第2話「実技試験当日」
俺は実技試験の日になってしっかりと睡眠を取ることで、肝心な時に眠気に襲われないようにする対策を施した。十分前には支度を済ませてから、俺の向かう場所はバス停になる。そこで輝菜子の奴と待ち合わせしているため、それに間に合うように家を出た。そして俺が目的地に辿り着くと、そこには俺よりも先に来ていた輝菜子が待ち受ける。
「待たせたな!」
「あ! 博斗くんだ! 別にまだ大丈夫なんだけどな? 待ち合わせまで三分ほど余ってるからね?」
「結構ギリギリなのは分かってたけど、しっかり睡眠は守るべきだと思って十分前に起きたんだ。それでこの時間に到着したんだよ」
「へぇ? やっぱり博斗くんはしっかりしてるね? 私は楽しみで早く起きちゃって、今では少し眠いかも」
「だったら、バスの中で寝ると良い。実際に到着するまでの間なら大丈夫だ。それに着いたら起こしてやるよ」
「ありがとう。そこまでしてくれるのは助かっちゃうね?」
そんな会話を交わしているうちにバスが到着して、俺らはそれに乗り込む。そのバスに乗車して目標地点まで行くのは今回で二度目だ。昨日も目標地点までの道のりを同じ手段で通っていたので、今日は慣れてしまたまた方である。そして俺らの乗ったバスは目標地点に向かって走って行くのであった。
今日までの間に輝菜子と一緒になって鍛えた身体は現在ではたくましくなっている。それが俺の示す努力の結果なので、それをこの実技試験で試しに通じるのかどうかをぶっつけ本番で確かめる良い機械だと思っていた。それにこれで受かれば念願だった【異能ヶ嶺学園】の生徒になれる訳だ。ならば、俺はこの戦場で自身の実力を示したいと思う。そこで落ちた時は俺の爪が甘かったと見ても何の不満もないのであった。だから、俺は実技試験を通して自分がどれだけやれるのかを確かめたいと思っている。
そして目標地点に到着すると、そこで寝ていた輝菜子を起こして下車した。そこで目の前に待ち構えた異能ヶ嶺の校舎は日本でも最大級の規模を誇る敷地に建てられている。その中でも今回の実技試験が行われるステージはどこかに配属されている空間の形成を施す業者の手によってステージが毎年作られているのだった。そこが今回の実技試験の会場になる。
「確か昨日の説明によるとこっちで合ってるよな? それともあっちに行けば良いの?」
「あそこに向かって他の志望者たちは進んでるから、そこに行けば着くかも知れないんじゃないの?」
「そうだな。それに従おう」
そうやって道に迷った末に俺は他の奴らが進んで行く方向を目指してみる。その先に向かうと、俺らは説明のあった通りの場所に着くのだった。
「やっぱり付いて来て正解だったな?」
「うん。無理なく着けたね?」
そうやって俺らの間で安心すると、そこで指定された席に着いた。そして五分ほど輝菜子と会話をしながら待っていると、やっと正面にスポットライトが当たって、一人の人物が照らされる。その人物はどつやら異能ヶ嶺の教師のようで、彼が実技試験の説明をする担当を務めていると見ても良かった。
「それじゃあ実技試験を開始したいと思う。俺は知っての通り、実技試験における説明の担当を務める吹谷風斗だ。よろしく! 今日は来てくれたみんなに理解できるように話をしたいと思う。では、まずは試験の内容について話すぞ! 聞き逃すなよ!」
(いよいよ始まる。これまでの成果を出す時になったんだ。ここで実力が発揮できなくて学内トップなんてなれやしない。この学校で這い上がるにはこの試験である程度の実力は出さなければいけない。だから、今回は輝菜子が相手に回った時には全力で倒しに行くつもりだ! これで負ける訳にはいかないんだもんな!)
そんな風に思うことで、俺の見せ場として実技試験を選ぶのも、中にはこれから一緒に学校生活を過ごすクラスメイトが混じっているはずなのである。そんな奴らも勝ち上がって来たうちの一人なら、この実技試験で相手した志望者は把握するべきだ。なので、俺は実技試験の様子ははっきりさせたいと思う。
「初めに正面のモニターに映った画面に載せてある一覧を見て、自身の名前が書かれた志望者の諸君はステージに移動してくれ。そこでは総人数の七千人中をA〜Gまでのグループで千人ずつに分担する。諸君にはこれからお互いのポイントを巡って戦ってもらう。ちなみにステージまで移るのに目隠しの状態で配置させるつもりだ。配置される場所はランダムになっているため、適当に座ってもらった席順に従って決めたいと思う。一人を撃破するごとに二ポイントが加算される仕組みで、制限時間を生き残った志望者には五ポイントが与えられる。この場では合計ポイントで競ってもらうことになる。そして上位の四十名が特別科に配属される。余った志望者のうちからは筆記テストの上位四十名が普通科になれる仕組みになっているので要注意だ! それではモニターに映し出された通りにステージまで案内する!」
そうやって正面のモニターが映し出した一番手となる志望者の名前が載せられた一覧通りにステージに案内される。Aグループには俺の名前はなく、輝菜子もその枠からは外れていた。そして暇になってしまう志望者のためにも、モニターでAグループの様子が映し出された。それを見て誰が活躍していたのかを把握する姿勢を取る。このモニターに映し出された志望者のうちでも活躍できた人たちは少なからず、これから学校生活を共にする合格者たちであるなら、その異能力を確認することに意義があると思われた。
(さて、どんな戦いになるのかな?)
そんな風に俺はモニターをじっと眺めていると、早速画面の先で交戦をする志望者の様子が流れる。果たしてこの中には俺がライバルだと思える志望者はいるのかが気になるところだった。
それからAグループの試験が終わった頃の話だ。活躍した志望者の異能力は大体分かったので良かったけれど、Bグループが発表された時には俺の名前がモニターの画面に表示してあるのを見て声を掛けて来た在校生の指示に従って移動する。配置されるまでの間は俺にも把握することは不可能に等しいが、そこで在校生の声がその場で止まるように指示があると、そこがスタート地点だと悟った。相手は全員で千人と言う規模だ。それらを相手するのなら、俺はせめて三位までには入りたいと思った。
「それでは配置に着いた諸君は始まりの合図と共に視界が開くから、周囲にいる対戦相手と鉢合わせたのなら、そこで交戦を始めてくれ! では、スタート!」
すると、在校生によってされた目隠しが外れた。それも俺が自ら解いたのではなく、もちろん自動的に取れたと思うべきだろう。そして視界に入った対戦相手を見て、俺は始まっていることを確信した。
(始まってる……!)
そして俺は取り敢えず周囲の対戦相手たちの中から初めに撃破する対象者を一人ずつ潰して行く。俺の異能力は肩から手までに渡って黒く変色している部位が頑丈出来ていた。それで殴られた対象者は一溜まりもないダメージを受けることは間違いない。何せとても硬くて頑丈な拳が顔面を捉えたなら、その時点で戦闘不能に陥るのは必然だと言っても良いのだ。これまで鍛えて来た身体のお陰で周囲の志望者たちの動きが自分たちよりも遅く感じるのは、それほどの鍛錬が成果として表れているからである。俺は片っ端から潰して行くと、それによって戦闘を離脱せざるを得ない対戦相手が俺の一撃で決まった定めならば、それを継続できるだけの成果に満足するのであった。これなら合格する確率も高いと思えた瞬間に俺が動かす身体は軽くなっているのが分かる。それに振るって行った拳は攻撃を防ぐ暇すら与えないスピードで志望者の顔面を捉えた。その一撃が同じ志望者には強く打ち込まれたのだ。
「うぉぉぉ!」
人を殴るのはこれで初めてだ。この感覚はこれから先の生活には必然にも思えてしまうと思った。それに俺がこの場で圧倒している事実は何ものにも変えられない真実なのである。それを発揮して行く度に志望者が消えてしまっていることが不思議に思えたが、今はこの足を止めてはならないと思うばかりで、次々と迫って来る志望者を殴り付けた。
そしてまだ残りがいる中で、ついに終了の合図が出される。その合図は放送によってステージの上に立つ志望者に向けられた。それを聞いた瞬間に俺の意識は急に閉ざされてしまうが、すぐに視界が開ける。すると、目の前には在校生だと思われる生徒が俺を見詰めていた。
「やぁ? 凄い活躍だったね? 君が倒した敵は四百五十二人だよ? おめでとう! Bグループでも二番目にポイントが稼げていたので、後は三日後に公表される合格者の名前一覧に記してある志望者が異能ヶ嶺の入学を許可する対象になっているから、その時にはまた会えると思うよ?」
「んぅ? ここは……?」
「ここはデータ処理室だよ。君は実技試験を受けるための機械を通して分身を作ることに挑戦したんだ。全員が体験できると思うけど、うちに入学が出来れば授業でも使えるから楽しみにしたいな? それじゃあ自宅でゆっくりしてください」
それだけ言われてから、謎に思いながらもそこの部屋を出た。そして俺は見知らぬ廊下に差し掛かったところで、そこに待ち受けていた輝菜子が興奮しながら感激した様子を窺わせる。それも俺がさっきまで寝ていた【データ処理室】が関連しているようだった。
「凄いよ! これが世界中に拡散している例の技術かぁ〜! これは貴重な体験になったなぁ!」
「んぅ? そんなに興奮してどうしたって言うんだ?」
「だってさっきの実技試験に用いられた技術って私たちの身体能力をデータ化することで分身を作り出し、それを自我を維持したままコンピュータ上で戦わせてきたんだよ? それって凄くない?」
「……え? それってもしかして【データ対戦】のことか? それがこの実技試験で使われた?」
「うん。私たちはいつの間にかデータの収集のために目隠しさせられた上でコンピュータの中にしか存在しない分身に意識を移されてから対戦が行われたんだよ。これはまさしく見込みがあるってことなんだよね?」
(その話を聞いて理解したことがある。それは先ほどまで説明を受けていた空間から先を進む前に目隠しがされた瞬間にデータ収集が施されて意識がコンピュータの中にある分身を通して交戦が開始したと言うことになるよな? それなら本当なら俺はそれまで寝ていたのか?)
それはつまりよく考えると、俺はCグループから先の実技試験に関しては見て来ないことになるのだ。そして現在は輝菜子も体験済みに数えられるところからすると、すでに実技試験は終了していると言う訳である。
「終わったのか?」
「そうだよ? 博斗くんは中々起きなかったようだけど、私もかなりのポイントが稼げたはずだから、合格は間違いないような気がするよ。けど、それも全部三日後には分かるんだから、そこまで気にする必要性もないね!」
「そうだな」
そうやって理解に遅れてしまった俺は輝菜子の言動に付いて行けなかった。しかし、やっとの思いで追い付いたところで、俺らは帰りのバス停まで向かう。
そして三日後になった。俺らの向かっている先は再び異能ヶ嶺の校舎である。そこで合格発表がらされるので、俺らはそれを確かめに行くのであった。
「まだ公開されてないみたいだね?」
「あぁ。発表までもう少し時間があるしな」
「そっか」
そうやって俺らは発表が行われる時間帯よりも十分ほど早く現着していた。そこで残り僅かになった時間を過ごすと、そこでようやく公開がされる動きが見られる。
そしてホワイトボードが立ち入りを禁止されている場所に運ばれると、そこで丁度ぴったり時間が来た時になって、そこを解禁させてもらうのであった。
それと同時に志望者たちが一斉にホワイトボードを囲うと、その人混みを掻き分けて入って行く。そしてずらりと並んだ名前の一覧から自分の氏名を探した。すると、ずっと順番に見て行くと、なんとその中には俺らの名前がしっかり載せられている。
「やったぁ! 私も博斗くんも合格してるじゃん!」
「そうだな? 俺らは無事に合格みたいだ」
そんな感じで俺らの合格は決まった。それが俺らにとって最大の喜びとなり、この結果を自宅に帰って両親に打ち明ける。それに両親たちも一緒になって喜んだ。
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