一角獣のため息

海空

アイドルだって恋をする!

 ────アイドル

 それは時に神と崇められ、麒麟や一角獣のような空想上の生き物のように扱われたりもする。しかし、彼ら彼女らも人の子。ご飯も食べれば排泄もする極々普通の人間なのである。



「うわぁあああああああああ!!!」


 昼の公園で男の叫び声。一斉に注目を浴びるのは当然のこと。

 視線の先にいたのは1組の男女。両人共にサングラスと帽子で見るからに人目を避けた風貌。

 

 そう、この2人実は訳アリ。


 かたや人気上昇中の地下アイドル相道あいどうチカ。そして声をあげた男は1年の追っかけをした後、今はチカの彼氏となった模舞もぶモブ男である。


「ちょ、ちょっとモブ男くん、何大声あげてるの。やめてよ、みんな見てるし、そんな化け物みたいな反応しなくてもいいじゃない。も~ショックだなぁ」


 少女は顔を真っ赤にしてモブ男の袖口を握りしめた。


「だ、だってチカちゃんが、い、い、いきなり手・手・手・手を握るからぁぁぁ!」


 え~という顔のチカ。


「あたしたち付き合って2ヶ月だよ、まだ手を繋いじゃいけないの?」


「いや、その、ごめん、まだ心の準備が……というか、まだ免疫が無くて……」


「またぁ? 免疫免疫って人を病原菌扱いして、以前だって握手会で手握ったことあるでしょ?」


「あれは3秒だし!」


「3秒?」


「触れる、お礼を言われる、ギュッと一瞬強く握る、その間3秒。だから3秒以上は叫びたくなるわけですよぉ、ああ、もー心臓が持たないぃぃぃぃぃぃぃぃ♡♡♡」


 はーーーーーーーーーーーーーーーっ


 普通に恋愛がしたいチカは今日も大きなため息をつく。


 はーーーーーーーーーーーーーーーっ


 チカの一挙一動で天にも昇るモブ男は幸せのため息をつく。




 一角獣フィルターは少々厄介なのである。




 


 

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一角獣のため息 海空 @aoiumiaoisora

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