剣道部 裸足の日常

@hadashi_yozi

第1話 裸足の日常

聞き慣れた大音量の音楽。

目の前がぼやけたまま、手探りでスマホを操作し、目覚ましを切る。


いつもの憂鬱な朝が来た。二度寝しようかと思ったが、時間的に朝練に間に合わない。あーもう、部活なんて辞めてしまいたい。そう思ったら、ふと気合が出て起き上がれた。


寝間着を脱ぎ、畳んであるワイシャツを着て、床に散らかしたスラックスを履き、ベルトを締め、椅子にかけたブレザーを着ながら、バッグを片手に玄関へ降り、そのままサンダルを履いて学校まで自転車を漕ぐ。


朝日を浴びるのは気持ちいい。それに、涼しい風が心地良い。今日も何事もなく、一日が終わればいいのだが。


自転車を漕ぐたびに、足の裏がヒリヒリと痛む。少し休ませてくれれば、こんな痛みすぐ取れるのに。


いつもの県道の田んぼ道。車通りも多く、あまり落ち着かない道だ。この先の山道を登ったすぐ先に高校がある。


高校に着いたら、向かうのは道場だ。憂鬱な気分で、ゆったりと歩く。


おはようございます。

お、おはよう。


いつもの後輩の挨拶。こんな片田舎の剣道部でも、上下関係はまともだ。やはり、日本というのは恐ろしいもんだ。


まずは、道場の掃除からだ。道場は裸足でしか上がれないから、周りの部員は靴下をバッグにしまって、道場へ上がる。僕は、元から裸足だからそんなことは気にする必要はない。道場の雑巾がけをしたあと、道着に着替え、素振りを行う。


面!面!


毎日のことだが、いや、毎日のことだからこそ辛い。やっぱり人間、終わりがないとモチベーションも保てない。ただひたすら、無心に竹刀を振る。これが終わったら、100本の跳躍素振りだ。朝からシンドい。シンドいが、やるしかない。気合を入れて、100本振り切る。


今日もやっとの気持ちだ。だが、やりきったあとは気持ちがいい。そんなもんだろうか。制服に着替えて、私は直接教室へ向かう。道場から、本舎までは、渡り廊下で繋がっている。他部員は、一旦靴を履いて、上履きを取りに昇降口へ向かう。もう、私が裸足でいることなんてみんな慣れっこだ。


ペタペタ。なんの恥ずかしげもなく、廊下を歩く。下級生たちは、奇異な目で僕の足元を見てくるが、気にしない。初めて裸足でいた頃と比べれば、だいぶ恥ずかしさもなくなった。だけれども、周りは上履きも靴下も履いている中で、自分だけ裸足っていうのが、どうもソワソワする。でもこれが好きだ。だから上履きを捨て、こうして裸足で学校生活を送っている。


そして、教室へ来た。


おはよう。

あ、おはよう。


周りの挨拶に応える。


あれ、ようじくん、また裸足?

ま、まあね。


一人明るく天然な女の子がいて、いつもからかってくる。僕は、あまりそういうのが得意じゃないから、適当な返事をして済ませる。そもそも、僕はあまり友達がいない。人があまり好きじゃないから、自分から話しかけようとする気も起きないし、話をしても、まともな返事ができない。こんな性分だから、平気で裸足になったりできるのだろうか。だから、今となっては裸足でいることを直接突いてくるのは、その女の子ぐらいだ。


授業中は、途中で退屈になって、足を弄ぶ。足の裏を後ろに向けてみたり、机の鉄パイプを指で掴んだり、指をグーパーしてみたり。しばらくして、裸足を晒しているっていう実感が湧いてきて、上履きが恋しくなる。周りのみんなが上履きも靴下も履いているのに、足の指を晒しているのに、どこか妙な開放感を覚える。そんなときは片足だけあぐらをかいて、膝の下に足を隠す。そうするだけで、すこし安心する。

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