SPACE INVADERS〜祠壊し編〜

秋乃晃

トオクカラキマシタ

 村の結界を生み出している祠の場所に、が突き立てられていた。地面に、そりゃあもう深々と突き刺さっている。ボーリング調査かなってぐらいだ。地面師もきっとびっくりである。地面師がボーリング調査をするのかは知らない。


「あ、あああ……」


 祠だったものは粉々になってしまっている。パズルのピースでもここまで細かくならない。コレを組み立て直そうと考えるよりは、新しく建て直したほうが早いだろう。


 とにかく今は剣しかない。小一時間前まではいい感じに古びた映えスポット的な祠があったのだ。今は剣しかない。引き抜いたら勇者として認められるかもしれない。そんな謂れはない。伝承が別のものとすげ変わっている。


「なんじゃ……こりゎ……」


 村長の甥が第一発見者である。十月になってもまだ暑い異常気象の影響を受けて、村長はすっかり痩せ細ってしまい、次の村長を決める選挙が今月末に開かれる予定だった。この甥も次期村長の立候補者である。村長の甥は、毎日この祠へ願掛けしに来ていた。信じる者は救われる。


「第一村人発見だぞ!」


 草むらから美女が飛び出してきた。急に飛び出てくるもんだから、村長の甥は尻餅をぺったんことついてしまう。当たり所が悪かったら重傷だ。なんとか致命傷は免れた。


「よ、よそもんか!?」

「ヨソモン……? そんなポケモンは聞いたことがないぞ?」

「どこから来た! ウチの村のモンじゃなかろう!?」


 カラダは痛いが声は張れる。美女が形のいい眉をひそめていると、同じ草むらから美青年が現れた。


「第一村人さんですね✨こんにちは✨」

「な、ななな」


 小さな村なので、ワカイモンの顔は特に覚えている。はずだった。それこそ生まれた時から知っている。はずなのに、見覚えのない顔が立て続けに出てきて、村長の甥は対処に困っていた。こんにちは、という簡単な挨拶を返せないほどに。


「我が先に発見したのだぞ!」


 美女が口をへの字に曲げて主張する。美青年のほうは屈んで、村長の甥を立ち上がらせようと右手を伸ばしてきた。


「そうなのですか?」


 質問を重ねてくる。村長の甥はこくこくと高速でうなずいた。美青年のほうが話が通じそうだ。


「おぬしらは、いったいなんじゃ」


 答えてやったので、今度は村長の甥のターンである。質問はターン制であり、質問を質問で返してはならない。これは人間のルールであり、破ってはいけないとされている。


「ボクはアッティラといいます✨恐怖の大王様の命令で、YONAOSIキャラバンの途中です✨」


 もし、(この愉快な侵略者たちの上司にあたる)恐怖の大王様がこのセリフを聞いていたら『いや、そんなことは命令してないよ』と否定してくれるだろう。しかし恐怖の大王様はこのアッティラと美女の故郷の星である『ものすごく遠い星』にいるので聞こえていない。聞こえていないのをいいことに責任をなすりつけ放題である。


「我はアンゴルモアだぞ! この村に入った者は『一生帰れなくなる』というウワサを聞いた!」

「ボクは『一生帰れなくなる』と困るのですが、モアが『一人では行きたくないぞ』と泣きついてきたので、ついてきたのです✨ボクってば、妹思いの優しい兄ですね✨」


 村の入り口の立て看板の前にもう一体、フランソワを待たせている。モアから頼まれて、車を借り、この村の入り口まで運転して、村には入っていない。怖じ気づいたのではなく、モアとティラに付き合いきれないからである。


 フランソワは迷信を信じてない。だが、本当に『一生帰れなくなる』が発動したときに、恐怖の大王様へと緊急メッセージを送る役割を担っている。この星の怪異は時に宇宙人の想像を絶する不思議パワーを発揮するのだ。大事な部下を失うのはつらい。


 緊急メッセージを受け取った恐怖の大王様は、宇宙の果てから惑星を粉砕するビームを放ち、太陽系第三惑星地球を塵に変えるだろう。


「ここに祠があったのを見たかの?」


 村長の甥は剣を指さした。祠だったものはもはや跡形もないので、消去法として剣を指さすしかなかったのである。わかりやすく目印になるようなものがない。


「見ました✨」

「写真を撮ったぞ!」


 モアが『写真』アプリを開き、村長の甥に在りし日の祠の姿を見せる。ティラがピースして写っていたり、自撮りの角度で写り込んでいたり。


「なら、この剣はいったい……」

「この剣は、ですよ✨」

「ボクの、そうか、ボクの……ボクの!?」

「はい✨ボクの『軍神マルスの剣』です✨」


 ティラが自らの頬を両手で挟み「おーい!」と呼びかければ、地面に突き立てられていた剣がぬんと浮かび上がり、ティラの手元までふわふわと飛んできた。ティラはコズミックパワーにより、固有武器を空の果てから任意のタイミングで召喚できるのだ。


「あの祠壊したんか!?」

「はい!木っ端微塵に壊しておきました✨」


 具体的には『怪しいオーラを漂わせていた祠を調べたら怪異が飛び出てくる』のを警戒して、ティラが武器を構えようとした。もしこれがゲームなら『しらべる』を選んだ瞬間にバトル開始だっただろう。普段通りの手順で『軍神マルスの剣』を呼び出したら、祠そのものを破壊してしまったのである。


 事故。完全に事故です。落下地点が悪かった。謝って許されるような話じゃない。


 マジでそんなつもりはなかった侵略者たちはどうにかごまかそうと、祠の破片を拾い集めていた。そこで、草むらに屈んでいたのである。コズミックパワーならどうにかつなぎあわせて修復できる……はず……。


「なんてことを……なんてことをしてくれたんじゃ……」


 泣き崩れる村長の甥。


 この村の人々は祠の生み出す結界を活用し、ヨソモンを外界から隔離して、ヨソモンが持ち込んだ金品を剥ぎ取って収益を得ていた。無一文になったヨソモンはしぶしぶ村の一部となって生活していくのだ。


 百年ぐらいそんな運用をされていたから、祠がなくなってしまったらどうやって生活していいのかがわからない。祠システムによる日常は、侵略者によって崩壊してしまった。


「ティラが悪いのだぞ!」

「ボクのせいですか? モアが『この村に行くぞ!』とボクを誘わなければよかったのでは?」

「――とにかく、村人に報復される前に逃げるぞ!」

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