第35話

 その戦場は、冷気と暗闇が支配する凍てついた荒野だった。周囲には氷漬けになった大木が無数に立ち並び、まるで静寂の墓標のようにあたりを見守っている。俺と真は、その冷たい戦場の真ん中に立つひときわ異様な存在に目を奪われていた。


 そこにいるのは、かつての氷結先輩——いや、今はもう人の姿を捨て、闇に支配された妖魔そのものとなった彼女だ。その全身を覆う黒い氷の鎧、燃えるように冷たい青い瞳が、鋭くこちらを見据えている。


「拓真、真、まさかあなたたちがここまで来るとはね」


 玲奈先輩の声はまるで氷を削るような冷たさで響き、耳元で何かが割れるような感覚を覚えた。


「先輩……どうして、こんなことをするんですか? あなたは、俺たちの仲間だったじゃないですか!」


 思わず叫んだが、玲奈先輩の表情には微塵の感情も浮かばない。むしろその顔には、ほんの少しの嘲笑すら見える。


「仲間? 人間ごときが仲間だと? くだらないわ」


 彼女は冷たい微笑を浮かべ、手をかざして魔力を放った。その瞬間、あたりの空気がさらに凍りつき、霧のような冷気が一帯を覆った。氷の壁が立ちはだかり、逃げ道を封じるかのように俺たちを囲んだ。


「逃げ場はない。さあ、あなたたちの弱さを私に見せて」


 玲奈先輩の挑発に、俺と真は視線を交わし、無言のうちに覚悟を決めた。この戦いが、俺たちの最後の試練になると——それがわかっていた。


「拓真、俺が先行する。お前は後ろから氷の魔力で援護してくれ!」


 真が叫び、即座に突撃を開始する。玲奈先輩の攻撃をかわしながら、彼の剣が彼女の鎧に食い込もうとするが、その瞬間、冷気が彼を弾き飛ばした。先輩の力は尋常ではない。


「……そんな程度で私に挑むつもり?」


 玲奈先輩がさらに冷笑を浮かべる。しかし、俺はその表情の奥に、わずかな揺らぎを感じ取った。


「真、行くぞ!」


 俺は全身の魔力を氷に変え、玲奈先輩に向けて無数の氷の矢を放った。彼女は軽く指を振るだけで氷の壁を作り出し、矢を防いでしまうが、その瞬間に真が別の角度から彼女に突撃を仕掛けた。


「そこだっ!」


 真の剣が玲奈先輩の防御の隙間を狙って振り下ろされる。彼女は一瞬驚いたように目を見開くが、すぐに冷静を取り戻し、逆に彼を弾き飛ばす冷気を放った。しかしその瞬間、俺もまた彼女の背後から氷の刃を放っていた。


「どうして……あなたたちは、これほどまでに抗うのか」


 玲奈先輩の冷たい瞳が一瞬だけ揺れる。彼女の心に残る微かな人間性が、わずかに呼び覚まされたのだろうか。


「俺たちは、仲間を見捨てるわけにはいかないからです!」


 俺は叫びながら氷の力をさらに強化し、玲奈先輩に向かって全力で突撃を仕掛けた。彼女が放つ冷気と俺の氷がぶつかり合い、戦場は瞬く間に氷の嵐に包まれる。


「くだらない……あなたもいずれ、闇に堕ちるというのに」


 玲奈先輩の声が冷たく響き渡る。だがその瞬間、俺の心には強い決意が生まれていた。


「もし闇に堕ちることになっても……俺はこの力で仲間を守る!」


 俺の叫びとともに、氷の魔力が限界まで高まる。玲奈先輩との戦いは激化し、凍てつく闘気が互いにぶつかり合い、あたりは一面の氷の世界へと変貌していった。


「拓真、今だ!」


 真の声が響き、彼の援護で一瞬の隙が生まれる。その瞬間を逃さず、俺は全ての魔力を込めた氷の一撃を玲奈先輩に放った。


「……私を、超えるというの?」


 玲奈先輩はわずかに微笑み、そのまま俺の攻撃を受け入れるかのように静かに立っていた。氷の刃が彼女に命中し、冷気が彼女の全身を包み込む。


「拓真、真……いずれあなたたちも、この闇に引きずられる。だけど、その時が来るまでせいぜい……抗いなさい」


 最後にそう呟くと、玲奈先輩の姿はゆっくりと崩れ落ち、闇と共に氷の中へと消えていった。


 俺はその場に立ち尽くし、彼女の言葉が胸に重く響いた。彼女の力を受け継いだが、それは同時に闇への道をも背負うことを意味していた。


「拓真……大丈夫か?」


 真がそっと肩に手を置き、俺を現実に引き戻してくれる。その温もりに救われる気持ちがしたが、同時に玲奈先輩の残した言葉が頭を離れなかった。


「俺は……絶対に闇に負けない。仲間を守るために、この力を使ってみせる」


 俺は自分に言い聞かせるように呟き、真と共に凍てついた戦場を後にした。玲奈先輩が遺した力は冷たくも強大だったが、俺はそれを己の信念で抑え込み、仲間を守るための力として使っていく覚悟を固めたのだった。


 こうして、俺たちは新たな一歩を踏み出す。闇が迫っていることを知りながらも、俺は仲間と共にその道を進む決意を胸に秘めていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 最後まで読んでいただきありがとうございます!


 この話は自分の不甲斐なさを思い知らされる作品になってしまいました。

 次の作品に活かしたいことがたくさんあるので、完結をしましたが、納得できないことがたくさんある作品になってしまいました。


 次の作品には、自分の反省を活かした。面白いを追求したいと思います!


 読んでいただき本当にありがとうございます!


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絶望の和風鬱ゲーに転生したけど、全力でフラグをぶっ壊してヒロインを救う! そして主人公の闇堕ちを防ぐ! イコ @fhail

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