第2回

「それってどんな人?」

と、私はつい、口をはさんでしまった。

「もちろん、ミステリーオタク!」

私は、吹き出した。

「それは、いいかも」

私は、笑いながら、「花田先輩と、絶対気が合いますってーーだから、一度くらい出てやったら」

「ミステリーの話なら、ここでいくらでも出来るから」

花田先輩が、まじめな顔で応えた。

うーん、そういうことじゃないよね……。

私が呆気にとられてる間に、花田先輩のケータイが鳴った。

「ーーうん……」

花田先輩はしばらく話した後、冬野部長に向かって、「香里から」

「なんだって?」

と、冬野部長が訊く。

「香里のところ、今日はすき焼きなんだって」

と言うと、花田先輩は苦笑すると、「ネギを買い忘れたから、買って届けてほしいって」

「まあ、すき焼きにネギは必須食材だからな」

冬野部長は、笑いながら、「まあ、俺は肉さえあれば何でもいいけどね」

そういう問題じゃないと思いますけど……。

私は、目が点になった。

「そういうことなんで、僕は帰る」

と言って、花田先輩は後片付けを済ませ、ぶつくさ言いなからも、嬉しそうに(?)部室を出て行った。

「ネギを届けたついでに、あいつもすき焼きをおよばれするのか?」

と、蒼天が目を丸めて訊いた。

「届けるだけだろ。香里と慶次の家って、本当にすぐ近くだからな」

と、冬野部長はあっさりと言う。

冬野部長は、何も感じないらしい。

「だったら、冴島が自分で買いに行けばいいじゃないのか?」

と、蒼天が言ったが、私も同感だ。

ーーというより、普通誰でもそう思うだろ。

「そうかな、出かけ先から戻ったばっかの時に、またすぐ出かけなければならないって、億劫だったりしない?」

「そりゃまあ、そういうこともあるけど」

「慶次は、そういうことを察することが出来る男だからな。だから香里は昔から、何かと慶次を頼ってるんだよ。頼れる幼なじみって感じかな」

「今は、大学のサークル活動中だからいいけど、これから就職して仕事中だったら、あいつどうするんだろ?」

 蒼天が、目をパチクリさせる。

「仕事中でも会議中でも、香里のためなら、早退でも欠勤でもするだろうね。慶次って、そういう男だよ」

 と、冬野部長は微笑む。

「まるでお姫様と、それを命がけで守る家来みたいなもんだな」

「それを言うなら、騎士ナイトでしょ!」

 と、私が訂正すると、

「あれがナイトに見えるのか、君には?」

 蒼天が、まるで珍獣でも見てるような眼差しを私に向けた。

「そう言われると……」

 家来のほうがぴったりかな、とは、私の口からは言えなかった。

  お姫様か……。

まあ、お姫様が相手じゃ勝てないよね。

蒼天の何気ない言葉に、私はちょっぴり胸の痛みを感じた……。

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愛し続ける男 北斗光太郎 @11hokuto

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