第50話 邪竜進撃
――行動は迅速であるべきだ。
アメリアに対する心配と、その大切な彼女を攫った命知らずに対する怒り。
それらをひっくるめて、いち早く解決しなければ
そんな予感があった。
■
「――敵が潜伏していると思われる『ダンジョン』は六つもありますが、どうしますか?」
セフィロトが私に尋ねてくる。
セフィロトは『悪魔城』の第一階層の『門番』として創造したが、現在では『門番』達のまとめ役を担っていたアメリアが不在な為、その役割を代行してもらっている。
また私と補佐としても動いてもらい、動員できる戦力や『悪魔城』の警備体制の見直し、そして敵がいるだろう六つの『ダンジョン』攻略作戦について。
セフィロトが言うように、敵側の『ダンジョン』の一つは攻略済みとはいえ、まだ六つも残っている。
アメリアがどこに囚われているのか、敵側の首領がどこに潜んでいるのか。
そのどちらも判明していない。
探る手段もなければ、悠長に調べている時間もない。
なので、私はセフィロトにこう提案する。
「――一度に全部ぶっ潰せば、関係ないと思わない?」
要するに、力押しである。
そうと決まれば、話は早かった。
敵側の『ダンジョン』を落とす為の戦力は、いくらでも捻出できるのが
ただし、それには魔力という制限はあるので、事実上は有限である。
だが、ここ『悪魔城』には私がゲーム時代の時に収集した無数のアイテムが貯蔵されている。
その中には魔力を回復させるポーションが腐る程あり、これをがぶ飲みすれば、何度でも『地獄の門・開門』のような大軍を召喚できる魔法を乱発できる。
それだけではなく、貯蔵――というより死蔵されているアイテムにはモンスターを召喚する類のものもある。
私が使える魔法『眷属招来』などで呼び寄せるのは、基本的に悪魔系統のモンスターのみ。これらのアイテムを使えば、こちらの弱点である神聖属性の攻撃を多用してくるだろう相手にも、有利に事を運ぶことができる。
さらにはアメリアが不在とはいえ、他の『門番』は健在だ。最低限の戦力を『悪魔城』の防衛に残して、各『ダンジョン』の攻略の指揮を取らせる。
完璧な作戦だ。
その後、セフィロトと作戦の詳細を詰めて、『ダンジョン』攻略に参加する『門番』達に向かって宣言する。
「――敵は私の、我々の大切な仲間に手を出した。これは疑いようもなく、私達に対する宣戦布告だ。
この前の人間達のように、一切の痕跡も残さずに連中を根絶やしにしてやれ」
私の宣誓に、『門番』と数えるのが馬鹿らしくなる程のモンスター達による喝采が湧き上がる。
今集結しているモンスター達は、相手の初動を少しでも遅らせる為に『悪魔城』の内部で召喚したものだ。
この軍勢をそれぞれ均等に分け、『門番』達を指揮者として『ダンジョン』の攻略を同時に開始する――というのは、作戦の第二段階である。
作戦の第一段階は、数え切れない程の魔力回復ポーションを利用したものになる。
「――『禁忌・邪竜降臨』、『禁忌・邪竜降臨』、『禁忌・邪竜降臨』、『禁忌・邪竜降臨』、『禁忌・邪竜降臨』、『禁忌・邪竜降臨』」
魔力消耗が激しい上に、三分間という時間制限が課せられた『終焉を告げし邪竜』を召喚する魔法。
その邪竜は強力で、時間制限さえなければ、高難易度の『ダンジョン』であっても、単独でその『ダンジョン』の敵を全滅できる程に規格外だ。
ゲームの時では万全の状態でも、一回使うのが限度ではあったが、魔力の消耗も度外視し、六回分発動する。
もちろん途中で魔力が足りなくなるが、その度に魔力回復ポーションのがぶ飲みし続けた。
その結果。一体でも反則級の力を誇る『終焉を告げし邪竜』。それが計六体も出現した。
流石に六体の『終焉を告げし邪竜』の気配は、相手側に隠すのは無理だったようだ。超弩級の魔力反応と暴力の気配に、六つの『ダンジョン』から慌てた様子で天使達が飛び出してくる。
本当に予想外の事態であったのか、虫のように湧いて出てくる天使達は下級ばっかりで、その中に中級がいくらか混じっている程度。
上級天使はの姿は見えない。元々いないのか、意表をつけているのか。
まあ、どっちでもいい。相手の準備が整う前に速攻を仕掛ければ、関係はない。
「――『終焉を告げし邪竜』達。今日は餌がたっぷりだ。存分に喰らいなさい」
「「GAaaaaっ!」」
何重にも重なる邪竜の咆哮が辺りに響き、虐殺が開始された。
■
「何だっ!? あの巫山戯た竜達はっ!? あれは一体しか使役できないのではないのかっ!?」
配下の天使達に『主』と呼ばれる存在。それは大いに困惑していた。
以前に多頭の邪竜は見かけはしたが、その時は一体しかおらず、僅かな時間で消滅し、呼び出していた『悪魔』の魔力はごっそりと減っていた。
だから、あの多頭の邪竜を召喚する魔法は切り札であろうと『主』は判断していた。
呼ばれてしまうと被害は大きいかもしれないが、制限時間を耐えさえすれば、それだけで片がつくと。
それなのに多頭の邪竜は複数もいて、時間経過で消えはするが、その度に新たな個体が出現する。
はっきりと言って、悪夢のような光景だ。
「……『主』よ。先ほど『第三の塔』と『第四の塔』の陥落を確認しました」
「……クソっ!? 無能な天使どもめっ!? 私が聞きたいのは、そのような情けない報告ではないっ!?」
「……申し訳ありません。現在の『塔』一個分の戦力では、あの邪竜の撃破は困難を極めます。それに邪竜の後ろには悪魔や堕天使に、キメラの群れがついております。
全ての戦力を集結して、ようやく邪竜を一体倒せるかどうか。この戦い、私達に勝機は……」
「黙れっ!? ……予定は狂わされたが、『アレ』を使う。そうすれば、あんな『悪魔』の軍勢など、私の敵ではない!」
そう言う『主』の顔には、歪ながらも笑みが浮かんでいた。
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