この外道な能力を持った俺は

消灯

第1話 発現

 それは、前触れもなく唐突に起こった。

 世界の見え方が変わる。


 「……え?」


 「ん?どうかした?」


 「あ、いや、なんでもない。続けて」


 「うん。それでね、………」


 なんだ?


 クラスメイトの恵梨崋えりかを適当にあしらう。


 今一瞬、周りの声が大きくなったような……。

 人が多く集まるショッピングエリアだけに、錯覚しただけか……?

 いや、だがあれは確かだった。

 それこそ、まるで


 「……!……ん!凪惚くん!」


 「おん?」


 「おん?って……。さっきから私の話ちゃんと聞いてるの?」(なんだよ、せっかくのデートなのに)


 「ぇ?、あ、ごめん。なんの話だっけ?」


 「もう。ちゃんと聞いてよねっ?」(本当にしょうがないんだから……)


 「ああ、ごめんって」


 まただ。

 それに、恵梨崋の声もダブルで聴こえた。


 恵梨崋を見る。茶髪で、幼さの残る顔立ち。  

 くりくりの大きな目に、主張しすぎない鼻筋のとおった鼻。薄いピンクの唇は、楽しげに笑っている。

 控えめに言って、かなりの美少女だ。

 


 「それでね、その子なんて言ったと思う?」

(まさかそのまま告白したとは思うまい……っ)



 聴こえてきたことが、そのまま口から出る。



 「告白した?」


 「ぶっぶ……へ?あ、あってる!?なんで分かったの!?」(うそ……)


 「あ~、それはぁ……企業秘密ってことで」


 「え~?つれないな~」(やっぱ話してて楽しいな。私、本当に好きなんだ)



 なんか聴いてはいけないことを聴いたような。


 いや、気のせいだろう。


 まさかな。


 「恵梨崋」


 「どした~?」(?)


 そんなこと、あるわけがないだろ。


 「お前、好きな人いる?」


 「え!?な、なんで急にどうしたの??何かあった?」(え、え?)


 まじ……?


 「お前、俺のこと好きだろ」


 「っっ!な、なに言ってるの!?急に、おかしいよ!今日の凪惚くん、なんかおかしい!」

(バ、バレてる!?なんで?なんで今日はそんなつもりじゃなかったのに……!)


 なんだ?これ。

 本当に?

 そんな不信感が顔に出てたのか、恵梨崋はさらに焦る。


 「きょ、今日はありがとね!楽しかったよ!

じ、じゃあ、また明日ね!」(あ、ど、どうしよう……っ!)


 あ、まずいやつだ、これ。

 最悪さらしあげられて、笑い物だ。


 後悔が俺を襲い、思わず頭を押さえる。  


 ああ、なんで……。

 なんで、急にあんなこと言ったんだ。

 明らかに、普通じゃない。

 完全にしくじった。


 どうしようもない気持ち悪さを胸に、俺は家に帰った。




 &




 家に帰ると、妹の凛花が飛び込んできた。

 俺のひとつしたで、高一。

 義妹らしいが、そうなったのが昔ぎてよく覚えていない。

 


 「おかえりっ!」


 「ただいま」


 返事を返す。

 あの声が二重になる感じはしない。

 やっぱり気のせいだったか?

 家に上がろうとするが、なかなか凛花が退かない。


 「ちょっと入らせて」


 「……今日、まさかデートしてたわけじゃないよね?」


 「え?」


 「っデート、してきたの?」


 思いもしないことを言われ、面食らう。

 デートかと言われれば、素直に肯定できない。

 確かに形だけなら、デートとも言えなくもなかったが……。


 「ううん、違うよ」


 「そっか。なら、お兄ちゃん女物の香水の匂いがするんだけど……なんで?」


 凛花は、いつもならこんなことはしない。

 どうしたんだ?

 なんでこんな敵意を剥き出しにしているんだ?


 「ねぇ、答えられないの?」(私だけのお兄ちゃんのはずなのに…!)

 

 再び声が二つに重なって聴こえる。

 またかよ、なんなんだ?


 「学校のことで打ち合わせがあっただけだよ」


 「ほ、本当?」(まさか、恋人じゃないよね?)


 「うん、本当。たまたま同じイベントの実行役だったことあっただけ」


 その後は普通に遊んでたが。


 「そっか、ならよかった。でも、もうその人とは合わないでね?」(発情したメスくさい)


 「え?う、うん。分かった」


 「もうお風呂沸いてるから入っちゃって~」

 (よかったぁ)


 今、凛花の口がとんでもなく悪かった気がするが……いや、俺のかわいい妹があんなこと言うわけないよな。空耳空耳。



 「あ゛~」


 おっさんのように風呂に入り落ち着く。


 また周りから声がしてうるさい。なんなら凛花の声も未だに聴こえる。でも、こもった感じがしてよく聞きとれない。

 ……いや、凛花の声ならギリ聞き取れるか。


 (今日はお兄ちゃんの大好きな油ぎとぎとマシマシ肉~。喜んでくれるかな♪)


 お、まじか。

 さすが凛花、分かってる。


 でも、これがあってたら一発でそうだよな。


 この二重の声のうち片方、肉声じゃない方は 心の声かもしれない。


 さっきは、幻聴がたまたまあたっただけだと思っていたが、これで夕飯が俺の好物だったら間違いないと言えるだろう。


 妄想なら、そんな的中率あり得ないし。


 確信に近い考えを胸に、リビングに入る。


 「あ、お兄ちゃん。今日の夕飯はなんと、お兄ちゃんの好きな油ぎとぎとマシマシ肉だよ!」


 「お、まじか。さっすが凛花、分かってる~」


 「めっちゃ棒読み。……もしかしてあんま嬉しくなかった?」


 不安げに、上目使いで訊いてくる凛花。


 「いや、そんなことないよ?ただちょっと疲れてて。」


 「大丈夫?キツいなら食べずにもう寝ちゃってもいいけど……」(やっぱ女のせい!?悪い虫ははらわないと…!)


 「ううん、大丈夫だよ。食いたい」


 「そっか!でも無理しなくていいんだからね?」

(本当に大丈夫かな……?)


 「うん、大丈夫だって」


 夕食の油ぎとぎとマシマシ肉は、まじでうまかった。



 &



 部屋。

 ベットの上で考える。


 あの二重に聴こえてくるのって、多分頭の中 だよな。

 恵梨崋は分かりやすいから、勘があたっただけの、ただの幻覚や妄想の類いとしても説明が付いた。だが、夕飯のことには付かない。

 

 これは、能力が発現したのじゃないだろうか。


 日本には、PSAA(国家能力機関)という組織があるが、そこにはたまに生まれる能力者たちが集まり、同じく能力者による犯罪などを取り締まっている。


 能力については、使えるものから使えないものまで、ピンからキリまである。極端な例でいくと、最初の能力者と言われるある芸人はメガネをあげる能力 (ただし実用性のないメガネに限る) という能力だった。対し、国中どころか世界にも絶大な人気を誇るPSAAのトップは、片手間に天候を変えるなど、それこそまさに神話のような力を持つ。


 そして、能力を手にした者は、当然みんなの 憧れであるPSAAに入ることを希望する。


 もちろん俺も例外ではない。


 「この能力なら、きっと採用だ」


 人の考えが完璧に分かる能力だ。

 弱いわけがない。


 「早速明日データベースに登録しないとな」


 この国にはデータベースというものがあり、能力者は市役所などでそれに簡単に登録できる。

 登録は義務ではないが、登録した場合は金が 貰えたり、履歴書にも記入できたりと少し優待される。

 まあ、金といっても数万くらいだし、就職に有利になると言える程の効果はないが、登録しておくに悪いことはない。


 なにより、優秀だと判断されると、その場で 

勧誘されることもあるという。


 「早く明日にならないかな~」


 今日を振り返ってみて、発動条件もある程度判ってきた。

 期待に胸を膨らませながら俺は眠りについた。




 &



 「──お兄ちゃん!起きて!?遅刻するよ!」


 「……ぁと5時間……」


 「なに寝ぼけてるのっ!今日は用事があるんでしょ!?遅れても知らないよ!」


 「ぁ……あ!やべっ」


 意識が覚醒してくる。

 あれから楽しみ過ぎてしばらく寝れなかったんだった。


 今日は土曜日だが、恵梨崋とは連日打ち合わせや準備をする予定だった。

 恵梨崋だけならいざ知らず、もう一人くるやつがこういうのに厳しいので早めに起こして貰ったんだ。


 「まずい、今何時!?」


 「もう十時だよ!」


 「九時っていったろ!」


 「それはぁ!……ごめん、私も寝ちゃった」


 若干申し訳なさそうに言う凛花。

 ここで凛花にあたるのも違うと思い、プロテイ ンバーを口に葬り急いで出る。


 まずい、待ち合わせは十時からだから、確実に遅刻だ。


 集合場所に付くと、近くのカフェで飲み物を飲んでいる二人を発見する。

 

 そのまま店に入り、同席する。


 「あ、やっときたの?遅いんだけど!」


 座るなり、向かい合う形になった女がそういって怒って来る。

 幼馴染の雪葉ゆきはだ。

 ダークブタウンの髪をツインテールにしていて、顔はかわいいのに、無駄に偉そうな態度が 生意気な印象を与えている。

 無償に分からせたくなるタイプだ。


 「ごめん、遅れた」


 「はぁ?ごめんで済むと思ってんの?ここの飲み物は凪惚のおごりだから!」


 「ごめん、恵梨崋」


 「ううん、気にしなくていいよ。ただ、ちょっと以外だったかも。昨日もぴったりだったし、凪惚くんが遅れるなんて思わなかった」


 思いの外、昨日のことは気にしてなさそうだ。


 「こいつはいつもはこんな感じよ!恵梨崋がかわいいから張り切っちゃっただけなんじゃない?」


 「え、え?そうなのっ?」


 「まあ」


 だが、俺が全面的に悪かろうと、こいつに言われるのは癪だし言い返す。


 「でも、遅い、か。そういえば、雪葉のおねしょも直るの遅かったよなぁ」


 「はっ、ちょ、それは!」


 「なんかいつも庭に布団が干してあったっけ。 あれが雪葉おねしょのせいだったなんて聞いた時の衝撃は──」


 「あああぁぁああぁあああ!黙れ!黙れっ!!」


 恥ずかしい過去の一部を流していたら、雪葉が羞恥に顔を真っ赤にし、涙目で口を塞いできた。

 急にどうしたんだよ。


 「え、えぇ……」


 恵梨崋も引いてる。


(そんなに躊躇無く暴露するなんて……)


 あ、そっちか。

 まだまだ序の口だぜ?


 まあいい。

 とりま口を塞ぐ雪葉の手を舐める。


 「ひゃっ!?な、舐めるな変態っ!しねっ!!」(友達の前なのにっ、最低…っ!)


 「美味しい」


 「っきもい!」


 「照れんなって」


 「照れてない!」


 遅刻のことも誤魔化せたし、話は平和に進んだ。

 なぜか、雪葉は話もせずにずっとこっちを睨んでいたが、些細なことだろう。



 この後は、不貞腐れて帰った雪葉を除く二人でしばらく食べ歩きやショッピングをし、昼食を食べてから解散となった。


 さて、お実験もすんだ。

 お待ちかねの市役所に行きますか。

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