第2話 登録
市役所にはすぐ着いた。
ショッピングエリアが市役所の近くにあると言うのもあるが、単純に市が狭いからだ。
「あ~、すみません」
「お、はぇ。
「データベースに登録しに来たんですけど…」
「お、ちょい待ち」
まるで某総理のように崩れた姿勢で新聞を読んでいたじいさんがそう言って、奥に引っ込む。
「お待たせしました、登録ですね?」
しばらくすると、今度は女性がやってきて、確認する。
「はい」
「では、こちらへ」
案内された部屋は10畳くらいの狭い部屋だった。パッと見、机を挟んで一対のソファがあるだけの普通の応接室だが、ひとつそうじゃないところがある。
それは、部屋の奥側にいろんな用具がごちゃごちゃおいてあるところだ。
あれで能力を実際に試すのだろうか。
「早速ですが発現した能力の種類は?」
訊かれる。
この人が言った種類というのだが、能力は大きく3つに分けられている。
自分に作用するか。
自分以外に作用するのか。
またはその他か。
その三つだ。
俗的には前二つを通常、最後のを特殊と呼ぶ。
通常は、出力や持久力などがあり、それにより
E-~S+に大雑把にクラス分けされている。
一方で特殊は、それに当てはまらないことが多い。例えば条件次第で変化したり、もはや出力や持久力関係ない能力だったりだ。
こうして並べても分かりずらいので、具体例を用意する。
例えば温度に関することで、「温度を下げる」という出力に大きく関わる能力が通常だとする。
そしたら、「温度を一瞬で0度にする」というのが特殊だ。
同じ能力でも個人差が出るのが通常、出ないのが特殊ってこと。
「多分、特殊です」
「どんな能力?」
「人の心が読める能力です」
「そ、うですか」
露骨に警戒と猜疑の表情が浮かぶ。
ただでさえ接客態度の悪いコンビニ店員のような話し方なのに、さらに毒が籠ってきたな。
女は欄になにかを書きながら訊いてくる。
「発現したのはいつですか?」(コイツきしょ)
………………………………
…………………
…………
……
最後に電話番号を書く。
そして、質問が終わる。
勧誘の可能性もあるらしく、その場合は長くても十日以内には電話が来ると。
正直途中から聴こえるようにしてしまった心の声が汚すぎて、ガチ目にきつかった。
まあそれはともかく、今から電話が楽しみだ。
&
日曜日。
今日は恵梨崋に誘われてる。
一時十五分くらいに、恵梨崋が指定した噴水の前に着く。
ちな、待ち合わせの時間は一時だ。
すると、恵梨崋が二人組にナンパされていた。
「よぉ、この後暇?暇だよな?どうせナンパ待ちなんだろ?誰も来てねぇし」
「や、やめてください。彼氏と待ち合わせしてるんです!」
「え?彼氏と待ち合わせ?待たせてくる男なんてもうよくね~?」
この辺ナンパ多いよな。
「あ!凪惚くん!」
俺を見つけた恵梨崋が駆け寄ってくる。
男二人は、お楽しみを邪魔されたと感じたのか不機嫌そうに顔をしかめる。
「おいおい、俺らが誘ってたんだけどぉ?」
(なんだよこいつ)
「ぎゃはは、白い髪とか中二クセェっ!」
(邪魔すんなよ)
地毛なのにどうしろと。
「この人が私の彼氏です!早く消えてください!」(よかった、凪惚くんが来てくれて)
恵梨崋がそういうと、なぜか激怒した様子で 掴み掛かって来る男たち。
なんでだよ。
日本なのに治安悪すぎだろ。
取り合えず、正当防衛の範囲が分からないから 一発殴らせるか。
「わおわお、落ち着けって。どうせお前らごときがこんな美少女捕まえられるわけないじゃん? 夢見るのはいいけど、それを行動に移す時点で頭の悪さと教養の低さが窺えるよね。全く、これが義務教育の敗北ってやつか。本当に見苦しいな。まあ、そんなわけで分かったら早く帰ってくれない?ママなら慰めてくれるかもよ?」
長文×悪口の必勝コンボ。
決まったな。
さあ、早く殴って正当防衛を成立させてくれ。
ところが。
「な、なにもそこまで言う必要ねぇだろ……!」
(心が痛い……)
「ひ、酷すぎる……人間じゃねぇ!」
(ぐはっ)
え?
なにこいつら、メンタル弱すぎだろ。
「え……」(メンタル……)
恵梨崋も同じことを思ったらしい。
まあ、男たちはどっかに消えたしいっか。
「いこっか」
「え?あ、うん!」(楽しみだなぁ)
歩き出す。
「今日はどうしたの?」
「……と、特に用があって誘った訳じゃないんだけど……迷惑、だった?」(やっぱダメかな…)
心配そうに、上目遣いで訊いてくる。
別に迷惑ではないけど、ここは……
「かなり迷惑」
「っ!」(そんな……)
やっぱだめかな、と言いつつも、心のどこかで期待していたのだろう。
「というのは冗談で、めっちゃ嬉しい」
「え、ほ、本当に……?」(え、え!)
「うん、本当に」
「もー、からかわないでよ!」(よかったぁ)
「かわいい」
「え///」(嬉しい)
「……じゃあどこ行く?」
「あ、え、うん。えーっとね、今日は………」
なんかこれ、意外と楽しいな。
人が自分の意のままに動いていく感覚。
そういやチームワークは昔から苦手だったけど、リーダーとして行動するのはそうじゃなかったよな。
むしろ好きだったような。
なんだか少し嬉しくなる。
&
二時半ごろ。
少し早いが、恵梨崋とカフェでコーヒーを飲んでいた。
「ここのコーヒー美味しいよね~」
「そうだね。でも、悪いけど恵梨崋が飲んでる それをコーヒーと認めるわけにはいかない」
「え~、なにそれ。同じコーヒーじゃん!」
「人はそれを砂糖牛乳と呼ぶ」
「コーヒー入ってるし」
「味分かるの?」
「それは……」
「それはコーヒーへの冒涜だ」
「むぅ、なんか当たりが強い……」
おっと、コーヒーへの情熱のあまり興奮しすぎてしまったか。
「そういえば、今週修学旅行あるね」
「……?」
「え、いや、修学旅行」
「……。……?」
「まさか知らなかった?」
「うん」
初耳だ。
「嘘でしょ……?みんな結構前から盛り上がってたじゃん」
「聞いてなかった……」
「えぇ……。修学旅行に興味がないとか……」
「まあ、興味はあるよ」
「なら聞いとけよ!あ、でも、てことは準備まだだよね?手伝おっか?」
驚いた。
恵梨崋がデートでそういうことしたがるとは思わなかったな。
てっきり、買い物するにしても、もっとロマンチックな買い物をしたがるのかと思ってた。
「いいの?」
「うん、備品はともかく、凪惚くん服少ないでしょ?多分修学旅行それじゃあ足りないよ?」
「まじか。じゃあ頼むわ、恵梨崋のセンス期待してる」
なるほど、服ならデートの定番か。
コーヒーを飲み終わり、ショッピングエリアの服屋が密集したところに着く。
「これいい!あ、これも!待ってて、かご持ってくる」
恵梨崋が早速選び始める。
「そんなに買うの?」
「全部は買わないよ。でも、試着ならただだし」
なるほど、これがプロとアマチュアの差か。
「……6、7、……たくさんのご試着で」
おい、店員諦めんな。
あと、生暖かい目でみてくるな。
「これと、これ、あとこれも!着てみて!」
山のようにある服の中から、恵梨崋がもっとも強く関心を持っていたセットで選び着る。
赤いインナーに濃いベージュのコート、そしてジーパン。
少し派手なんだが。
「着た」
「いい!いいよ!やはり私の目に狂いはなかった!」
「キャラ変わってるぞ」
「じゃあ次はあれとあれ組み合わせて!」
「え、そこ組み合わせるの?」
「うん、絶対よくなるって!」
「おお、確かに。このフィット感!」
そんな感じでしばらく遊んでいた。
初めは微笑まし気に見守っていた女店員も、 最後には迷惑そうにしていた。
&
「はあっ!楽しかった!」
「それはなにより……」
俺は結構疲れていた。
「……その、ごめんね?はしゃぎすぎちゃって。楽しくなかったよね?」
「いや、俺も楽しかったよ?まあ、まさか恵梨崋があそこまで興奮するとは思わなかったけど」
「興奮って……でも、それならよかった」
「うん」
会話が途切れる。
だが、気まずい沈黙というわけではなく、むしろ恵梨崋はどこか嬉しそうに見える。
「この後、どうする?」
(え、これどこに歩いてるの!?この方向って、もしかして!?)
「どうする?」
マナーにそって質問し返す。
「え~?今どこ向かってるの?」
(や、やっぱそうだよね!でも入れるのかな?)
別にこいつが好きというわけではないが、可愛いし、今はいい雰囲気だ。
なにより、こいつは処女っぽい(迫真)。
一回するか。
「恵梨崋って、明日まで大丈夫?」
「えっ!?そ、それって……」
(ま、まさか本当に……?)
「この先。なにがあるか知ってる?」
「……うん」
(え、本当の本当に……!?い、一応装備は万全だけど!)
「……じゃあ、行こっか」
「……うん、行く」
案の定、恵梨崋は処女だった。
&
恵梨崋を送ってから家に帰る。
いや~、よかったよ!
なんかピロートークで「私たち、付き合ってるんだよね?」とか言ってきたときは、さすがに笑いそうになった。
まあ、結構タイプだったし、しばらくは遊んでやるか。
ドアを開ける。
ーカチャ
「ただいま~」
あれ、返事返ってこないな。
出掛けてる?
どうでもいいか。
リビングに着く。
「あ、凛花。いたなら返事くらいしろって」
「……」
「……凛花?」
「……」
へんじがない。
ただの しかばねの ようだ。
ま、そんなこともあるか。
気にせず朝食を作ろう。
今日は肉の気分だ。
サーロインステーキでも作るか。
冷凍庫から某会員制スーパーにて10kgで買った牛たちの内サーロインを取り出す。
朝だし、軽めに400gくらいでいいな。
焼きながらニンニクたくさんいれ、塩コショウ、塩(岩塩×ニンニク)も致死量入れる。
俺は昔から味が濃いものを食べ過ぎて、消化器官が鍛えられている。
自慢できない特技ってやつだ。
よし、できたし早速食おう。
だが、その前に凛花に呼び止められる。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「……」
「どうしたの?」
「……昨日から、なにしてたの?」
あ、やべ。
いつもは事前に手を打ってたからばれてなかったけど、今回はなにもしてないんだった。
「……ああ、ごめん、夕飯いるかどうか連絡すべきだった」
「……」
一生懸命考えたのに、なんで黙ってるんだよ。
無表情さも相まって怖すぎる。
「えっと、次からは連絡する」
「なに、してたの?」
「……友達と遊んでた」
「友達?まさか、女じゃないよね?」
……え、これってやっぱり嫉妬?
嫉妬なのか!?
「……嫉妬してる?」
「答えて」
(お兄ちゃんに悪い虫が付いちゃった……っ)
相変わらず無表情だが、当たってたようだ。
「オンナ ジャ ナイ ヨ」
「やっぱ女なんだ」
(お兄ちゃんが取られた…)
「女じゃないって」
「もういい……」
(お兄ちゃんが、取られた………っ!)
「あ、待って」
ードンッ
リビングのスライドしきのドアが強く閉められる。
そしてそのまま部屋に戻ったようだ。
まさかの嫉妬とは。
凛花はもっとクールな感じなはずなんだけどな。
まあ、そのうち機嫌直すだろうしほっといていいだろ。
ゲームでもしようとして切り替えた俺だが、しかし、対する凛花はその限りではないようで、色々言っている。
(お兄ちゃんが、取られた……!脳が、脳が破壊される……!ハア、ハア………)
……おっふ。
まさかの性癖。
こんなの知りたくなかったな。
まあ、これからはこっそりじゃなくて大胆に遊べるってことだし、素直に喜ぶか。
いや、喜んでいい、のか?
この外道な能力を持った俺は 消灯 @mamedennkyu
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