第51話 最後の抵抗

 ――『主』と呼ばれる存在が、切り札と考えているのは武器の類であった。

 それは一本の古びた槍。一見頼りなりそうには見えず、一回でも振るえば折れてしまいそうな程だ。



 しかし、その槍には一目見て分かる程に規格外の力を持っていた。



 その槍の名は、『聖人殺しの槍』。担い手には絶対の勝利を約束すると言われており、この槍の贋作を巡って争いが起きたことも一度や二度ではない。



 自らの肉体を貫いたこともある槍を持ち出し、『主』は装備することで全盛期――に及ばないものの、その半分程度の力を発揮できるようになる。



「流石は私の体に傷をつけたことがある槍だ。全盛期に及ばないが、多少はマシになったな。あの『悪魔』の軍勢を蹴散らすのには十分だ」



 軽く槍を振るい、満足そうに笑う『主』。その後、見晴らしの良い所に移動して、眼下に敵の姿を捉える。



 そして『主』は今現在自分達がいる『ダンジョン』――『第七の塔』に群がる二体の終焉を告げし邪竜アポカリプスに向かって、右手に持った『聖人殺しの槍』を振るう。



「――卑しき『悪魔』に仕え、この私に仇なす者よ。その罪、死をもって償うといい」

「「GAaaaっ!?」」



 『主』の体から、『聖人殺しの槍』によって増幅された力がごっそりと抜けていく感覚が襲う。

 しかし、それに見合った成果はあった。『聖人殺しの槍』から放たれた力の奔流は凄まじく、暴虐の化身と言っても過言ではない終焉を告げし邪竜アポカリプスが二体。

 一瞬にして、跡形もなく消し飛んでしまった。



「威力は凄まじいが、連発はできそうに……いや、無能な天使どもは役に立たない。命ごと力を吸収し、槍の性能を十全に発揮する為の電池代わりになってもらうとしよう。

 そのぐらいは役立ってもらわないとな」



 良い考えを思いついたと言わんばかりに笑みを深める『主』は、配下の天使達を呼びつけて、順番にその命を吸収し始めた。





「――恐ろしいな。あの終焉を告げし邪竜アポカリプスが二体まとめて、倒されるとは思ってなかった。どんな火力してるんだ……」



 『悪魔城』の入り口付近にて、私達は陣取って作戦の第一段階――魔力回復ポーションをがぶ飲みしながら、『禁忌・邪竜降臨』を連続で使用するという反則を実行していた。



 戦況の始めの方は、こちらの優勢であった。

 単純な戦闘能力であれば、私や『門番』以上の力を保有する終焉を告げし邪竜アポカリプス

 それらが一つの『ダンジョン』につき、複数で襲いかかる。一方で、終焉を告げし邪竜アポカリプスを迎撃する為に出てきた天使達は碌な統率は取れておらず、蹂躙されるだけ。



 私と『門番』達は待機しつつ、後詰めとして『地獄の門・開門』で呼び出した悪魔の軍勢を差し向けるしか行動をしていない。

 一応その間、私は魔力回復ポーションを飲んでは魔法の発動を繰り返していた。



 その成果は、六つの『ダンジョン』の内、四つの制圧だ。だが、そのどこにもアメリアの姿はなかった。

 まだ攻略が済んでいない『ダンジョン』に囚われているのだろう。



 だが、直に全ての『ダンジョン』の攻略は完了し、腹の立つ輩も始末できる。

 そう考えていたのだけれど、作戦の第一段階はここまでらしい。



 残った『ダンジョン』の一つから飛んできた極光。それが連続で発射され、次々と終焉を告げし邪竜アポカリプスを消し飛んでいった。



 相手にも奥の手があるだろうとは踏んでいたが、まさかあれほどに威力の高いものがあったとは。



 しかし今まで使ってこなかった所を見るに、そう何度も使用できるものではないのだろう。

 私の『禁忌・邪竜降臨』のように、魔力の消耗が激しいか回数制限などの制約があると予想できる。



 そんな切り札を投入してきたとすれば、相手は追い詰められているという証拠。

 現に放たれる極光の回数が十回を超えた辺りで、次の攻撃が来ない。早くも打ち止めになってしまったようだ。

 もしくは、そう思わせておいて油断した所で、一発を叩き込んでくる可能性もなくはない。



 念の為に、安全確認は必須だろう。



「――『地獄の門・開門』。残りの『ダンジョン』に突撃せよ」



 追加で悪魔の軍勢を呼び出し、向かわせるが何の抵抗もなく『ダンジョン』に侵入することができた。

 本当に、もう先ほどまでの攻撃は打ち止めらしい。

 これで、遠慮なく本隊を進軍させることができる。



「目についた敵は一体も残さないように。全軍、出撃」



 

――後書き――

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ある日ダンジョンの存在が当たり前になった世界。そのダンジョンの一つがゲームで作ったマイ拠点。当然そこのボスは自分です 廃棄工場長 @haikikouzyou

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