自主企画参加作品 リンゴと蟹とちびっこと
こちらは風雅ありす様の自主企画
「薬を飲んで身体が縮んでしまった?!」あなたのオリキャラで掌編☆
https://kakuyomu.jp/user_events/16818093089927112427
に寄せて書かせていただきました。
いや……どうも元を辿るとDiscordの雑談でこのテーマを出したのは私らしいのですが……。
言い出しっぺが書かないわけにもいかん!ということで書き下ろしいたしました。
二次創作の中のオリキャラのパロディという妙なことになっていますが、シアハニー・ランデヴの作者、ジャック様からは「やってよし」とご許可をいただきましたので遠慮なくやりました。
なお! この作品は!
シアハニー・ランデヴ
シアハニー・リンク
本編とは一切関係のない、パラレルな世界線というかパロディというかそういう感じなのでよろしくお願いいたします!
では、どうぞ!
▽▽▽
「あ、あ、あ、あ、アーロンさん!」
「おや、お嬢さん。どうかしたかね、そんな切羽詰まった様子で。まずは落ち着きたまえ、深呼吸だ」
取り次がれた電話に出たアーロンの耳に飛び込んで来たのは、それだけでどんな様子かわかる声音だった。
声の主、ジャニスを落ち着かせるようにアーロンはあえてゆったりとした調子で応える。
「は、はい。スーハー……スーハー」
素直に指示にしたがったジャニスの深呼吸が電話越しに聞こえてくるのにアーロンは吹き出しそうになり手でクツクツと漏れる笑いを抑えた。
「よしっ……もう大丈夫です」
「うむ、それでどうしたのかね?」
「それが……」
▽
「ただいま戻りました」
いつものように外回りからジャニスがCriminal の事務所に戻ったときのことだった。
出迎えてくれるはずのラッカムの気の抜けた生返事が聞こえてこないことに首を傾げるとジャニスはラッカムの定位置であるデスクに目を向けた。そしてラッカムではない人物がいることに気づいた。
「だ……ど、どちら様ですか?」
「ジャ、ジャニス! あ、姉貴の持ってきたチョコレートを喰ったらこんなことに!」
「……? っ?! っ?! ラッカム……さん?!」
そこにいたのは見たところジャニスより少し上くらいに見える青年だった。服装はワイシャツにスラックスをラフに着崩している。それはラッカムの普段の格好と全く同じであった。
自分の名を呼ぶ青年に数瞬の混乱と驚愕の後、恋しい相手の面影を見いだし何とかジャニスはそれが誰であるか気づくことが出来た。
「ラッカムさんが! わ、若返ってます?! なななななななんだってこんなことに!」
「俺だってわからねぇよ! な、何とかしてくれ!」
「な、何とかって言われても!」
「あ、姉貴の事だから何か妙な薬でも盛られたのかもしれん!」
「薬!? っていうかお姉さんいたんですか?!」
知らされていなかったラッカムの家族構成を知り、さらにジャニスは混乱と困惑を深めた。
というか薬を盛ってきかねない姉とはどんな奴だ。
とにかく誰かに相談しなければとジャニスは咄嗟に思い付いた相手の電話番号のダイヤルを回し始めた。
▽
「カクカクシカジカというわけでして……」
「若返りか……心当たりはあるよ」
「知っているのですか、アーロンさん!」
「うむ。聞きたまえ」
裏の世界にいるアーロンなら、ラッカムの状態について心当たりは無いかと相談してみればどうやら見事大あたりらしい。ジャニスはアーロンの言葉に熱心に耳を傾けた。
「ある強力な毒が一定の条件下において身体の幼児退行……すなわち若返りを引き起こすことが裏では知られているのだがね。その若返りの効果だけを再現しようという試みが密かに行われていたのだ」
「……そんなことが」
「もっともそれも上手くはいっていないようだが……アレルギー反応により若返りの効果が発生することは何とか分かったらしい」
「アレルギー……ですか?」
「うむ」
アレルギーというと、身体の免疫の防衛反応が過剰に働くことにより逆に身体に重篤な障害を引き起こすことだ。アレルギーはかなり個人差がある為、たしかに効果の再現は難しいだろう。
「ちなみにそれらを引き起こす物質も判明していてね。なんでも砂糖のたっぷり入ったコーヒーとリンゴとアルコール、それと蟹を短時間に摂取することで引き起こされるらしい。発生するかどうか個人差はあるが15歳前後若返るそうだ」
「……少し失礼します」
ジャニスは一度受話器を離すとラッカムに問いかけた。
「ラッカムさん、あの、間食に何か食べました?」
「何って……姉貴の持ってきたどこぞの土産のチョコレートだが」
「見せてください」
「ほれ」
ジャニスが受けとったパッケージにはきっちりとアップルバーボン入りチョコレートだと書かれていた。
「……ラッカムさん、コーヒーに角砂糖は?」
「6つ」
「……あれ? でも蟹は……」
「蟹? あぁ、小腹が空いたからクラブサンドを食ったな」
「カニカマ入りの?」
「カニカマ入りの」
ジャニスは電話口に戻るとアーロンに報告した。
「全部食べていました」
「間違いないようだね」
「あの……どうしたら戻りますか?」
「ふむ。たしか時間経過でも治るそうだが……やはり個人差があるらしい。長いと数ヶ月もかかるらしいが」
「こ、困らないけど困ります!」
「あぁ、あとはたしか急激に心拍数や血流、血圧がある値を越えると一気にアレルギー反応が沈静化することがあるそうだ」
「……えーと、つまり」
「うむ、極度の緊張や興奮、羞恥。あとはかなり激しい運動が効果的だろう」
「あの……それ……は……」
「うむ、励みたまえ」
「ではな」とそれきりアーロンは電話を切ってしまった。
ジャニスはゆっくりと受話器を降ろして何か思い詰めるように俯いた。ラッカムからその表情は見えない。
「お、おい。ジャニス? どうだった? 治るのか?」
「……」
「ジャ……ジャニス?」
不安気に声をかけるラッカムに向け顔を上げたジャニスの目は混乱の余りに焦点があわずぐるぐるとしてしまっていた。
頬も紅潮して肩で息をしている。
そのままゆっくり、ゆっくりとジャニスはラッカムに歩み寄っていった。
尋常ならざる様子にラッカムはゴクリと息を飲む。
「フー、フー」
「落ち着け! なんだかわからんが落ち着け!」
「大丈夫です……大丈夫ですから!」
「どこも大丈夫には見えねえんだよ!」
逃げ出そうとしたラッカムにドンっと床がなるほどの踏み込みで距離をつめたジャニスは目測を見誤ったのか体当たりのようにラッカムを押し倒してしまう。馬乗りの姿勢で、ラッカムの首元のボタンを外すと荒い息遣いのまま前のめりにラッカムに顔を近づけていく。
互いに心臓が高鳴りどちらのものか分からなかった。
「(うわぁうわぁラッカムさん若い近い格好いい!い、いえ!普段のちょいダル渋オジだって全然格好いいんですがこの若ラッカムはちょっと反則というか肌がまだきめ細かいしヒゲもなぜか無いし目がキラキラしてるし意外と睫長いし無駄な贅肉も無いしヤバヤバヤバいです好きです大好きですぅ!!)」
「お、おい! せめて何か言え! 目がヤバいって! 正気に戻れ!」
顔と顔との距離がどんどんと短くなる。
ジャニスの紅潮した顔に反比例するようにラッカムの顔が青ざめていく。
額が触れ合うか触れ合わないか、その瞬間だった。
どういう原理か意味不明だったがボフンという間抜けな音と共に煙が巻き起こる。
「うわっ」と驚いて正気に返ったジャニスは身体を起こすと手をパタパタと振って湯気のような白煙を散らした。
煙の向こうにはいつもの老け顔のラッカムが戦慄したような表情で固まっていた。
「も、戻りました!」
「な、ほ、本当か!?」
言うまでもなく、ラッカムは正気に戻ったか?という意味で言っている。
ジャニスはラッカムの上からいそいそと飛び退きパッと手鏡を向けた。無精髭を撫で付けながら顔のアチコチを確認しラッカムはホォっと息を吐いた。
「おぉ……治った」
「よ、良かったです」
「つうか説明してから何かしろよ! 殺されるかと思ったぞ!」
「はぁあああ!? ち、ち、違いますよ!」
「じゃ、何するつもりだったんだよ! あんなに殺気立ってよ!」
「そそっそそそそれは……ききっきききしゅを」
「キル?」
「――っ! 違います違います!」
「あ、結局何が原因なんだよ! どうやって治したんだ? なぁ!?」
「教えませんっ! このニブチン!!」
昼下がりのCriminal にジャニスに綺麗なビンタの炸裂音が鳴り響く。なんだかんだあったが結局2人の関係はまだ進展しなさそうだった。
▽
▽
「アトキンス君は何R保つだろうか」
「……は? と言いますと?」
アーロンの独り言かどうかよくわからない呟きに、護衛であるロバートは一応尋ね返した。
「いや、もしジャニスのお嬢さんが全力で彼を仕留めにいったらどのくらいでダウンするかと思ってね」
「体格さもありますが……それを覆すだけの技量と実績が彼女にはあります。1R以内かと」
「いや、アトキンス君も元警察だ。それなりに喰い下がると思う。2R」
「……それでなぜ、このようなシミュレーションを?」
「うむ。ほら例の若返りの毒があったろう」
「あぁ、あれですか」
「アトキンス君があれの疑似アレルギーに当たったらしい」
「それは……あの食い合わせをしたのですか?」
「うむ。それでお嬢さんに興奮や羞恥、激しい運動が治療方法だと伝えたのだよ。彼女ならやはりボクシングが最適だとすぐに気づくはずだ。あのリカルドの娘なのだからね」
「……そ、そうですね」
「大の男が美しい女性に一方的に負ける……近くで見たかったよ」
「そ、そうですね」
ロバートはおそらく、いや間違いなくジャニスは別の意味に捉えているだろうなと思ったがアーロンの妄想に水を差すのもなんなので言葉には出さなかった。
▽
▽
「なぁ……機嫌直せよ」
「むー」
昼食を取っている最中も不機嫌に頬を膨らませているジャニスにラッカムはどうしたもんかと頭を悩ませていた。
「ほら、今日のベーグルサンドはシーフードだぞ。好きだろ? 俺のも食べていいぞ」
「むん、むぐもぐ」
「ほら、チョコレート。これは問題なかったんだろ? 高いやつだぞ」
「む、あ、美味しい……」
「ちょいと甘いが旨いだろ? コーヒーいるか?」
「……いただきます」
ようやく機嫌の直りかけたジャニスに苦笑しながらラッカムはコーヒーを2人分淹れて持ってくる。
「ほれ、ブラック」
「……ありがとうございます」
ジャニスは薫りをゆっくり楽しんだ後、熱いコーヒーを軽く冷ましてから口をつけた。
その瞬間だった。
「え、えっえ」
「な! なんだぁ!」
ラッカムの見ている目の前でみるみるジャニスの身体が縮んでいき、余った袖や裾がぶらぶらと下がってもなお止まらない。
あっという間に5,6歳児ほどの体格と見た目になってようやく身体の変化は止まったようだ。
ジャニスはぶかぶかの服をなんとか寄せて必死に身体を隠していた。
「こ、これ! まさかおなじ……」
「おい! どうなってんだこれ!」
「た、たぶんラッカムさんとおなじようにアレルギーでわかがえってしまったんですよ! でもなんで?!」
「アレルギー?」
「えーと……リンゴとアルコールとカニ、あとさとうたっぷりのコーヒーをいちどにせっしゅするとこうなるらしいです!」
「えらく限定的な上に非常識だな!?」
若干舌足らずのジャニスがアレルギーについて捲し立てる。
ラッカムは周囲を見回すとベーグルサンドの包みにある項目を見つけた。
「おい! 生地に蟹エキス入ってるぞ!」
「み、みがはいってなかったからゆだんしました!」
「……チョコ喰ったよな」
「リンゴとアルコール……でもコーヒーはブラックで……」
「……チョコの砂糖だ……チョコの甘味は砂糖だ!」
「あーー!」
「どうすんだ、おい! ジャ、ジャニス! 治し方聞いたんだよな? 教えろ!」
ラッカムに尋ねられたジャニスはぼっと赤面するとイヤイヤと首を振る。
「むりです! だめです! おしえられません!」
「何でだよ!? 何とかしなきゃならんだろうが!」
「むーりーでーすー!! っていうかなんでこんなにはずかしいのにもどらないんですか?!」
「はずかしい?」
「わー! わー! うわぁあああ!!」
「逃げるな! 走り回るな!」
Criminal の事務所はあっという間に新米保育士とちびっこの織り成す騒がしい託児所の如くの阿鼻叫喚の有り様だ。テナントが他に入っていないのがせめてもの救いだった。
▽
そ! し! て!
「やです! やです! ひとりではいります!」
「バカ言うな。ちびを1人で風呂には入れれないだろ」
「ちびじゃないです!」
「今はちびなんだよ、諦めろ! 走り回ってコーヒー被ったのはお前だろうが」
「うぅううううう」
ラッカムから逃げ回っていたジャニスは結局だぼだぼの裾を引っかけ盛大にすっ転び、飲みかけのコーヒーを頭から被ってしまった。火傷こそしなかったが頭からコーヒーのいい薫りがしている。
いつ元に戻るかもわからない為1人にしておけないとラッカムの自宅アパートまで連れ帰られ今まさに風呂に入れられようとしていた。
さすがにラッカムは裸では無く濡れてもいいようなTシャツと短パンスタイルだ。
タオルを身体に巻き付け簀巻き状になっているジャニスは涙目で拳を繰り出し必死に抵抗していたが、幼女とオジでは勝負は見えていた。
「よっと」
「あぁ!」
さすがにラッカムもひんむくような真似はしないが、ジャニスは簀巻きタオルのまま風呂場に抱えて連れていかれた。
されるがままにぬるま湯を頭からかけられて、後ろからワシャワシャとシャンプーを泡立てられる。
ごつごつした手は意外と優しい手つきだった。
「うぅううう、みじめです」
「仕方ないだろうが。ま、こんなちびじゃ欲情したりしねえから安心しろ」
「それはそれではらがたちます」
「どうしろってんだ……」
後ろ姿でもムスっとしているのがわかるジャニスに苦笑しながらラッカムは「ほれ目、閉じろ」と頭の泡を流していった。
「身体は……まぁタオル越しに流すだけでいいか」
「はぃ」
ラッカムがシャワーをざーっとタオル越しにかけて身体を流していく。湯を吸って重くなったタオルをプルプルと震える小さな腕でジャニスはずり落ちないようにしていた。
「こんなことしてると、あのモーテルを思い出すなぁ」
「……なんですか、またはだかをみるつもりですか」
「アホっ……いや、うん、まぁ、そういう意味で思い出してはいたが……」
ラッカムがデリカシーの欠片もない発言をしたその瞬間だった。色々思い出してまた一気に赤面したジャニスからボフンと間抜けな音が鳴る。
白い湯気のような煙にラッカムが目をしばたかせると晴れた向こうにはお約束のようにタオルがパージされて裸体を曝してプルプル震えているジャニスがいた。
「……う、うぅううう」
「あー……うん。成長したな、ジャニス」
「ラッカムさんの……バカァあああああ!」
ジャニス、人生最高の右ストレートがラッカムの鼻っ柱に叩き込まれ、血煙を上げラッカムが宙を舞う。その表情は、どこか満足気でもあった。
シアハニー・リンク 雪月 @Yutuki4324
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。シアハニー・リンクの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます