働かざる者、食うべからず?①
魔王城に招かれて知った、リカルドの名前。そして彼が魔王であるという事実も、小夜はそこではじめて知らされた。
リカルドは魔王としてはかなり優秀らしく、口が悪いながらも魔族のみんなからも慕われている。とはいえ人間との友好な関係を好まない、一部の者たちからはよく思われていないようだけれど。
でも彼の代になり魔族も人も格段に暮らしやすく、命の危機なく過ごせるようになったのだと、リカルドの臣下たちは口を揃えて褒め称える。実際小夜も、クレアからそのように聞かされていた。
最初小夜は魔王城で、客人として扱われていた。しかし次第にそれを小夜は、居心地が悪く感じるようになった。
リカルドには何もしなくて構わないと言われたが、それでは小夜の気がすまない。
なのでレオに、なにか仕事を与えてくれないかと自分から申し出た。
今にして思うと、これが良くなかったのかもしれない。そう。この申し出のせいで彼の寝室に、自ら足を踏み入れるきっかけを作ってしまったのだから。
「うーん……。サヨ様にできるお仕事、ですか? あ、そうだ! では、サヨ様。リカルド様に、寝酒をお届けする係をお願いしても?」
「リカルドに、寝酒を届ける係……?」
「ええ、そうです! リカルド様は、いつも寝付きがとても悪くて。これまでこれは僕のお仕事だったのですが、正直夜遅くまで起きているのがとても辛くて……。でもサヨ様が担当してくれるようになったら、リカルド様はきっとよく眠れるようになると思うのです。なので、サヨ様! ぜひとも、お願いします!」
瞳をキラキラと輝かせるレオ。思わぬ仕事内容に戸惑い、返事に困っていると、レオは涙目で小夜の顔を見上げた。
「よろしくお願いします、サヨ様! サヨ様が引き受けてくださったら、リカルド様もきっとお喜びになると思います!」
……本当に、喜ぶのだろうか?
レオの言葉にはなんとなく納得がいかないものの、自分からなにか仕事はないかと聞いた手前ちょっと断りづらい。そう考えたからとりあえず今夜だけという約束で、小夜はその役目を引き受けることにした。
***
そして迎えた、運命の夜。小夜は気合を入れて、リカルドの部屋のドアを軽くノックした。
しかし待てど暮らせど、返事はない。
だがここまでは、想定の範囲内。
仕事に夢中になりすぎて、反応がない場合があるとレオからも事前に聞かされていたからだ。
スゥと大きく息を吸い込んで、今度は大きな声で告げた。
「こんばんは、リカルド。小夜だよ、開けるね?」
この日小夜は自らの意思で扉を開けて、はじめてリカルドの部屋に入った。
そこは私室と言うにはあまりにも味気なく、どちらかというと仕事部屋といった雰囲気の空間だった。
机に向かい、こんな時間まで事務仕事をしている勤勉な姿には頭が下がる。
しかしそれが連日続いているのだと思うと、褒める気分にはなれなかった。
「なんで、サヨが……? レオはいったい、どうしたんだよ?」
困惑したように聞かれ、小夜は苦笑した。
「なにか仕事をくれないかって、僕がレオに頼んだんだよ。だから今日からは、僕が君の寝かしつけ担当!」
ツカツカと歩み寄り、テーブルの端にあらかじめ用意してきた酒を置いた。
「それにしてももうすぐ日付が変わる時刻だというのに、まだ働いているの? 悪い勇者に襲われても、しらないよ。ワーカーホリックの、ま・お・う・さ・ま!」
ツンツンと、リカルドの頬をつつく。するとリカルドは、形の良い唇を迷惑そうにへの字に曲げた。
それがなんだかおかしくて、小夜は思わずプッと小さく吹き出してしまった。
するとリカルドはようやく書類の束から手を離して、小夜のほうを向いた。
「寝かしつけ担当、ねぇ。もしかしてそれは、夜這いの口実だったりする?」
小夜の顎先に伸ばされた、リカルドの節張った男性らしい指。
いたずらっぽくにやりと笑うその仕草は、目に毒なのではないかと思うほど色っぽい。そのため小夜は、思わずゴクリとツバを飲み込んだ。
それに気づいたらしいリカルドの形のよい唇が、楽しそうに弧を描く。
「なるほど、正解だったようだな」
「え……!? リカルド、違……!!」
魔王はクスクスと笑いながら腕を伸ばしてきて、小夜が反論する間もなくゆらりと立ち上がり、そのままベッドに押し倒した。
どうやら勘違いさせてしまったようだと気づいたが、後の祭り。そのままリカルドに、あっさり組み敷かれてしまった。
「待ってよ、リカルド! 本当に僕は、そんなつもりじゃ……」
真っ赤な顔のまま否定の言葉を口にしたけれど、リカルドはまたククッと楽しそうに笑った。
「もう黙れ。今はもっと、違う声が聞きたい」
そのまま唇をキスでふさがれ、言葉はすべて奪われた。
小夜だって、二十歳を越えた立派なおとななのだ。
だからこうした経験が、まったくないわけじゃない。……とはいえそれは、いつだってキス止まりだったけれど。
リカルドのことは、嫌いじゃない。むしろたぶん、好きなのだろうと思う。しかし自分たちは、付き合っているわけじゃない。なのに、なぜ?
最初は単に、いつもみたいにふざけているのかと思った。だけど熱い口づけを受けて、そうじゃないのだと思い知らされた。この美しい魔王に、自分は本当に求められているのだと。
次第に乱れ始めた呼吸。それに気をよくしたのか、リカルドの大きな手のひらが真っ白な小夜の太ももへと伸ばされた。
恋は曲者〜助けた魔王に、監禁(?)されています〜 ryon* @ryon61
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