角取物語

月井 忠

一話完結

 いまは昔、竹取の翁というものありけり。

 野山にまじりて竹を取りつつ、密かに筋トレに励む。


 ある時、爺さんはベンチプレスの最中に横から光を受け、そちらに目を向けました。

 なぜか竹が光っていたのです。


 爺さんがその力強い腕で竹を引きちぎると、そこには美しい筋肉をまとい、サイドチェストをした女の子がいました。

 その筋肉に見とれた爺さんは女の子を連れて帰り、婆さんと一緒に育てることにします。


 なんということでしょう。

 女の子はダンベルを一度も握ることなく、あっという間にマッチョに育ったのでした。


 二人はこのマッチョをバルク姫と名付けました。

 バルク姫の筋肉はめっぽう美しいと評判になり、何人もの婿候補マッチョが訪れることになります。


 ですが、バルク姫は筋トレをするばかりで部屋から出てきませんでした。


「筋トレばかりが人生ではないぞい」

 爺さんがそう諭すと、バルク姫は返します。


「一角獣の角を持ってきたものをトレーニングパートナーとして召し抱えます」


 なんでもバルク姫が言うには、一角獣の角は高濃度圧縮プロテインということらしいのです。

 真に受けた婿候補マッチョたちは、一角獣を探しました。


 あるものは、不思議な踊りでユニコーンを誘惑し、近づいたところを「ニーブラ!」と叫んで、そのぶっとい二の腕でヘッドロックをかまし、角をへし折りました。


 角を折られたユニコーンは泣いて逃げます。


 こうして得られた一角獣の角はバルク姫の元に集まったのです。

 ですが、バルク姫は「これは真のプロテインじゃない」と言って、すべて砕いてしまったのでした。


 マッチョたちは真のプロテインを探し求め、一角獣を探し求めます。

 ユニコーンたちはおののきました。


 長い長い夏がやっと終わりを迎え、季節は秋に差し掛かろうというのに、黒く日焼けをし、この寒さの中でもブーメランパンツ一丁で向かってきて、白い歯をむき出しにして笑うマッチョたちを恐れたのです。


 ユニコーンたちは苦肉の策を選びました。

 一角獣たるプライドを捨てて、生き残ることを選んだのです。


 ユニコーンたちは互いに向かい合うと、それぞれ相手の角を折り、ただの馬になったのです。

 馬たちは自ら折った角を高い高い山のてっぺんまで持っていき、そこで焼きました。


「マッチョのせいで……」

 かつて一角獣だったものたちは悲しみのため息を吐きました。


 こうして一角獣はこの世から姿を消したのです。

 マッチョたちが真のプロテインを求めなければ、もしくはバルク姫の世迷言を真に受けなければ、今もこの世界に一角獣が溢れていたことでしょう。


 そう、一角獣の角には何の効果もなかったのです。

 ちょうど象牙には何の効果もないのと同じです。


 それにプロテインは本当に必要だったのでしょうか。

 何もしないでプロテインを飲めばマッチョになれるのでしょうか。


 いいえ、違います。

 日々のたゆまぬ筋トレがバルクアップをもたらすのです。


 マッチョたちは原点に帰るべきだったのです。


 ところでバルク姫はというと、月にあるという極上のジムへ向かうと言って、お金をためているそうです。

 なんでも、海の向こうの国には月まで行ける竹筒があって、それに乗るには莫大なお金がかかるということです。


 バルク姫は砕いた一角獣の角を粉状にすりつぶし、低濃度プロテインという名で売っていました。

 効果はなくともマッチョたちには好評で、もうそろそろ月に行くだけのお金は貯まるそうです。

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角取物語 月井 忠 @TKTDS

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