ダイジェスト:第四話から第六話

第四話

「これは君のものではない」

 なぜか、直感で口が返したものの、


「あなたが身に着ける服や物品は全部青色なのに、赤色の線が入ったこの柄を持っているのはおかしい」


 などという屁理屈で反論。

 それに対し、女子高生の彼女は赤山の手から、無理くり柄を取り返そうとする。

 しかし、赤山と比べて非力な女子高生。

 すると彼女は赤山に対し、嫌悪感を露わにし始める。


「本当にボッチって、なんでこんな理屈っぽくて、いざ欲しいモノ得たら馬鹿力出るの。ほんとキモい。」


「それに、あんたがそれ持ってても何の役にも立たないでしょ。返して。」


 しかし、まったくもって柄を彼女に返さないつもりの赤山。


「死んでも返さない。なぜならこれを手放したら、僕が変われなくなるから!」


 今まで以上に、一つ一つの語気を強め、この言葉をしっかりぶつけた。

 この思いは、正しいんだ、と。

 しかし、彼女は踏みにじろうとする。


「『変われなくなる』?あのねえ、あまり人に慣れていないような、緊張しすぎて語気が強くなっちゃうしゃべり方。ほんと気持ち悪い。しかもそんな奴と揉めるなんて最悪。ましてや、揉める理由が『変われなくなるから』だなんて。痛いわ。」


 赤山は、彼女の罵倒をきっかけに思い出した。

 中学一年生の頃。

 教室で自分が正しいと感じること、面白いと感じることを言うたびに、和気あいあいと話し合うクラスメイトは静かになり、視界に自分の顔を入れないようにしてきたことを。


 一方、さらに言葉を続ける彼女。


「あんたみたいにボッチな人は、受け身って相場で決まってんのよ。」


 遂に、自分が学校という独房に入れられていた理由が分かった赤山。


「中学時代のトラウマで、受け身になったこと」なら、悔しいことに辻褄が合い、妙に納得できてしまう。

 彼は、情けなくなった。


第五話

 傷心してしまった赤山を前に彼女は、赤山が持つ剣の柄のようなものを腰から取り出した。

 銀色の線が縦にバーコードのように真っすぐ連なる、青い柄。

 日本刀のような重みを感じさせるが、刀身はない。

 柄を持った彼女の右手は、右拳で殴るヤンキーのようにがっちり構えた。

 影が、傾いた夕日の逆光で先ほどより濃くなっている。


 殺意ある光景に怖気づく赤山。


 すると地面からターコイズの、ガラスの破片が生成され、宙に浮いてゆく。

 それは彼女が持つ柄の、刀身があった根元にくっついては、銀色の刀身となり始めた。

 すべてのガラスがくっついた頃、日本刀のような刀身が出来上がっていた。

 直後、彼女の肩から、ふくらはぎから、そして刀身から、なんとターコイズ色の炎が吹きでた。おまけに目も、ターコイズ色に光る。

 刀の柄からは、怒り狂ったエンジンの駆動音が響く。




“蛇高速伊豆”ターコイズ




 技名と共に赤山の胸へ突進する彼女。

 彼が命の危険のあまり、とっさに目を閉じたとき、

 残像を残して彼女は消えていた。

 しかし



 ブォンッ!



 ブォンヴォン!



 ビュンッ!



 スポーツカーの走行音とともに、赤山の近くを横切っては周りを走る。

 彼女は目から出す光の軌跡とともに、砂の竜巻を作り出していたのだ。

 巻き上げられる砂で視界を奪われる上に、砂嵐から出てくる拳で首と喉仏を殴られる赤山。

 呼吸困難にも似た苦しみで四つん這いになってしまった。


 赤山は考えた。

 なぜ彼女は高速で移動できるのかを。そして、自分のものに似た柄でなぜ彼女は刀身を生成できたのかを。

 一つ目の仮説は「たーこいずといったから」。




「たー、こいず」




 おでこを手のひらで引っ叩かれた。

 彼女は、身に着ける服と言い、青いものにこだわりがある様子だった。

 それに柄も、銀色と青色。

 だから「ターコイズ」と言ったのかもしれない。

 一方、自分の柄は銀色をベースに赤い線が入っている。

 自分の柄は赤系なのではないか。

 そこで出た二つ目の仮説は「柄の色と同じ系統の色を言ったから」。




「…くれない」




 今度は左耳の後ろを叩かれた。

 では一体何がダメなのか。

 彼女は技を言った時、全身から青緑の炎が吹き出していた。

 あれは漫画やゲームでも見たことある。

 エフェクトだ、想像上の。

 三つ目の仮説は「イメージをもって、柄の色と同じ系統の色を言ったから」。




…駆蓮奈行!くれない




 すると赤山は、高速で動く彼女の動きが見えるようになった。

 彼女は、赤山のつむじを狙っていた。

 それを止めまいと、つむじを引っ張ろうとした右手を掴む赤山。

 そうして、彼女の動きは止まった。


第六話

 彼に技の謎を解き明かされたことで、いつの間にかできていた笑顔から一変、ヒステリーを起こす彼女。


「嫌ぁ!何で、剣を生成できたのよ!何で、『柄』の、『想像を現実にする力』を、引き出せているのよ!」


 土埃が晴れ始めた中、赤山の右手にある柄から、紅色でクリアな軍用ナイフが生成されていた。

 彼女の言いぐさから、想像の力で自分を殴っていたと推察する赤山。

 彼は、彼女のことを許せないが、かといって憎み切れない。

 アーサー王の想像をする自分と重ねたからだ。

 空想のアーサー王ごっこの想像から、アーサー王になりたいと感じる想像。

 彼女の場合なら、ボッチがいるという現実を認め、逃げようとする想像に成長している。

 そこで、こう宥めた。


「ねえ、ボッチがいる現実から逃げたくて殴ったんでしょ。僕を。」


 だが、何も返さない。


「名前、何て言うの。」


「青海 つるぎ、よ!」


「青海さん。僕と戦った時に使ったという想像の力。それは本来、自分が幸せだと実感するためにあると思うんだ。」


「自分の幸せを、実感するため。」


「うん。」


「…うるさ。」


 そういうと青海は、いきなり刀を向けた。

 が、その時、彼女の右手から、刀がするりと離れ、赤山の首へ飛んでしまった。

 それに対し赤山は、自らのナイフで、飛んでくる日本刀を防ごうとする。

 飛んでくる刀は、首に近づくにつれて刀身が砕け散り、赤山の前に落ちたときには刀身がなくなっていた。

 一方で赤山のナイフの刀身は、アーサー王の剣に長く成長していた。

 すると地面に転がった青海の柄は持ち主のところに転がり、



 ヴォンッ!



 地面をえぐって豪快に爆発を起こした。

 爆風で青海が宙に飛んでしまうところを、何とか「駆蓮奈行」くれないで先回りし、がっちり受け止める赤山。何か後悔しそうな気がしたから。


「まずいわ。あたしの柄の、想像の暴走が始まる…。」


 そう言う青海は目を赤く充血させ、お淑やかになる。


「どういうこと?」


 彼女の妙な言葉に疑問を覚える赤山。


 彼に対し、青海はこう解説した。


「あたしの『青の柄』や、あなたの『赤の柄』は、持ち主に対して愛想を尽かしたり、持ち主が悪いことに使ったりすると、想像が暴走するの。」


「赤山、もし柄の想像が暴走すると、最後に使った人に対して、想像したものが襲ってくるの。例えば、あたしはさっき、レーシングカーと、思い出の特急スーパービュー踊り子を想像してあんたを殴った。だから、最後に使った人であるあたしに、あたしが想像したレーシングカーやスーパービュー踊り子が襲ってくるわ。これは命に関わるくらい危ないから、逃げな。」


 しかし、赤山は逃げる気がなかった。


「いや、逃げないよ。僕も一緒に立ち向かうよ。」


「なんで、協力してくれるの。あたし、あんたの急所を殴って辛い思いさせたのに。」


「それって青海さんの想像が、僕を殴るために作ったものなんでしょ。だったら、その化け物をしっかり倒すことで、幸せを実感するために想像を使える青海さんになってほしい、って思っただけ。」


 赤山が青海を助けたという「後悔」の正体は、「幸せを実感するために想像を使う、青海さんになってほしい」だったのだ。

 誰かのためにだなんて、もう考えたくなかったものの、自分と青海さんを重ねてしまったからなのか。


 赤山は、そう考えていたのだ。

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剣色の夢(ダイジェスト版) チャカノリ @Chakanori

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