自虐の糸で編まれた砂の城に籠城してきたふたり。自分を守る術としては、あまりに剥き出しで脆い。でも柔らかく細い糸は、重ね合わせれば意外に強固で、その紬目にすら、焦点があわなくなっていく。
ただ、壁の向こうに、同じ色合いの何かを見つけたとき、僕らはその裂け目を必死に探す。そうして解れの糸口を僕らはみつけることになる。そう、そこにも、希い半分、諦め半分。そんな波に揺られたまま、立ち位置はなかなか微動だにしないように思われても、ぱつりと城は崩れおちた。
見咲影弥の『残春の花片』に大賞をあたえたKADOKAWAは罪深い。この原稿は、文藝賞に応募してほしかった。そんな気持ちが湧き起こってしまうほど。けれども、進化を続ける見咲であれば、近いうちに必ずこれ以上の傑作を吐きだしてくれると、そう希っています。
醜く残った傷跡に過去の痛みを覚えつつ、それでも忘れ難い愛おしい記憶に縋り、むしろ傷口を広げるような真似を繰り返す、そんな苦しい生き方をしている少年。
同じように傷を負い、しかしそれを消し去りたいと願いつつ最後の一歩を踏み込めなかった少女。
ひとりはどうしようもない心から、もうひとりは環境からと状況も違えば負っている傷も異なっている。
それでも、ふたりが互いに自分を投影し、それが物語を動かすことになる──。
扱っている題材が題材なだけに、なかなか受付難い人もいるかもしれません。
読後感も、決して清涼なものでもないかもしれません(私はそうでした)
どろどろとした苦い液体の中にほんのわずか、何か痛みのような後味が残る。
そんな「切なさ」の味がする物語でした。