剣色の夢(ダイジェスト版)

チャカノリ

ダイジェスト:第一話から第三話

第一話

 川の音が林にこもる懐かしい音で、男子高校生の主人公・赤山 盾あかやま じゅんは目を開ける。

 幼い頃に遊んだ、色生神社の裏を流れる川が目の前にあった。

 赤山はその岸に立ち、木に寄っかかっていたことに気づく。

 川の中をよく見ると、幼い頃の赤山によく似た少年が、川の底から何かを引き抜こうとしている。

 直後、激しい水柱で少年が覆われた。

 水柱がおさまり、再び少年の姿が見えると、少年は赤白く光る、騎士が持つような剣を手にしていた。

 それに目を輝かせ、無邪気にかっこいいと感じる川の僕。

 そんな様子をまるで親のように慈しみ、どこか懐かしさも感じる岸の僕。

 すると岸にいる赤山は後ろから、知らない女性に冷たく声をかけられる。


「それ、あたしのなんだけど」


「えっ!?」


第二話

 夢の中で知らない女性に声をかけられたことで、目を覚ました赤山。

 気がつくと、すし詰めの通勤電車の中、出入口の方で立って寝ていたようだ。

 夢の中で聞こえた、声の主である女性がいないか周りを見るものの、いない。

 一安心すると、高架を走る通勤電車より、赤山は夢の中に出てきた川を眺めていた。


「まもなく、色生市しききし色生市しききし。」


 自分の学校の最寄り駅で降りる赤山。

 この春、彼は高校一年生になった。

 登校中やお昼休み、同じ学校である生徒はそれぞれの友達同士で集まり、和気あいあいと話す。


「けど、自分の周りには誰も来ない。」


 赤山は友達や知り合いらしい人物すらもできず、誰からも話しかけられないままでいた。

 出席番号1番の席にいつも座っているため、教室に入ったらすぐ目につく席のはずなのに、だ。

 ただ机に突っ伏しては、天板に反射して見える自分の容姿を見る日々。

 黒髪や、少し褐色の肌。オーソドックスで、避ける要素ゼロな見た目であることを確認する。

 孤独さゆえに、教室の中で独り、集団から距離をあけて隔離されているようだった。

 距離によってできるスペースがまるで厚い壁となり、彼の牢屋を形作っていた。

 そのため15:40にはいつも学校を出る。これが、中学校に入ってから続いている。

 いつも帰るとき、赤山は考える。

 学校行くたびに牢屋に入っている気分になるのなら、自分は何の罪で牢屋に入っているのか、と。


 しかし、いつも分からなかった。


 ふと帰り道。

 岩から剣を引き抜く「アーサー王伝説」に似たビジュアルのゲーム広告が、壁画としてデカデカと目に入ってくる。


 彼は思い出す。幼い頃に童話のアーサー王に憧れては、よくアーサー王ごっこで遊んでいたことを。


 そして、あのときは幸せで心一杯だったことを。


 彼は思う。高校になった今でも、あのごっこ遊びをできないかと。

 どこかから剣を引き抜いて王になることで、牢屋から脱出。

 そこから、自分も真の意味で学校に通い、楽しい友情関係を築きたい、と。


 すると気が付いた。

 

やっていて幸せを実感したはずのアーサー王ごっこは、いつしか僕が現実逃避し、惨めさを実感するための想像に成長していることに。


第三話

 想像の成長に気づいてしまった帰り道、小休憩しようと、左手にある公園公園を見る。

 すると、白いドーム状の遊具に、剣の柄が深く刺さっているのが見えた。


 アーサー王の選ばれし者の剣なのでは


 先ほど見た壁画のゲーム広告の、岩に刺さった剣の光景がよみがえる。

 引き抜かずにはいられなくなった。


 彼はこう思った。

 こんな感じの光景で、アーサーは王に変わったのなら。

 僕も、何かが変わる気がするのだ、と。

 今これを無視すれば、これからも牢獄のままだ。


 それなら今、僕は変わりたい、と。


 こうして、ドーム遊具を這い登る。

 頂上に到達すると、剣の柄が刺さっている。

 銀色をベースに、赤い柄が筋肉繊維のように走る見た目だった。

 しかし、そんな柄の刀身は果たしてどうなっているのか。

 早速引き抜こうと力んだ。

 が、力むほど時間はかからず、0.5秒で剣も、拍子も抜けてしまった


 そこに、刀身はなかった。


 柄が刺さっていた穴に、刀身らしきものはなかった。

 「もしかしたら」と何かを待つが、何も起きない。


 下に降り、後ろを振り返ると、冷淡そうな女子高生が立っており、目が合ってしまう赤山。


「ねえ、それあたしのなんだけど。」


 若い女性特有の、キツく、圧迫感ある声が、背中と耳に打ち込まれた。

 藍色の七宝柄の甚平を羽織った、セーラー服姿の女子高生。

 大体160cmの背丈で、普通の女子と変わらない高さ。

 黒目がちで、ふんわりとした色白な顔つき

 気のせいか、地面の影も僕以上に黒く、濃い。


「返してくれない?」


 威圧的な問いかけだった。

 しかし、赤山は反射的にこう答えた。


「これは君のものではない。」

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