわなくなっていく。

ただ、壁の向こうに、同じ色合いの何かを見つけたとき、僕らはその裂け目を必死に探す。そうして解れの糸口を僕らはみつけることになる。そう、そこにも、希い半分、諦め半分。そんな波に揺られたまま、立ち位置はなかなか微動だにしないように思われても、ぱつりと城は崩れおちた。

見咲影弥の『残春の花片』に大賞をあたえたKADOKAWAは罪深い。この原稿は、文藝賞に応募してほしかった。そんな気持ちが湧き起こってしまうほど。けれども、進化を続ける見咲であれば、近いうちに必ずこれ以上の傑作を吐きだしてくれると、そう希っています。