第52話 一件落着

 ――召喚モンスターの本隊を突撃させてから、事態は順調に収束に向かいつつあった。



 残った二つの『ダンジョン』の内、一つはほぼ碌な抵抗もなく制圧が完了したと、セフィロトから念話で連絡がきた。

 上級天使が数人いたらしいが、自力自体は『門番』達の方が勝っていて、数の利もある。

 相手側が複数の『終焉を告げし邪竜』アポカリプスの襲撃で疲弊していたこともあり、特に苦戦なく勝利することができたようだ。



 しかし、その『ダンジョン』にもアメリアの姿は見つからなかった。つまりは、私が向かった最後の『ダンジョン』にアメリアはいるということになる。



 そして、肝心の私の方はどうかというと。セフィロト達が制圧した『ダンジョン』のように、簡単には倒されてはくれなかった。



 『ダンジョン』の中だというのに、あの謎の極光が二回飛んできて、先頭を走っていた軍勢がごっそりと消滅してしまった。

 幸い、後方に控えていた私と『門番』の数名にまで被害が出る前に咄嗟に使用した『眷属招来』で、壁になるモンスターを呼び出して難を逃れることができた。



 しかし、その後は本当に抵抗らしい抵抗はなく、古ぼけた槍を振り回そうとする少女を悪魔達が拘束したと念話が届く。



 その連絡を聞いてから『ダンジョン』の最上階に行くと、嫌悪で顔を歪め喚き散らかす少女がいた。



「忌々しい『悪魔』どもめっ!? 本来であれば、お前ら如きが触れて良いような存在ではないのだぞ! この私は! 天使達はどうしたんだ!?」



 以前『聖女』に取り憑いていた『何か』とは似ても似つかない程に整った容姿を持つ少女ではあるが、漂わせせる雰囲気や傲慢な物言い。

 それらと私の直感を合わせると、この少女こそが一連の騒動の黒幕であり、私の大事な者に手を出した命知らずだ。



 相手の目的やら理念なんて、どうでもいい。

 一切の躊躇なく、その命を刈り取ってやる。



 ゆっくりと近づく私の姿に気づいたのか、少女の形をした『何か』は私に向かって唾を飛ばしながら、聞くに堪えない罵詈雑言を放ってきた。



「この『悪魔』どもめっ!? 我が聖なる槍を使っての裁きを、何故大人しく受け入れられないっ!? 下賤な貴様らを、我が計画の為に有効活用してやろうという慈悲が理解できないのかっ!?」

「えーと、言いたいことはそれで終わり? お前が何を考えて、私達に喧嘩を売ってきたのかは知らないし、興味もない。

 じゃあ、殺すね」

「お、おい!? 待て、この私を殺しても無駄だぞっ!? 本体は私であるが、『聖女』とか大層な二つ名を持つ少女のように、私の力を分け与えた人間はまだまだいるぞ。

 ソイツらがいる限り、私は真の意味で死ぬことは――」

「――そうやって命乞いするってことは、その体を壊されると大分不都合があるみたいだね。

 私がそれを聞くメリットは? ないよね? もう喋らなくていいから。 ――『ヘルフレイム』」

「ま、待て――ぎゃあああ!?」



 少女の姿をした『何か』の体が、全力で繰り出された地獄の業火に包まれる。と同時に、甲高い断末魔が辺りに響く。

 一瞬にして、ソレの体は原型も留めない燃えカスとなった。



「……よし、これで終わり。呆気なかったね。――別働隊が、アメリアを見つけてくれたみたいだ。全員、撤退するよ」



 別ルートで侵入させていた『門番』から、捕まっていたアメリアを発見して保護をしたという連絡が入った。

 幸い外傷もなく、他にも何かされた様子も見られないようだ。

 本当に良かった。



 忘れずに、『レッサー・デビル』に怪しい雰囲気を漂わせる槍を回収させる。

 その後全体に指示を出して、残った軍勢で『悪魔城』に帰還する為に『ダンジョン』の外に出た時。

 今まで存在した塔の形をした七つの『ダンジョン』全てが、溶けるように消滅していく。



 『ダンジョン』のボスに相当する人物を、倒したことによる影響だろうか。

 考えても、答えはない。



 それだけではなく、アレは自分を本体と言っていたが、鵜呑みにするならば、『聖女』のように特定の人間の体を乗っ取れることになる。



 これだけ力の差を示せば、不用意に手を出してこないはずだが、依然として警戒を続けるべきだろう。

 『悪魔城』を取り巻く状況が一段落ついたら、アレの分体を何としてでも見つけ出して始末してやる。



 そう決心を固めていると、横で人型に近い上級悪魔に抱えられているアメリアが声をかけてきた。

 本当は私が格好良くお姫様抱っこをしてあげたかった。

 しかし、アメリアの方が身長が高いせいで、なくなく諦めたという裏事情があったりなかったり。



「……この度は本当に申し訳ありません。リリス様や他の『門番』にはご迷惑を――」

「そんなことは言わなくて良いよ。私はアメリアが無事なだけで嬉しいし、主としての当然の務めを果たしただけだから」

「……ありがとうございます」



 そう小さくお礼を告げるアメリアの顔には、見惚れるぐらいに綺麗な微笑みが浮かんでいた。



 ――まだまだ解決しなければならない問題は色々とあるが、この笑顔を今後も守る為に私は『悪魔』として振る舞おう。

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【第一部完】ある日ダンジョンの存在が当たり前になった世界。そのダンジョンの一つがゲームで作ったマイ拠点。当然そこのボスは自分です 廃棄工場長 @haikikouzyou

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