第9話 学校事変1

     9.学校事変1


 赤髪のポールは、見た目とちがって非常にマナーのよい運転をする。助手席ではドラギが寛いだ様子でタバコを燻らせるが、そんなドラギに対して、気をつかっているようだ。

「今のところ、お前たちは研修生の扱いだ。そのうちバディを組んで活動するようになるが、その状態で何年か経て、やっと一人前だよ」

 今日は後部座席に、亜土内と三木がいた。

「私は、この人とは嫌です」

 三木ははっきりと、そういった。この人……亜土内は苦笑する。

「安心しろ。新人同士を組ませないよ。君のようなカワイイ子なら、オレが名乗りをあげたいぐらいだが……」

「ドラギさん、オレを見限る気ッスか⁉」

「オレとポールはバディを組んで二年。まだまだヒヨッコだしな……」

 ドラギは本気で口惜しそうにするばかりだ。


「バディは替わらないんですか?」

 三木の疑問に、ドラギが応じた。

「基本、組み合わせを考えてそうしているから、よりよい相手が現れれば替わることはあるよ。だが、一般的には若手が独り立ちして、組み替え……だな。今は、この前バディを喪った瀬戸さんか、後は一匹狼でやっている碑石さんか……」

「げッ! 碑石さんとか、マジっすか?」

「最近、相棒をご所望だという話を聞いた。オレもマジか⁉ と思ったが、あの人なら言いかねん」

 ドラギはそう笑ってみせる。ピンで活動する人もいるなら、オレもそれでいい、と亜土内は思った。だって、バディなんて面倒なもの、誰かと関わったら、余計な思い入れをしないといけなくなるから……。


 そこは学校――。

「ここはイジメが頻発することで有名さ」

「もしかして、それも刹鬼の仕業?」

 三木がそう訊ねると、ポールが「オレたちがそれ以外で出張るかよ!」と、ちょっと食い気味に応じた。ドラギがバディ交替に色気をみせたことで、ポールは三木を敵視するようだ。

「まぁまぁ……。ここではイジメで人が死ぬ前に、とある鳥が確認される。頭は白くて、全身には黒い斑点があり、嘴は赤く、イノシシぐらいの大きさがあるそうだ。そんな鳥、この世界には存在しない」

 ドラギはそういって、たばこに火を点けた。

 ポールはドラギのその姿にぷいっと横を向く。ドラギは笑って「こいつ、後一ヶ月は禁煙なんだ。オレとバディを組む間は、未成年のうちは禁煙、という縛りを守っているのさ」


 未成年? チンピラ風の風体で、腕まくりをするとそこには入れ墨がある。そういうところも子供っぽいのかもしれないが、後一ヶ月で成人のようだ。

「その鳥が刹鬼ってこと?」

 三木の疑問に、ドラギは頷く。

「多分、誰かの心にとり憑いたそれが、実体化して分裂したのさ。そして、イジメのようなことが起こるとき、それを見物しにやってくる。人の心の荒み、歪みを見るのが愉しくて仕方ないんだろう。それが兆し鳥、と呼ばれる所以さ」

「ドラギさんは、その刹鬼のことを知っているんですか?」

 三木が訊ねると、ドラギは頷く代わりに「あぁ、知っているよ。目のまえにいる」と応じた。

 慌てて三木がみると、そこに校舎の屋上に、大きな鳥がいた。


 飛び去ってしまう。

「あれは大鶚――。戦乱の兆しとされ、中国の歴史書にも登場する。オレたちを見に来たのだろう」

「昔から鳳凰、麒麟、善の兆しを告げる獣は有名だろうが! 悪の兆しを告げる獣もいるんだよ」

 ポールはまだお冠ながら、意外な知識を披露する。

「しかし、それは兆しではなく、人の心を動かし、操ってそうする……としたら?」

 ドラギの言葉に、三木も頷く。「じゃあ、あれを倒すのね?」

「正確にいうとちがう。あれは幻覚、分裂する前の本体、つまり依り代を倒さないと止まらん」

 そういうと、ドラギは職員室を見上げた。


 もう宵闇がせまる時刻――。生徒たちはいないけれど、職員室には煌々と明かりが灯される。

 四人が職員室のドアを開けると、教師たちは机に向かって仕事をするばかりで、顔を上げる者もいない。ただ、一人の女性教師が窓枠に腰をかけ、四人のことをじっと見ていた。

 細身でメガネをかけ、タイトスカートで足を組む。その勝気な表情をみて、ドラギも「嫌いじゃないが……、すでに刹鬼に魂まで喰われているようだな?」

「喰う? はははッ! こいつが委ねたのだ。すべてのしがらみから逃れて、自由になりたい……と」

「しがらみ……だと?」

「生意気なくせに、判断力が劣り、人間性も欠落するガキ。そんなガキを全肯定し、教師を全否定する親、そんな親に阿り、トラブルを嫌がって事なかれ主義をつらぬく教育委員会――。

 現場の教師を袋叩きにし、溜飲を下げさせるマスゴミ。それに同調する、脳の足りないネット民……。

 それらをすべて〝しがらみ〟というのさ」

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霊鬼爭衡 イカ奇想 @aholic

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