第35話 訪問

洋介と拓也に「行ってくる」と一言だけ告げて、美咲ちゃんを追いかけて駆け出した。

身体のあちこちが痛むけど、それよりも心がざわざわと落ち着かない。

あんな風に泣いて、逃げ出す美咲ちゃんの姿なんて、久しぶりに見たからだ。


あの子が泣いているのを最後に見たのは、小学生4年生のときだった。

それ以来、ずっと気丈で強い印象しかなかった美咲ちゃん。

いったい、何が彼女をここまで追い詰めてしまったんだろうか。


僕は息を切らしながら彼女の家へと向かった。

頭の中でさっきの光景が何度も繰り返される。

けれど、彼女があんな風に追い詰められる姿を見ていると、なにか事情があるのだと感じずにはいられなかった。


美咲ちゃんの家に辿り着き、目の前の玄関に立った。

チャイムを押すために手を伸ばすけれど、どうにも指が震えて押せない。

昔は何も考えずに押して、玄関を開けて、彼女とすぐに会えたのに。

今、このチャイムは遠く重たく感じる。

心配の気持ちでここまで来たものの、彼女をこれ以上追い詰めてしまうんじゃないかという不安がこみ上げてきたからだ。


「…どうしよう…」


僕は、玄関前で息を整え、彼女の姿が浮かんで消えていく中で、何度も考えを巡らせていた。

どうして美咲ちゃんはこんなにも苦しんでいるんだろう。

勉学のこと、それとも仲間のこと、もしかするとダンジョンに潜る理由…全部のことが重なって、彼女を縛りつけているのだろうか。

ふと、小学生のころの無邪気な彼女の笑顔を思い出して、その記憶が胸の奥をチクリと刺した。


気持ちを落ち着かせるように、深呼吸をひとつ。

今はとにかく、美咲ちゃんのことが心配だ。

彼女が元気になるためなら、何かできることがあるかもしれない。

チャイムを押す勇気を振り絞り、僕は彼女の答えを待つために、しばし玄関前で立ち尽くしていた。


玄関の前で立ち尽くしていると、ふいに足音が近づいてきた。

顔を上げると、スーパーの袋を両手に持った橘さんのお母さん、橘 綾子さんが僕に気づき、目を見開いた。


「あれ?もしかして健太くん?」


橘さんのお母さんのその声で、懐かしい感覚が一気に蘇る。


「こんにちは…橘さんのお母さん、あ、あの…」


何か言葉を探そうとする僕をよそに、彼女は柔らかな笑顔を浮かべてくれた。

以前と変わらない、優しさに溢れた笑顔だ。


その時、隣にいた小さな男の子、橘 翔くんが僕をじっと見上げながら、無邪気に聞いてきた。


「お兄ちゃん、その傷どうしたの?」


思わず頬に手を当てる。

確かに、今日の傷がまだ生々しく残っているんだろう。


「ちょっと、怪我しちゃって…大したことないんだよ。ありがとうね、心配してくれて。」


翔くんに微笑みかけると、彼はホッとしたようにうなずいてくれた。


橘さんのお母さん、綾子さんはそんな僕を見て、少し表情を曇らせた。

そして、彼女は何かを察したかのようにすぐに僕に優しく声をかけてくれた。


「恵美さんには連絡しておくから、ゆっくりしていって。美咲も帰ってきてるから、ちょっと待っててね。」


そう言って、彼女は僕を家の中へと招き入れてくれた。

久しぶりに足を踏み入れる橘さんの家のリビングは、相変わらず温かみがあって、居心地の良さを感じさせる。

美咲ちゃんのことを心配する気持ちと、どこか落ち着かない心地が交錯して、僕の胸が高鳴るのを感じた。


「美咲、きっと喜ぶわよ。今、少し待っててね。」


そう言って、綾子さんはスーパーの袋をテーブルに置くと、そそくさと美咲ちゃんの部屋に向かっていった。


僕はリビングでひとり取り残され、ふと耳を澄ますと、かすかに聞こえる母娘の会話が部屋越しに伝わってくる。


「あらあら、何かあったの?」


という柔らかい声と、美咲ちゃんの少し小さな声。

何かがあったことをお母さんが察したらしい。

そんなやり取りがほんのわずかに聞こえてきて、僕は気まずさと申し訳なさが入り混じった感情に襲われる。


しばらくすると、美咲ちゃんの少し苦笑したような表情を見た気がして、気を取り直しながら待っていると、綾子さんが戻ってきた。


「ねえ、少しお茶でも飲んでから、ゆっくり美咲に会ってあげてちょうだい。」


僕が座ったまま少し目を見開いていると、綾子さんが手早くお茶を準備してくれた。

その間、翔くんも僕の隣に座り、あれこれと話しかけてくる。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんと一緒にいるの? ダンジョンとか行ってるの?」


その言葉に驚いて顔を向けると、綾子さんが軽く微笑んで、静かに言葉を添えてくれた。


「そうよね、健太くんもダンジョンに行ってるんでしょう? 美咲、最近本当にたくましくなったわ。」


「え、ええ…僕もダンジョンに潜るんです。」


僕が頷くと、翔くんが目を輝かせて、身を乗り出してきた。


「お姉ちゃんもすごいんだよ! いつも帰ってきてからすごく真剣に練習してるんだ。お兄ちゃんも強いの?」


僕は少し気恥ずかしそうに微笑んで、頷いた。


「まあ…頑張ってるつもりだけどね。まだまだ、みんなみたいに強くなれるように練習中だよ。」


その後も綾子さんは、ダンジョンでの戦いの話や、最近の美咲ちゃんの様子について、穏やかな口調でいろいろと話してくれた。

彼女の心の支えになるように、家族全員で協力しながら過ごしているのだと感じる。

美咲ちゃんがここで安心できる場所があることがわかり、僕も少しほっとした。


しばらくして、翔くんが楽しげに学校の話をし終わった頃、綾子さんが軽く肩を叩いて言った。


「美咲も準備ができたみたい。もう少しだけ、ここでお茶を飲んでから、あの子に会ってやってちょうだいね。」


「はい、ありがとうございます。」


この家の温かい雰囲気に癒されながらも、僕の心は美咲ちゃんのことを心配し続けていた。


部屋に入ると、まず目に入ったのは、清潔で整った部屋の様子だった。

小学生の頃に来た彼女の部屋とは、まるで別の場所に来たような気がした。

壁には少しおしゃれなポスターが貼られていて、机には教科書やノートがきれいに並べられている。

何よりも、柔らかな布地のカーテンが窓辺にかかっていて、夕暮れの光を優しく反射しているのが印象的だった。


改めて部屋を見渡すと、ふいにドキドキする。

小学生の頃から変わっていない部分もあるけど、今の彼女の年相応の趣味や好みが散りばめられているようで、少しだけ緊張してしまった。


「…何よ、じろじろ見て。」


不意に彼女の声が聞こえて、我に返る。

橘さん、美咲ちゃんは少し頬を赤らめ、少し恥ずかしそうな表情をしていた。

改めて見ると、彼女の目は少し腫れている。

泣き腫らしたせいだろう。


「なんだか…綺麗な部屋だな、橘さ――」


僕が言いかけると、彼女は軽くため息をついて、ふいっと顔を背けた。


「だから、そうじゃなくて、美咲ちゃんって呼んでよね。あの頃みたいに。」


その一言で、胸がぎゅっと締めつけられるような感覚がした。

なんだか懐かしくて、恥ずかしいような、それでいて温かい気持ちがこみ上げてくる。


「…そうだな、久しぶりだな、美咲ちゃんって呼ぶの。」


彼女が少し照れくさそうに頷いてくれて、僕も少し緊張が解けた。


「今日はさ、久しぶりに大喧嘩してきたよ。正直、スッキリしたんだ。これも美咲ちゃんがいたから、喧嘩できたのかもなって思う。」


僕がそう言うと、彼女は驚いたように僕を見つめた後、少し顔をしかめて呆れたように言った。


「…健太くん、馬鹿じゃないの?喧嘩でスッキリするなんて、まだまだ子供ね。」


そう言いながらも、彼女は微かに笑みを浮かべていた。

小さな微笑みだけど、僕にとっては、その笑顔が見られただけで十分だった。


「まあ、そうかもな。でもさ、久しぶりに思いっきり体を使って、熱くなって…なんか、昔を思い出したよ。あの頃は、僕ってとにかく乱暴でさ、ガキ大将気分で何でも力で解決しようとする、どうしようもない奴だっただろ?」


彼女はくすくすと笑い始めた。


「そうだったね。毎日のように喧嘩して、私もいつもヒヤヒヤしてた。でも、そんな健太くんだったから、みんなを守ってくれた部分もあるんだよ。」


彼女がそう言ってくれた瞬間、ふと僕の心が温かくなった。

でも今はもう、そうやって暴れることだけが自分の強さじゃないとわかっている。

そう言いたくて、僕は少し照れながら笑った。


「そうだな。でも、今はそうやって暴れるだけじゃないって学んでる最中ってところかな。今日は久しぶりにそんな自分を出しちゃったけど、なんだかダメダメだなって思うよ。おまけに負けちまって、こんなに傷だらけだしさ…」


僕が肩をすくめてそう言うと、美咲ちゃんは少し驚き、でもすぐに微笑んだ。


「でも、私を助けてくれたんだもん。ありがとう、健太くん。」


彼女の優しい声に、僕は改めて感謝の気持ちを覚える。

昔の自分とは違って、今は自分も誰かを守る側に立てるのかもしれないと思ったら、少し誇らしい気分になった。


「本当はさ、僕、ずっと後悔してたんだ。自分を、恥ずかしいって思ってた。橘さ…いや、美咲ちゃんにも、見せたくない姿だって、ずっと思ってたんだよ。でも、今日こうして助ける側になれて、ちょっとだけ過去の自分を許せた気がするんだ。」


そう言うと、美咲ちゃんはふっと微笑んでくれた。

その笑顔は、いつか僕が知っていた、あの小さな女の子の笑顔のままだった。

懐かしい気持ちが込み上げてくる。

どんな話をしようかと考えながら、僕はしばらく、自分の駄目だったところや情けない過去の話を彼女に続けた。

今までずっと恥ずかしくて隠していた弱さも、なぜか彼女には素直に話せる気がしたから。

僕はしばらく、過去のことを思い出してはぽつりぽつりと話していたけど、ふいに大切なことを思い出した。


「そういえば…美咲ちゃん、小学校四年生の時のこと、覚えてるかな?」


僕がそう言うと、美咲ちゃんは少し驚いたような表情で僕を見つめ返した。


「あの時のこと…?」


その反応に、僕は少しうつむきながら言葉を続けた。


「僕が…喧嘩に巻き込んで、ごめんな。本当は、美咲ちゃんを守りたくて、そうしたはずだったんだけど…逆に、僕が美咲ちゃんを傷つけちゃってさ。」


僕の言葉に、美咲ちゃんはしばらく沈黙していたが、やがて静かに頷いた。


「あの時は…そうだね、痛かったけど、私には健太くんの気持ちが伝わってたよ。だから、怒ってなんかないよ。」


彼女のその言葉が、僕の胸に温かくしみ込む。

でも、どうしても聞いておきたかった。

僕は顔を上げ、彼女の腕に目をやりながら尋ねた。


「でも…あの時の傷は、大丈夫か?本当に、無茶してしまったって、ずっと心残りだったんだ。」


美咲ちゃんは少し照れくさそうに腕を見せてくれた。

小さな傷跡はもう薄れていたけど、僕の胸に強く残っている。

彼女は僕に微笑んで、「もう大丈夫だよ」と言ってくれた。

その一言で、どれだけ救われた気持ちになったか、言葉にできない。


「ありがとう…本当にありがとう、健太くん。」


美咲ちゃんの言葉に、僕は少し照れくさくなって、話題を変えることにした。


「そうだ、美咲ちゃん、ダンジョンの攻略も少しずつ進んでるんだ。もちろん、僕なんかまだまだなんだけどさ…それでも、すごい仲間たちと一緒に挑んでるんだよ。」


僕は少し得意げな顔で、ダンジョンでの出来事や仲間の話をし始めた。


「特に、G型ってロボットの話をしたっけ?あれ、すごいんだよ。僕たちが探査できない場所まで行ってくれるし、危険な場所でも素早く対応してくれる。同じクラスだし、知ってるかもしれないけどさ、洋介がアイデア出してくれてみんなで作ってくれたんだけど、あいつ、軍事オタクで、いつも『ですぞ』なんて変な口調でさ、すっごく面白い奴なんだよ」


美咲ちゃんは少し笑いながら僕の話に耳を傾けてくれている。

こうして、彼女が僕の話を聞いてくれるのは嬉しくてたまらない。


「それから、エリって子もいるんだけどさ、いつもG型と一緒に行動してて、仲間をサポートしてくれるんだ。僕たちが苦戦してる時には、エリがすごく力になる。強くて頼もしい、だけど、可愛らしい感じもあるんだよなぁ。」


僕がそう話していると、美咲ちゃんが微笑みながらうなずいてくれた。


「それに、拓也って奴も同じクラスだろ。あいつは、ちょっとクールで、普段はあんまり多くは語らないんだけど、頭の中はいつも何かのプランでいっぱいなんだ。きっちりしてるし、必要な時にはしっかり助けてくれるんだよ。」


僕は次から次へと仲間の話を続けていた。

ダンジョンでの経験を話すことで、なんだか今の僕を彼女に知ってもらえるような気がして嬉しかったからだ。

美咲ちゃんは優しくうなずきながら、僕の話に耳を傾けてくれている。


「だからさ…美咲ちゃんにもいつか、僕たちのチームを見てもらいたいんだ。僕たちがどうやってダンジョンを攻略しているか、今の僕たちを知ってもらえたら、きっともっと楽しいと思うんだ。」


彼女の目が少しだけ輝いたように見えた。

その反応が嬉しくて、僕はつい熱くなってしまったけど、彼女の笑顔を見るとその熱も落ち着いた。


「ありがとう、健太くん。君がこうして成長している姿を見れて、私も嬉しいよ。」


美咲ちゃんにこうして話を聞いてもらうだけで、何だか自分が一歩ずつ進めているような気がした。

話が一段落すると、不意に彼女の表情が曇っていくのがわかった。

彼女が唇を噛んでいるのを見て、僕は声をかけるべきか迷ったけど、黙っていられなかった。


「美咲ちゃん…」


僕が呼びかけると、彼女は小さく息を吐いて、下を向いたまま話し始めた。


「…健太くんの仲間たち、すごくいいね。みんなで協力し合って、励まし合って…うまくやってるんだね」


彼女の声が、だんだんと小さくなっていくのが感じられた。

どこか自分に言い聞かせているような、そんな言葉だった。


「…私、ね、本当に最低だよね。佐々木くんにも、優花にも、高木くんにも、そして山下先輩にもひどいこと言っちゃった。みんなは攻略は一段落でゆっくり力を蓄えようって言ってくれてたのに…どうしても焦って、ダンジョンの攻略を急かしてしまった。そんな私が、みんなをバラバラにしてしまったんだ」


美咲ちゃんが、悔しそうに拳を握りしめているのを見て、彼女がどれだけ苦しんでいるかが伝わってきた。

僕は何か慰めの言葉をかけようとしたけど、ふと疑問が浮かんだ。


「でも、どうしてそんなに焦ってたんだ?」


彼女は僕の問いかけに一瞬だけ顔を上げ、僕を見つめたけれど、すぐに視線をそらしてしまった。

彼女の顔には、どうしても話せない、何か重いものを抱えているような影が見えた。


「ごめん、健太くん…今日はね、なんかもう泣きすぎちゃって、感情がセーブできなくて…本当に、ごめんなさい」


美咲ちゃんがそう言って、顔を覆い隠すようにして泣き始めるのを見て、僕はなんとか彼女を支えてやりたくなった。

でも、どうしていいのかわからなくて、ただ戸惑いながらも、そばに座り彼女の背中を優しくさすることしかできなかった。


「大丈夫だよ、美咲ちゃん。今日はたくさん泣いたんだから、もう少しだけ、泣いてもいいよ」


僕の言葉に、彼女はさらに嗚咽を漏らしながら、手で顔を覆い続けた。

その肩が震えているのを見て、彼女がどれだけ一人でこの思いを抱えていたのかを想像するしかなかった。


「…俺、美咲ちゃんがこうやって自分の気持ちを話してくれて嬉しいよ。だから、無理しなくていい。俺はここにいるから」


彼女の涙が止まるまで、僕はその隣でただ静かに待ち続けた。

しばらくすると、彼女はゆっくりと顔を上げ、少し赤くなった目で僕を見つめ、かすかに微笑んだ。


「ありがとう、健太くん。なんか、こうやって話せただけで…少し気持ちが楽になったよ」


彼女が少しでも心を軽くできたのなら、僕の存在にも意味があったのかもしれないと思った。

美咲ちゃんが無理をしていることに、僕は小さな違和感をずっと感じていた。

この子は、僕が知っている限り、決して無茶なことをするような子じゃない。

昔からずっと優しくて、誰に対しても気を遣える、そんな子だった。


小学生の頃から彼女を遠くから見守ってきた。

だからこそ、彼女が今焦っている理由が何か、とても重い内容なのではないかと、自然と思うようになった。


僕はそっと、美咲ちゃんに向き直り、できるだけ優しく声をかけた。


「美咲ちゃん、きっと色々抱えてるんだと思う。でも…無理してると、いつか本当に辛くなっちゃうよ。俺で良かったら、話してくれないか? ずっとそばにいるから」


彼女は僕の言葉に反応し、少し戸惑ったように目を伏せた。

でも、その瞳には決意と悲しみが混ざり合った光が見えて、やがて彼女は小さく息を吐き、ぽつりぽつりと話し始めた。


「私、健太くんには関係ないことかもしれないけど…どうしても、どうしても話せなくて…」


彼女が胸に抱えている重さが、静かに、でも確かに僕に伝わってきた。

僕は何も言わずに、ただその場で彼女を見守り続けた。

しばらくの沈黙の後、彼女はついに堰を切ったように話し始めた。


「実はね、私…私の家、今本当に大変なんだ。お父さんの会社、ダンジョンが出現してから仕事がなくなって、借金も増えて、いつどうなるか分からない状況で…」


その言葉を口に出した途端、彼女はもう止められないようだった。

僕は思わず、彼女の手をそっと取った。


「だから、ダンジョンに挑戦して、少しでもお金を稼ぎたいって思ったの。お父さんや翔のために、私が強くならなきゃって…でも、仲間たちにそれを言うわけにもいかなくて、結局、みんなを傷つけて、バラバラにしちゃって…」


彼女の声がだんだんと震えてきた。

目には溢れた涙が溜まり、堪えきれなくなったのか、ついに彼女は僕の胸に顔を埋め、泣きじゃくり始めた。


「…ごめんね、健太くん…こんなこと、話すつもりじゃなかったのに…」


彼女の体が震え、僕の胸に顔を押し付けながら、感情を爆発させているのが伝わってくる。

僕は何も言わずに、ただその場で彼女を抱きしめていた。

家族のために、そして守るべき人のために強くなろうとする美咲ちゃんの気持ちが、痛いほどに伝わってきた。


「美咲ちゃん、俺、君がどんなに頑張ってるか、少しだけ分かったよ。無理していたのも、全部君が家族のためを思ってのことだったんだよな。こんな時、どう言えばいいかわからないけど…でも、絶対に一人じゃないから。俺が支えるし、また仲間たちも戻ってきてくれるよ」


美咲ちゃんは泣きながら、何度も頷いた。

僕の言葉が、少しでも彼女を支えられるものであることを願いながら、彼女が落ち着くまで、ずっとそばにいることを決めたんだ。

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オタク3人組の僕たちが、ダンジョンへ挑む理由は… モロモロ @mondaru

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