穴ぼこ

あべせい

穴ぼこ



「その台、よく出ていますね」

「……」

「お嬢さん、このパチンコ屋、初めてでしょう?」

「気が散るから。静かにしていただけませんか」

「黙っていられないンです。あなたの煙草の灰が、おれのズボンの膝に落ちてくるンだ」

「これはすみません」

「すみませんはいいけど」

 男性、ズボンの膝をはたいて、

「ほらッ、穴が開いた。どうします、この穴の埋め合わせ。おれは穴が嫌いでね。おれの人生、穴ぼこだらけ」

「あなた、この街の人ですか?」

「そこの駅から電車に乗って、3つ目」

「そういう縞柄のズボン、売っていますか?」

「これは2年前のズボンだから、もう売ってないだろうな。このズボン、気に入っているンだ」

「じゃ、どうしたら」

「いいよ、買いとってくれて」

「おいくらですか」

「10万円に、まけておく」

「10万! それは法外です」

「なに! ズボンを焦がしたのは、あんただろうが」

「そのズボンは、いくらでお買いになったンですか」

「だから、10万だといっているだろう」

「それが10万円のズボンだとおっしゃるンですか。冗談じゃ、ありません。10万も出したら、そんなズボン、百本は買えます」

「なんだと! 買ってくればいい。但し、これと柄もサイズもピッタリ同じズボンだぞ」

「そんなズボンと言ったのは、同じようなズボンという意味です。そのズボン、どう高く見ても、2千円はしないでしょう」

「あんたは服屋か。ズボンを売ったことがあるのか」

「ありません」

「ド素人だろうが。大きな口を、たたくな。おれは、弁償しろと言っているだけだ。無理なことは言っていない」

「わかりました。10万円は無理ですが、ここに1万円あります。これでどうか、お許しください」

「1万? おれも安く見られたものだ。オイ、なめンじゃねェ! おれはいまでこそ、こんなチンケな店でとぐろを巻いているが、昔は組の金看板をショッていたお兄さんだ。ムジナの辰といや、ちーッとは知られた極道だぜ。背中の竜神さまを拝ませてやろうか」

「ムジナの辰!? すいません」

 突然、後ろから、

「ムジナの辰さん。こんなチンケな店でごめんなさいね」

 辰の背後に女性が現れる。

「ウッ?! アッ、社長……」

「社長なんて呼ばない約束でしょう。あなたには、この店に来るなといったはずです」

「すいません。駅前で一杯引っ掛けたら、急に気が大きくなって、いつの間にか、ここにやって来ていて」

「仕方ないですね。あなたは執行猶予中でしょう。うちの店の者が、よく通ってくださった頃のあなたを思い出して、有利な証言をしたから、執行猶予が付いた。そうでしたね?」

「シャ……いえ、そうです。もう酔いは醒めました。大人しくしています。許してやってください」

 社長が、男の隣の女性に、

「お嬢さん、本人がこう言っていますので、許してください。根はいい人なンですが、お酒が入ると、つい気持ちが大きくなって、ウソを並び立てる。ムジナの辰なんて、大ウソ。背中の彫り物だって、昇り龍を彫らせるつもりが、痛くて途中で音を上げたものだから、ミミズにしか見えない。龍の小さなシッポが彫ってあるだけなんですから。そうだったでしょう」

「へッ、そうです。ごめんなさい」

「大人しくしているなら、いいけれど、こんど大声を出したら、うちのドーベルマンがきますから。いいわね」

「あのドーベルマンだけは勘弁してください」

「ドーベルマンって、このお店で飼っておられるンですか」

「ドーベルマンを素手で倒した、コワモテの店員のことです。すいません。余計なおしゃべりをして。ごゆっくりお楽しみください」

 女性社長、立ち去る.

「はァ……、いまの女性、どなたですか?」

「あのお方は、この店のオーナー、2代目社長として、傾いていたこの店を立て直した、やり手です」

「まだお若いでしょう。20代後半にしか見えない」

「そうです。でも、頭が切れる。じゃ、あっしはこれで……」

 立ちあがろうとするが、

「待ってください。どこに行かれンですか」

「帰ります。ご迷惑をおかけしました」

「待ってください。お願いがあるンです」

 辰は立ちたいが、立てない。

「おかしい。あんたの靴がおれの靴を踏んでいる」

「これは、すいません。つい、うっかり」

「あんた、それに、その靴、先がいやにとんがっている。かわいい顔して、あんた、どういう料簡をしているンだ!」

 辰、上をチラッと見て、

「いや、ここはまずい。いまも社長は防犯カメラで、オレたちのようすを見ている。ここでグズグズしていると、執行猶予が怪しくなる。穴ぼこだらけのおれの人生に、またまた」

「わたし、今夜、寝るところがないンです」

「そんなことは知らねえ。オレに難題を持ってくるな。やい、靴をどかせろ。ウムッ、あんた、なんというバカ力なンだ」

「逃げるンですか」

「なにィ」

 受け皿のパチンコ玉を一掴み、男の前の受け皿に移し、

「ドロボー! この人、ドロボーです!」

 男は、慌てて腰をおろす。

「待て、待て。なにを言うンだ。みなさん、なんでもありません。はい」

 防犯カメラに向かって、手を横に激しく振り、ペコペコ頭を下げる。

「オイ、いい加減にしてくれよ。後生だから、見逃してくれ」

「あなた、男でしょう! わたしのような小娘に、コケにされて恥ずかしくないの」

「うゥ? あんた、酔っているのか……」

「酔っているわ。不倫していた男に捨てられて、ヤケっぱちよ」

「思い出した。オレが駅前の立ち飲み屋で飲んでいるとき、後ろで泡盛をがぶ飲みしていた若い女がいたが、あれ、あんただったンだ。あのときは、後ろ姿しか見えなかったが」

「そんな昔のこと、忘れたわ。ねェ、わたしのこと、どうするの。家に連れて行くの。はっきりしなさいよ!」

「オレは執行猶予中だ。そんなことができるわけないだろう」

「だったら、考えなさい。いい方法を」

「ヨシッ、河岸を変える。ついて来い」

 男は立ちあがると、女を従えて歩いていく。

「さァ、ここがいい」

「ナニ? ここは同じパチンコ屋じゃないの。シマが変わった、だけじゃない」

「そうじゃない。ここは、この店の防犯カメラが死角になっている唯一のポイントだ。さァ、これでどんな話もできる。言ってみな」

「?」

「ネエちゃんの本当の狙いは、何ダ」

「……」

「あんたがおれの隣の台に来たとき、おかしなヤツだと思ったンだ。オレのような、風采のあがらない、ナッパ服を着た、ヘタすると難癖をつけられるかも知れない男のそばに、あんたのように若くてカワイイ娘が近寄る。そんなことは、いままで一度だってなかった。電車やバスに乗ると、自慢じゃないが、10人いたら10人がみんな、脇に寄ってオレを避けていく。そういう男に、オカシイだろう」

「おかしいですか?」

「それに、そのとんでもない先の尖った靴。まだ、ある。あんたは、オレが飲んでいた酒屋のカウンターで、泡盛を飲んでいたが、あれは泡盛なんかじゃねェ」

「!……」

「あのボトルのラベルは与那国島の泡盛で、本当ならアルコール度数が60度もある焼酎だ。あんなものを水のようにがぶ飲みできるわけがない。あんたは、あの泡盛の瓶から自分でグラスに注いで飲んでいたがな、あれはあの酒屋の親爺が時折やらかす座興だ。中身は、焼酎を割るのに使うミネラル水。水のように飲んでも不思議のない代物ということだ。あんなもの、いくら飲んでも酔えるわけがない。あんたの口からは、いい香りが漂ってくるが、アルコールの臭いは、からきしだ」

「酔っていても、ダメってこと?」

「まだ、ある」

「まだ?」

「まだ、まだだ。あんたは煙草の灰を落としてオレのズボンに穴を開けたが、あれはうっかりなんかじゃない。ワザとやった」

「ワザと?」

「そうだ」

「何のために?」

「オレにとっかかりをつけるためだろうが」

「どうして?」

「そいつがわからねェから、シマを変えたンだ。事情を話せば、協力しないでもない」

「あなた、そういう優秀な頭脳を、どうして、もっと社会の役に立つ方向に使わないの? 悪事に利用されてもつまらないでしょう」

「あんたは……」

「あなた、なんで捕まったンだっけ?」

「詐欺の共犯だ……」

「いわゆる振り込め詐欺の仲間だったわけでしょう。ATMに行き、被害者が振り込んだ銀行口座から、被害者のお金を引き出す、いわゆる出し子をやっていた」

「あんた、いえ、あなたはあの、検事先生ですか?」

「あなた、わたしの顔がまだ思い出せないの」

「エーと、年が24、5で、モスグリーンのスーツがよく似合い、黒縁のメガネを掛けた美女ですよね。おいらに、そんな知り合いは……あッ」

「そうよ」

「おれが21の年に一緒になった女に、生き写し!」

「あなたが昔捨てた娘よ。母さんは、去年あんたを恨んで亡くなったわ」

「おれは捨てたわけじゃない。足場から落ちて左官の仕事ができなくなったから、パチプロになろうとして6ヶ月、関東のパチンコ店を転々として、帰ってみたら、あいつはおまえを連れて出て行ったあと」

「当ッたり前でしょう。お金も連絡も入れないで、何がパチプロよ。わたしはあのとき8つだったから、それくらいの道理はわかるわ」

「その娘がいまごろ、おれに何の用だ。あいつの恨みを晴らそうというのか」

「バカ! わたしは、本庁2課のデカよ」

「マジか」

「苦労して警察官になったのに、オヤジが振り込め詐欺の片棒を担いでいたと知ったら、どうなる。幸い、母さんがあなたから籍を抜いて苗字が違っていたから、デカ仲間には知られていないけれど、そのうちバレるわ」

「だったら、じっとしていればいい。どうして、憎いオヤジに声をかける?」

「それがわからないほど、耄碌しているの?」

「おれがいた詐欺仲間はまだ全員割れていない。首謀者が捕まっていない。それを捕まえるために、おれに張りつくというのか」

「被害総額2億3千万円。そのうち回収できたのは、わずか8百万。残りの2億2千万2百万はどこに消えたの」

「お袋をボロぎれのように捨てたオヤジのおれを、たっぷり利用しようという算段か」

「あなた、よォく考えなさい。執行猶予の判決が出たのは一昨日。拘置所を出たあなたを仲間が放っておくわけないでしょう」

「尾行されていないか、気をつけている」

「仲間が考える第一は、あなたの口封じ」

「そいつはない。おれは、組織の全体を知っちゃいない。全くの下っ端、使いッぱしりだ」

「そうじゃないのよ。あなた、どういう料簡で、母さんの電話番号をアポ電のリストに入れたのか知らないけれど、仲間が母さんから2百万円、騙し取っているのよ。知っているの!」

「待て。それは偶然だ。掛け子の連中は、名簿屋から手に入れた高額納税者リストや、農協組合員名簿、マッサージチェアの購入者リストなどをもとに、片っ端から電話をかけまくっている。そのリストのなかに、あいつがいたなんて、考えられない」

「母さんが被害にあっているから、娘の私が敵討ちに出張っているンじゃない。母さんは詐欺に遭ってまもなく、亡くなった。敵討ちして、なにが悪いのよ」

「公私混同というやつか」

「3年前の母の日に、母さんにマッサージチェアをプレゼントしたことがあった。あれがよくなかったのかも」

「おまえ、敵討ちを本庁デカの仕事にしていいのか」

「わたしは、母さんがくやしがっていた2百万円だけ、取り戻せばいいの。それで、胸を張ってお墓参りができる。お父さん!」

「ここでお父さんはやめろ!」

「お金の隠し場所、知ってンでしょ。白状しなさい」

「そんなものは知らない。もっと上のやつらに聞け」

「あなた、私が何の手がかりもなしに、あなたに張りついていたと思っているの」

「?……」

「あなた、一昨日、判決を聞いて釈放された後、どうした?」

「拘置所のアカを落としに巣鴨のスーパー銭湯に行き、あとは居酒屋でメシと酒を腹に入れ、西巣鴨のアパートに帰って、ぐっすり寝たな」

「居酒屋じゃ、ないでしょう。まァいい、居酒屋の名前は?」

「そんな細かいこと……」

「居酒屋というより、3、4人で満席になる小料理屋。大塚の三業通りにあって、名前は「こいさぎ」。この名前はあなたが付けた。女将は、あなたより、10才下の34。美人で、やもめ。ここまで言うと、わかるでしょう」

「……」

「女将とあなたは内縁関係にある。あなたはその女将の存在を裁判では明かさなかった。どうして?」

「詐欺と関係ないからだ。女将は善人だ。悪事とは無縁の女だ」

「関係あるかないかは、こっちが決める。あなたは、そのこいさぎに、捕まる前まで入り浸っていた。泊まることもしょっちゅう。ここまでくると、女将を調べないわけにはいかない」

「美咲!」

「娘の名前を覚えていたのね」

「変わってないンだろう?」

「当たり前じゃない。姓は母さんの姓に戻ったけれど、名前はあんたが付けたときのまンまよ」

「お願いだから、恋路には、手をつけないでくれ」

「あの女将の名前が恋路。わたしの母さんの名前は、恋花。恋つながりで、引かれたってこと?」

「そんな安っぽい話なんかじゃねェ」

「安っぽいとはナニよ。恋花は、あんたが命と引き換えに一緒になった女じゃない!」

「聞いたのか」

「あんたが巣鴨でチンピラをやっていたとき、巣鴨一帯を仕切る香具師の元締めの娘だった母さんは、鯛焼き屋を志願してきたあんたに惚れた。当時母さんの父親、すなわちわたしのお祖父さんは、浅草から流れてきた若い香具師グループと高岩寺周辺のショバをめぐってもめていた。その若い香具師連中のリーダー格の男が、成人式で見た母さんに一目惚れ。男は巣鴨から手を引くといい、その代わり母さんと所帯を持ちたいとお祖父さんにねじこんだ。お祖父さんは本人の気持ち次第だと答えたのだけれど、あんたに気持ちが傾いていた母さんは、当然相手にしない。リーダー格の男は、あんたの存在を知ると、暴走族を使ってあんたに脅しをかけた。あんたは負けていない。リーダー格の男のマンションに単身乗り込むと、大立ち回りを演じて警察の厄介になった。どちらも半死半生の大怪我をしたこともあって、事件は不起訴。あんたは母さんが好きだったというより、惚れられたことに感激して一緒になった。どう、違っている?」

「あいつがそう言ったのなら、そうだろう」

「ずいぶん情がないのね。命のやりとりをして一緒になった相手でも、大して好きでもなかったから、と言いたいンでしょう」

「そんなことはないが」

「そうよね。母さんに鯛焼き屋の屋台をさせて、自分は左官屋になったけれど、事故で仕事ができなくなってからは1日中、パチンコばっかしなンだもの。聞いて呆れる。だけど、こいさぎの女将は、あんたのほうが好いた女だから、セッセと金を貢いでいる」

「金をやったことなんてない」

「昨日、恋路さんの銀行口座を調べたわ。職権でね」

「ウッ」

「あんたが捕まるまで、恋路さんの口座には毎月30、50と入金がある。あんな小料理で、どうしてあんなに稼げるの。銀行の防犯カメラを調べたら、あんたがATMで入金している姿が映っていた」

「おまえ、やりすぎだゾ。警察だからって、なんでもやっていいことはないだろうが!」

「裁判所の令状が降りるのよ。詐欺被害者の金の流れを知るためには必要なの」

「オレは詐欺した金をATMから引き出しはしたが、すぐに上が指示した別の口座に振り込んでいる。その先はどこに行ったのかは知らない。何度も話したことだ」

「恋路さんの口座に振り込んだお金はどこで工面したの」

「だから、それは、盗った金の一部を……」

「バカ言ってンじゃないわ。組織がそんなことを許すはずがないでしょう。被害者が騙されて組織の口座に振り込んだ金額は、その口座の通帳を調べればわかることだから、上を騙すなんてことは、できやしない……それができるのは……!」

 男は体を沈めるとダーッと駆け出すが、すぐにドテンッと大きく跳ねて転んだ。

「イテ、テッテテテッ、何をしやがる!」

「ナニ慌ててンの。まだ、話は終わっちゃいないわ!」

 男は、ホールの通路に腰を落としたまま、

「痛ェー、こんな痛みは初めてだ。おれの脛から血が出ているじゃねえか。痛ェー、脛に穴が開いているゾ!」

「ほんの風穴よ」

「なにを言いやがる。ズボンに穴を開けやがって。こんどは脛か。血が止まらねェ」

「逃げるから、ヒールの先を突き出しただけよ。そこに、あなたの脛がぴったりはまっただけ。これはデカの基本動作」

「痛ェー、なんとかしろ。ハイヒールの靴先が当たっただけで、どうして、脛に穴が開くンだ!」

「わたしのヒールはこんどのために作らせた特注品。ヒールのつま先には鋼鉄が仕込んであるの。工事現場の安全靴のようなものだけれど、これは特別に三角に尖らせてあるから、厚さ5ミリの鉄板くらいなら、突き通せるって。これを作った靴屋が自慢していた」

「凶器じゃねェか。すぐに医者に連れて行け!」

「ナニ、甘えたことを言っているの。あんたらにお金を騙し取られた被害者のことを考えてみなさい。これくらいじゃ、まだまだ足りない」

「おれは執行猶予がついたンだ。一事不再理という言葉を聞いたことがある」

「振り込め詐欺の出し子としてはね。あんたは組織の首謀者。いま、白状したじゃない。こんどは、首謀者として起訴するから、楽しみにしていなさい。とりあえず、いまは公務執行妨害!」

 腰から手錠を取り出し、男に素早くはめる。

「ナニするンだ。このうえ、ワッパまでかけやがって。おまえ、実の父親になんてことをするンだ。親子の情というものがないのか!」

「実の親子だったらね」

「ゲェッ!?」

「あんたの最初の奥さん、恋花さんの写真を探し出し、警視庁全女性警察官の中で、たまたま一番顔が似ていたのがわたし。だから、特命を受けて、あんたの尾行、張り込みをして、恋路という女をあぶりだし、きょうが本番。娘の美咲さんを装って、あんたの本音を引き出した、ってわけ」

「美咲はどうした?」

「彼女は残念ながら、いまから12年前、あんたが奥さんと彼女を捨てた2年後、交通事故で亡くなっている。去年、病気で亡くなった恋花さんは、捜査員が獄中のあんたのことを話してあげると、美咲さんには一度もいい思いをさせてやれなかった、と悔んでいたそうよ」

「あんたはいったい、何者だ」

「わたしは、警視庁赤塚警察署刑事課、鹿野花実。通称ハナちゃんよ!」

「ハナちゃん!?」

「なれなれしく呼ぶンじゃないわ。いま、パトカーを呼ぶから、待っていなさい」

「この先、どうなる?」

「あんたと、特に恋路の周辺を徹底的に調べあげて、消えた2億円余りの金を捜すことになる。もちろん、それは本庁2課の仕事だけれど」

「そうじゃない、おれだ。おれはどうなるンだ」

「執行猶予は取り消し、もう一度小菅に行くのね」

「ズボンの穴に、脛の穴。おれの人生に……」

「穴ぼこが、もう一つ増えるだけよ」

                (了)


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穴ぼこ あべせい @abesei

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