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第10話
ルークとルルは、お留守番。
私たちは、車で街中へ向かう。
「あスタンドに寄ってもいいかな。ガソリン」
リヒトがメーターを見て言う。
「確か3ブロック先の角にあったよね」
「うん」
車は休日のお昼渋滞を避けて、いつもと違う脇道に入る。
「あっ!」
窓の外を見た私が声を上げる。
「なに?」
「あれ、覚えてる?」
普段通らないのですっかり忘れていた脇道の、空き地の隣。今では見知らぬ真新しい二階建てのキレイな家が建っている。
「うん? あ、ここ。懐かしいな」
そこは昔、私たちが大人たちに内緒で子ネコの面倒を見ていた廃屋があったところだった。
「うわ……すっかり変っちゃったな」
「ほんと、まったく昔の面影がないね。あれ、あの門の手前あたりかな?」
私が何のことを言っているのか、リヒトもすぐにわかったみたい。
「うーん、あの自転車が止まってる辺りじゃなかったっけ?」
死んでしまった子ネコを、二人で泣きながら埋葬したところ。
「今なら……あの子を助けてあげられたかな?」
「うーん。とりあえず何らかの処置はしてあげられただろう」
そうだ。
だんだんと力が抜けて動かなくなり、徐々に体温が下がっていくのが手から伝わる、あの悲しい感覚。
「あの日に、獣医師になるって決めたって言ったよね」
「うん」
「私も動物に関わる仕事に就きたいって思ったんだ。さすがに獣医師は難しすぎるって、中学生の時に気づいたんだけど」
私が笑うと、リヒトも笑った。
「だから俺がタマの夢をかなえてあげたろ? そのために、死ぬ気で勉強したんだ」
「な、なんで? 大人になって、私たちが全く接点がなくなる可能性だって、あったじゃない?」
「だからルークを預けたんだろう? あげたんじゃなくて、預けたんだ。あいつがいれば、俺のこと忘れないだろうから」
「……」
私はぽかんと口を開けた。
それって……
やだ、泣きそう。
ガソリンを補充して、交差点で信号待ち。
「指輪はどうせ取りに行くだけだ。まずは昼飯を食いに行こう」
次の瞬間、声が被った。
「「ローストビーフ丼……」」
はっ!
私たちはお互い見て、そして笑った。
「あれでしょ、この前、内田もずくちゃんのパパがいってたやつ……」
「そうそう。それ」
もずくちゃんはクリーム色の2歳の
「じゃあ、そこに行こう」
「うん、行こう」
信号が青に変わる。
お腹は空いてるのに、胸の中ではぎゅうぎゅうに膨らんだ幸せがはちきれそう。
来月、私たちは結婚する。
【Fin】
ネコは甘さを感知できない しえる @le_ciel
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