もやしが高い

白川津 中々

◾️

もやしが高い。


久々に自炊でもするか焼きそば食べたいなよーし作っちゃおとスーパーに来てみたらもやし一袋500円。庶民の味方が一転高級品である。



「お母さん、もやし炒め食べたい」


「もやしは高いから糸蒟蒻とかにしとこうね」



店内野菜コーナーにおける母子の会話。なんて内容だ。お菓子をねだる様にもやしが欲しいだなんて、戦後数年のバナナじゃないんだから。いったいぜんたいどうして値上がりしたんだろう。気になった俺は商品を陳列しているおばちゃんに話を聞いてみることにした。



「え、ニュースとか観てないの?」



うるせぇ。



「原価が上がってんだって。だから最初はちょっとずつ値段上げしてたんだけど、それでも薄利多売だから潰れちゃう工事も出ちゃて、今並んでるもやしは大きな会社のとこだけ。余力で作ってるから入荷数は少ないし高いけど、売れちゃう。不思議よねぇ。ないと思うと欲しくなるみたい」


「ふぅん。ありがとうババア。勉強になったよ」



ババア呼びに憤慨するおばちゃんを尻目に退店。このビッグチャンスを逃す手はない。俺はもやし生産のノウハウを学びプレハブを建てて簡易工場を設置。もやしの量産体制に入った。需要があるものを作り売る。市場の基本を守り大儲けしてやろうという算段である。さぁ掴むぞ栄光ある未来。輝く明日はもやし色だ。





「もやしの価格上昇を受け、もやし助成金制度の開始が決定。年内開始で調整が入りました」




夢、敗れる。

過剰な値上がりに終止符を打つべく政府がもやし工場に助成金を出す事が決まったとの報道。市場への介入により価格は一気に値崩れする見込みで一袋25円程度に落ち着くだろうとの見解。完全に機を逸した。初期投資に無断で解約しおろした親の定期預金。有耶無耶にしたいが、返済せねば道理に反する。アルバイトをして、切り詰めるところは切り詰めていくしかない。



食事はしばらく、もやしでも食べて凌ぐかぁ……



どう考えても一袋25円は安い。生産者へのありがたみを噛み締め今日を生きよう。もやしよ、永遠なれ。

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