第3話「初めての学校」

 俺は合格を果たしてから、無事に中学を卒業した。それから春休みを迎えた俺のやるべきことは、まず異能ヶ嶺が実施している全寮制に従って学生寮にある自分の個室に荷物を運び出さなくてはいけないことである。それを一日を掛けて運び出した荷物を整理するところまで済ませると、今日からそこに住まうことになるのであった。


「ねぇねぇ! 博斗くんの部屋はどうなったの? 見せ合いっこしようよ!」


「仕方ないな。それなら入って良いぞ」


「お邪魔しまーす!」


 そうやって俺が輝菜子を個室に入れると、彼女は遠慮なく室内に踏み入れる。そこで俺が整理した部屋の中を見た瞬間に輝菜子は感嘆の声を上げた。


「うわぁ! 凄い部屋だね? 何だか男子の部屋とか初めて入ったから、あまりイメージが湧かなかったけど、それでも良かったかも知れないなぁ〜!」


「そうか? 初めてだったのか? 俺は女子の部屋なら何度も入った経験はあるぜ? それも小学一年生の頃から女子との付き合いも多かったからな」


「へぇ? 意外にモテるんだね?」


「別にそうじゃねぇよ。ただ単に仲良しだっただけだ」


 そんな風に輝菜子の解釈では俺の口にしたことが通じていなかったので、もっと分かりやすい言葉を発する。そしたら、それに輝菜子は何気ない顔でその話を間に受けた。それだけでわかったのだろうと思った時には俺も一安心している頃だったのだ。


 そして今度は輝菜子の部屋に案内される。中に入るとそこに広がる空間はとても女の子らしいと思える部屋となっていた。それを俺は輝菜子に向かって口にすると、それに対して彼女は納得したような様子を窺わせる。


「そうかな? まぁ、確かに女の子のなら普通こんな部屋だよね? それが普通だと思えるのが良いのかも知れないよ」


「輝菜子と最初に会った時の感想は、こんな子が異能ヶ嶺に通うなんて出来るのかって言う疑問だったよ。けど、輝菜子の異能力は吸収した光の量で身体機能の強度が増えるのが特徴だって聞いてから、かのり強力に思えていたんだ。でも、一つ疑問だったのが、吸収できる光には上限があるのか?」


「もちろん。強化できる身体機能にも上限があって、それに到達すると持続時間が伸びるぐらいしか効果は発揮されないの。まぁ、持続時間だけでも伸ばすなら、有りっ丈の光を吸収するのが良いことには変わらないけど」


 輝菜子の言いたいことは理解できている。光の吸収が無限の力を発揮するなら、それに越したことはないのだ。それに身体機能が強化されると、それだけで武器の扱いとの組み合わせも抜群になるだろう。武器の扱いに長けるだけで、それなりのパワーが発揮されるなら、それは活用しない手はないのだ。それだけ彼女の異能力はかなりの万能性があるのである。


「そう言えば博斗くんはの異能力は【黒腕】だったっけ? それは通常の硬度が強化された異能力だよね? されは殴るのに最適化した異能力なの?」


「あぁ。俺の異能力は殴ることが大前提だ。殴られた敵にはかなりのダメージが来るだろうよ。だから、体を鍛えることで、その幅を広げるトレーニングをして来た」


「なるほど。腕力の強化をすれば、さらにパンチ力が上がるもんね? それは凄く賢いかも知れない!」


 そうやって輝菜子が感心の声を上げると、それに俺は床に座ってゆっくりする。女子の部屋でくつほぐのはどうかと思うが、それでも彼女からは文句の声が上がっていないことから、きっとそれは良かったと言えた。そしてしばらく会話を交わしていると、そこで放送が寮内に響き渡る。


『新入生の皆さん! どうも、寮内を管理しています。智咲日苗です。これからの三年間は貴方たちが過ごす上で監査役に回されていますので、どうかよろしくお願いします。それでは今から昼食の時間になりますので、食堂に来てください』


 それだけ日苗さんが口にすると、俺らはそれに従って昼食を頂きに行く。俺も丁度良いタイミングでお腹が空いたので、その頃合いでご飯が頂けるのはラッキーだった。俺は輝菜子の部屋を出て、一階にある食堂に向かって行くのである。


 そして俺らが食堂に来た時にはすでに行列が出来ており、毎度食事のメニューは決まっているものだと、そんな風に伝えられていたので、俺らはその定まったご飯を受け取る。今日はカレーライスみたいで、俺の大好物でもあることから、それを有り難く頂いた。


「「いただきます」」


 輝菜子と口を揃えて挨拶をすると、俺はスプーンで一口分だけすくってから、それを食べる。このカレーライスはどうやら辛口のようで、丁度良い刺激が舌に来るのを感じた。なので、俺はそれを平らげる頃には輝菜子の方もあと二口ぐらいで完食するのが窺える。


「「ご馳走様でした」」


 そうやって再び挨拶を同時にしてから、俺らは自分たちの使った食器を片付ける。そしてその後はそれぞれの部屋に戻るようにお互いに確認し合うった。


「それじゃあ俺は自分の部屋に戻るよ。ここで別れようぜ?」


「そうだね? この先は私も部屋でゆっくりしたいと思う」


「じゃあな!」


 そんな風に俺らがその場で別れると、自分が今日から住まう部屋に来る手前で気付いたことがあった。それは俺の部屋の前で誰かが待ち構えていることだ。それは見た限りだと異性であり、彼女が何で俺が使用している部屋がある扉の前に立って待っていたのか謎に思えたところが沢山だった。


「あのう? そこは俺の部屋ですけど?」


「やっと来たか? お前が私の友達を殴って倒した男ね? お陰でその子は不合格だったんだから!」


「はぁ? それって実技試験の時に起きたことか? それは残念に思うが、それも俺が近くにいたことが不幸だっただけだろ? それとも俺に決闘でも申し込むのか?」


「そうだ! 勘の良い奴め! 私と戦え!」


(いきなり何かと思いきや敵討ちか? それにしては挑戦者が女子とは、少しやりづらいな)


 そんな風に思っていると、彼女はその場で真っ先に名乗り始めた。


「私の名前は炎城燐火だ! 私の扱う異能力は【灼炎】と言う! そこでお前の異能力も明かしなさい!」


「良いだろう。俺のは【黒腕】と言う異能力だ。どうやら炎の異能力で挑むようだけど、俺が扱っているこの異能力に関しては殺傷性が高い。だから、勝負するなら授業の時にでもしないか?」


「仕方がない。それでも良いだろう。だが、決して逃げるなよ! 私がお前を倒して痛い目を見せてやるんだ!」


「望むところだ! その勝負は受けさせてもらう!」


「では、失礼する」


 それだけ言い終えると、俺の部屋から離れたところに行ってしまった。それも彼女が目指したのは上るための階段で、その先からは姿が窺えなかったのである。


(マジで疲れるぜ。しかし、この場で負ける訳にはいかない)


 仇だろうがどうだって良かったが、それを受けなければ俺は逃げたことになってしまうと思ってそれを了解した。しかし、炎を相手するのは俺も初めだ。それを踏まえた上で、俺は彼女に臨みたいと思う。相手の戦闘技能はまだ俺の知る余地はなかった。だけど、それでも決して負ける訳にはいかないのだ。


「ま、良いか」


 そうやって俺は部屋の中に入って行った。


 それから一週間が経過する。それまでは輝菜子と一緒にトレーニングを重ねてさらなる強化をしていた。そして今日からいよいよ入学式が始まる。


「今日は入学式だけど、さっき配られた紙に記されたクラスが私たちの配属になるところだよね?」


「そうだな。俺も輝菜子もA組だったみたいだな?」


「うん!」


 俺らはクラスメイトになれたのが奇跡のようだ。しかし、一つのクラスに二十人しかいない規模のうちに入れたのはまさにラッキーだ。けど、これも実力のうちだと考えれば当然なのが言えることだろう。だから、俺は自信を持って行くのだ。


 そして俺らが教室に来てから席に着くと、その空間は静まっており、誰一人として声を上げる者はいなかった。その空気に合わせて俺らもその場では声を上がないようにする。


(燐火の奴もクラスメイトか? 本当に対決しても勝負になるのかな?)


 そんな疑問が生じたが、この実技試験を超えて来た存在ではある。それなりに強い異能者として見るのが良いと思わせた。しかし、俺がここで負けたら、実技試験の時も大した結果ではなかったのは確かだろう。だから、俺の内心では覚悟を持って挑みに行くことをするのであった。


 そして俺が何気なく燐火の方を見ていた時だ。そこで燐火がこちらに気づいた瞬間に睨み付けて来たのである。彼女が目で訴えたのは多分『こっちを見るな!』だと思われた。それぐらい俺のことはよく思っていないように思える燐火から目を逸らすと、そこで輝菜子が遠くから目撃されてしまう。何か不審に思われることをしてしまっていないか疑問を抱いたので、俺は後で確認しておくことにした。大した内容でもないが、何かしら誤解があっては問題になるかも知れないと思ったので、それなりに確かめておくのは怠らないのが筋だと思っているのだ。


 そうやって俺がしばらく自前の本を読んで待つことにすると、それに夢中になるうちに時間が来た。予鈴のチャイムが鳴ると、それは合わせて前のドアから誰かが入って来るのであった。それはきっとうちの担任にもなるだろうら人物であるのは確かだ。それも教師に当たるのであれば、それほどの実力者なのは言うまでもない。だから、彼の口から出た自己紹介にも含まれていた異能力の説明を聞いて俺は少しだけ満足が出来たように思えるのであった。


「私は蒼月氷華だ。今日からA組を担当するので、よろしくお願いしたい。私の異能力は【氷結操作】で、意思だけで凍らせてしまうことが出来る。私の体質では気温が低いところや雪などが降っている場所とかにいる時は異能力が底上げされる。それに身体の一部を凍らせることで攻撃力や防御力などの強化にもなる。特に拳や胴体がその対象に当たることは覚えておけ。いつか私と対戦する時が来るだろうから、それまでの間には君たちの強化に当たる予定でいる。だから、心して掛かれ!」


(どうやら氷結を操る異能力を扱っているみたいだな? どこからでも凍らすことが出来るなら、足場は気を付けないとだ。もし足場がやられたら、きっと動けなくなるのは目に見えている。しかし、もし下半身が凍らされた場合には致命傷だと思ったほうが良いな)


 そこで俺の内心に浮かぶ攻略法は何通りかあった。それは凍らされる前に動き回ることで狙いを定められないようにするのが一番効果的だと思われる。意識しなければいけないなら、対象が動いていると、意識が定まらなくて凍結が出来ない状況に陥ると見た。なので、円を描くようにして間合いを詰めて、攻撃が及ぶ距離まで来たら殴るのが彼女を攻略する方法だろう。これなら彼女を倒せる鍵になっても可笑しくはないのだ。


「この後で君たちには体育館で入学式に参加してもらう。そこでの私語や居眠りは徹底して止めて欲しい。もしそれが見られた時には君たちを容赦なく罰が下るものだと思ってくれ。それと入学式が終わったら、それから先は教材を配るのでバックに入れて持って帰ってもらう。以上で今日は解散になるので、放課後は春休みと同様で図書室や体育館が空いている。そこを使いたければ申請を出して許可をもらいなさい。それでは廊下に番号順で並んでくれ!」


 そんな指示が出ると、俺らは取り敢えず廊下に行って氷華先生の言われた通りに並ぶ。そこまでは中学生の時と変わらないところではあったので、それほど困ったことはなかった。そして並び終えると、俺らはその列を崩さないで体育館に向かうのだ。


 そして入学式がいよいよ始まる寸前にまで差し掛かった。始まりの合図として司会がマイクを使って進行させると、そこでパイプ椅子に座っていた俺たちの視線はすべて壇上に上がって話をする人たちだ。黙って見ているのは正直に言うと、退屈すぎてしょうがないが、それでも評価先生が言っていたことが確かなら、聞かなければならないのは確かである。なので、俺は壇上の人が話す内容を聞きながら終わりを待った。


 そんな感じで入学式の進行は続き、やっと終わりを迎える。司会が先生たちの指示に従って動くように仕向けると、そこで氷華先生が新入生全体に向けて声を掛けた。それが体育館に響き渡ると、俺はそれに従うのだ。


 教室に帰る時も列を崩さないようにする。そして教室まで辿り着くと、先頭に立っていた氷華先生が列の分散を合図した。それを聞いた俺らが取った行動は真っ先に崩すことである。そうやって予鈴がなるまでの間は、俺らのフリータイムとされた。

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最強の鉄拳でお前をぶち破る! シャチマくん @mukuromukuromukuro

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