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第9話

「よしよしルルちゃん。今日もかわいいねぇ」


ソファに寝転がりお腹の上にルルを載せたリヒトが、同じ格好をしたルルのお腹を撫でる。


ルルはとってもリラックスしていて、目を閉じでグルグルと喉を鳴らしている。



だらしない飼い主と、だらしないネコ。


あまりにもシンクロしすぎていて、吹き出しそうになる。



シャワーから戻ってきてコーヒーを飲んだら出かける準備をしてって言ったのに、また寝転がるし。


「あと15分で出かける準備しないと、おいて行くからね?」


ひじ掛けに頭を預けて寝転がっているリヒトにデコピンをくらわすと、肘を取られてがっしりと首をホールドされた。


リヒトが上半身をひねったので、お腹の上に大の字に寝そべっていたルルがラグの上にぽとりと着地する。


「よしよしタマちゃん。今日も愛おしいねぇ」


「じゃれつくのは後にしてくれないかな? 出かけるって言ってるでしょ?」


「大丈夫だよ。店は逃げないだろ? 午後もやってるし」


「いや、逆にじゃれつくのは今じゃなくていいよね?」


「ん-。タマの匂い、これこれ、これだよ」


リヒトはネコが飼い主に甘えるみたいに、私の頬に顔を擦り付けてうっとりする。


「やめてよ、化粧が落ちるじゃないの!」


「なんで人間には顔に臭腺がないんだろうな。残念」


ネコには身体や顔に匂いを出す器官があって、大好きなものにこすりつけてマーキングしたり、仲間同士でこすりつけ合って挨拶をしたりする。


飼い主にする場合は甘えていたり、自分の匂いをつけることで安心したりすることを意味する。



私はぷっと吹き出してしまう。


「だから人間のマーキング表現として、大事な買い物に行くって言いだしたのはリヒトじゃないの」


「あ、そうだった。出来上がったって連絡が来たんだったな」


「だから! 早く準備してって言ってるの!」


「はいはい」


リヒトは私を抱えたまま上半身を起こした。


ふわりと髪から私と同じベルガモットの香りがする。


ぎゅうぅっっと抱きしめられて、呼吸困難になる。


「くるしいよ!」


なんとかして抜け出そうともがくけど、強い腕の力はびくとも緩まない。



「ああ幸せだな」


「……」


すりすり、すり。


首筋から肩にかけて、こそばゆい。でも、嫌いじゃない。


動物でも人間でも好きな相手に触れたり触れられたりすると、すごく安心するしすごく幸せな気分になるんだと思う。


甘えたり、甘えられたり。そして信頼を築いていく。



ああ、もう。


そんな暇はないって言ってるのに。

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