未来は荒野の先に

燈夜(燈耶)

未来は荒野の先に

「このエリアは、初めて入るが……不毛だな。オムニがある、という情報だったが」


ポケットをまさぐり、カラカラに乾いたそれを取り出した俺。

俺はそのチップ、いや、黒い物体を齧りながらぼやいた。


「なあ、どうしてエリアって呼ぶんだ?」

「ん? 知らんよ? 昔の先人がそう呼んでてね。ほら、居住区をオムニ、食料庫をプラント、と呼ぶのと同じだろ」


 砂と、枯れ木と、大小の岩。

 そして、天候制御がうまくいっていないのだろう。

 夕方の時間のはずだが、大変な暑さだ。

 熱帯夜の覚悟が必要と見た。


 ◇


 陽が落ちた。

 俺たちは枯れ木を組んで、枯れ草を集めて野宿している。

 火で炙りつつ齧る、黒いクッキー。

 相棒にも勧めたが、相棒はかたくなに拒否する。


 ──もったいないな、こんなに旨いのに。


 ホント、良質なたんぱく源。

そして人間の活動に必要な必須アミノ酸9種類のうち、8種類までも含んでいるスーパー栄養食と言えるのに。


「で、そのチップ、改良品だけど旨いのかい?」

「ああ、美味いぞ。プラントの奴らは原料をこのエリアで捕まえてきた、と言っていたが」

「そうか? 何もないぞ?」

「いや。いるだろ。暗視装置でしっかり見てみろ」

「は?」

「足元だ。黒くて平べったいのが動いているだろ?」

「ん? どこに?」

「ほら、あれ、あれだよ。ああ、ほら、今岩の下に移動した」


カサカサ、カサカサ、と微弱な音。

そして彼は見ることになる。

長い、長い一対の触角を。

そしてのその全身は黒光り。

彼はなぜだろう。

どういう理由か、全身に怖気を感じているように見える。

彼はその場で固まったのだ。

変な奴。

俺は思う。


「お前、あ、あのおぞましいものを食ってるのか?」

「ああ、カラカラに乾燥させた奴だ」


と言って、俺は彼に突きつける。

彼の視線の先にあるのと同じ、調理済の黒い虫のチップを。


「……やめろ、見せるな気持ち悪い」

「旨いのに」


俺はそれをまた口に含んで見せて、カリッと音を立ててそれを歯で噛み砕く。


「本部は本当にそれを食物プラントで増産する気か?」

「ああ、そう聞いている」


なぜだろう。

俺にはわからない。

食べ物は貴重なのだ。

そして、動物性タンパク質はとても貴重だ。

野生で得られる量はたかが知れており、そのうえ野生のものは色々と困った菌や病原体を持っているのもしばしばなのだ。


「虫なんて……ましてそれをそのままの形でなんて。せめて、鳥や豚の肉はないのかよ」

「高級品だな。肉は貴重だ。大豆から作るとしても、おなじ高級品には変わりがない」

「でもよ」

「あれだ、手に入らないものを求めて飢えるより、手に入るものを、しかも量産が確実視されるものを食って生き抜く。そして先祖が目指した新天地が見つかるまで耐える。それが大事だろ?」


 彼は俺の物言いに黙る。


 星間移民船。何世代もかけて新しい大地、新天地を求める船だ。


 俺をはじめ、コイツも、そして他の全員がクルー。

 文明が後退し、いくつものプラントが故障したままとなり、食用生物の絶滅が起こって食糧事情が悪い昨今。


 俺は黒いチップをまた手にとっては口の中に放り込む。

 彼は冷や汗を流してのけぞるばかり。


 俺はチップをかみ砕く。


「水気がなくて、口が乾くのが欠点だよな」


 と、俺はぼやくも。

 彼は違う意見を言うのだ。


「いや、それ以前の問題だろ?」


と。


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