第5話
ボロボロになりながらも、手当はして、何とか献花だけはしに行った。
マリン船長は、空な眼で、どうにも心を閉ざしていたらしいけど、其の花を見るなり、元気を出して貰えた。
敵になっておきながら、不本意だが、花ですって言って渡すのが少し萎れたな。
でも踊り子として元気ある姿を見せないと行けない。私の舞のお陰で、皆、死なずに済んだのだから。
〜〜
「ねぇ〜。何で裁判になっちゃったかな〜。」
「それはそうだけど…どうにもイマイチ味気ないって言うか。」
そこはとある争いのない喫茶店。
アーニャ・メルフィッサが経営する小じんまりとしただが、確かな風情を感じさせる少し近未来っぽい様相を呈したこっちの世界で言うところの一般的なお店で、彼女達、吸血鬼だが
「ね〜。トワっちはさ〜何でそんなに厄ネタ大好きなの〜?メルそう言うの分かんない〜。」
「元々裁判自体は興味ないって言うか、この世界自体が悲鳴を挙げている所とかもっと頑張れよと思わずにはいられないですね。」
正義の元に執行される刃は争いの比ではなく少ない。だが、しかし、其の重みは常に軽んじていてはいけないものである。
確かに、彼女達の言う通り、世界は気ままに回って居るものだ。決して不用心に格好つけて居るだけとかそんなもんじゃ無い。世界は不用心にも、格好が付いているとかそう言う類の話なのだ。
「ね〜トワち〜。裁判襲撃しない〜?」
「それは出来ない相談ですね。幾ら天下の吸血鬼様の頼み事だったとしても。」
「トワ、やっぱり辞めようかな。この職場。魔王の統制下で、常に合理的な思考ができる人を募集しておりますとか、合理的な理由で入った片っ端から従わせてるだけなんじゃとか、いつでも定時で帰れるとかも今思えば普通だし、どんな方でもフレンドリーに接することができますなんて、一番向いてないって言うか。」
太愚痴を垂れるのが目の前に居る四天王のNo.2だとしても、と一線は引けるが相手によって似たり寄ったりのところがあるトワ様は、目の前に居るんだもんね。聞いておかないとねと言った精神なのだ。
「そんな事ばっかり言ってると噛んじゃうよ〜。」
「ウワッ出た。パワハラ。これは辞める口実になります。どうも本日付けでこの会社辞めさせてもらいます。ご馳走様です。コーヒー美味しかったです。」
そんなこんなで、片付けを進めて居ると、徹夜漬けで朝帰りに強制的にさせられた鷹嶺ルイがやって来た。
「あっ。お久し振りです〜。良い上司、良い職場をモットーに鷹嶺ルイです。って、今は営業先との取引じゃ無かったんだ。あー、メル先輩?そんな世の中が終わった様な顔しないで下さい。」
実に、第七席と第二席、身分の違いさえあれど、共に仲良く手を取り合って働く良い仲間だ。
「ところでそこの人は。」
「あー、これからウチで働く事になった第八席の常闇トワ様です〜。あっもう辞めちゃうんだった。」
「ふーん。これが期待の新人ねー。て言うかもう辞めちゃうんですか。はやっ。」
「私はあんたより歳上です〜。ベーだ。」
「そんな(歳が)違わない癖に、随分と生意気な後輩だな。おい。」
「トワ知らん振り〜もう帰る。」
とまあ、いつものトワ様を知って居る者ならえっと思わず振り返りたくなる様な場面に何度も遭遇してしまう。
ただ、最後のは少し沈黙気味だった。
「どうする〜。飲んでく〜?ルイルイー。」
「どうするもこうするも、飲んでくに決まってるじゃ無いですか先輩。」
「じゃあ注文〜。メルはカフェオレー。ルイは?」
「あっじゃあ、同じので」
カフェ・オ・レ、二杯〜。と元気よく注文を頼むメル様。
今日は忙しい日だ。何せそこで立ち往生して居る魔王が居るのだから-。
〜〜
また同じ喫茶店で、ある夜にこんな会話があった。
「ふーん。それで?なんで辞めたの?」
「えーなんでって、それよりって言うよりそれよりってか〜、魔王の所業聞いたらあんまり悪魔っぽく無いし、辞めちゃおっかな〜みたいな。」
「ふーん。嘘付くの下手っぴだなどうせ吸血鬼辺りにビビってたんでしょ。」
「うっ。」
思わずコーヒーがむせ返りそうになり焦るトワ様。
「まあ、重労働だしね〜。魔王の配下は。壊せって言ったら壊すし、何もするなって言っても自分の身は自分で守らなきゃいけない。」
どの道戦闘よ〜って言って、トワに向いてない向いてないって。確かに、内職とかしてた方が気が楽だな〜って思いはあるし、人に好き好んで攻め立てるような事、悪魔がするか?普通。私は私で魔界学校を卒業してからは、そんなこんなで、僻地を乗り越えてここまで来たって寸法よ。どうや。やってられっかって感じだわな。
「でも、ココも大変な目にあったみたいじゃ無い〜。」
「おうよ。でもさ、やっぱり情熱だよな。戦闘はそれに限るってなもんだ。」
「気を付けてね〜。余程の事がない限り、ココが負ける姿見せるなんてとても思えないから。」
桐生組会長の桐生ココに対する思いの吐露は、常闇トワの胸を少しばかり軽くした。
「さーて、一丁悪魔らしい仕事見つけますかね〜。」
「ほんなら、スポンサーなんてどうや。常闇の眷属が仲間になってくれるなら心強い。」
「金払って広告取るの?それはそれで美味しい話だわな。」
そんでさ〜。この前通った街が見窄らしく思えて、ついうっかり焼いちまったのよ〜。
「それが発端でさ〜。ついつい凄いバトルになっちまって、勝てたから良いものの、危うく身体を半分こにされるところでよ〜。いやあ、凄かった。あの法術の極。」
たまげたでな〜。と笑う桐生ココの胸辺りを眺めて、微笑ましそうにするトワ。
いつまでも日常は明日直ぐ。まさかこの次の日、常闇トワが勇者パーティに襲撃されるとは思っても見なかった事だろう。
〜〜
いつも行く行きつけのお店があったのだ。
アーニャなる店主が営んでいる愛しの喫茶。
それがまさか、
「やいお前か。新しく魔王の仲間になったって輩は。」
「命が惜しかったら、口答えせずにすんなり答える事だね。」
と、ノエルとシオンが既に先着して居る。
「何々?トワが何をしたって言うの?」
「問1、貴方は魔王配下?違う?」
「そんなのとっくに辞めたし。」
「じゃあ問2、貴方が知ってる魔王の秘密を教えて。知らないとは言わせない。」
「つい先日、私が魔王配下を辞めたその日、ここで魔王とすれ違った。多分、ここの近所に魔王の仕事先があるんじゃない?詳しくは知らないけど。」
「ふーん。それじゃあ、問3、潤羽るしあの裁判について知って居る事があったら教えて。」
「知らない。凶器が包丁って事位かな。いつも持ち歩いてるし、なんだか周りの人とは違って不気味な印象を覚えるって言うか。あんまり近付いた事ないから分かんない。」
「そっか。それなら良いんだ。」
て言うと、スッと我に帰って、少し火照った身体を癒す様に、店主に酒を頼むノエル。
「すいません。ウチは酒はやってなくて。」
「ふーん。つまらないお店だね。お酒が無いなんて、随分珍しい。」
「よく言われます。でも、ウチにはウチの良さがあると信じて居るものですので…」
アーニャはゆっくりと珈琲豆を引きながら、少し俯いて居る。まるでこの手の客には慣れて居ると言わんばかりの間隔だ。
「そう。それならそれで、良いんじゃ無いかな。お酒があるよりよっぽど楽しめる事の方があると思うよ。」
「ふーん。まあ、団長もお酒より好きなものがあるんでね。」
其の慣れ無い様な態度にトワ様はひまわり色の笑顔を咲かせた。
「へー、見直した。アンタん所に入れてよ。私を。私?私は、カッコいい私を信じてるから。」
こうして、常闇トワが仲間になった。
「随分とお好きなんですね。」
アーニャがふと声を掛けた。
「うん。でも団長、フレアを守る騎士だから、そこまで好きな訳では〜。」
などと身体をくねらせながら、頬に手を当てて居る。
しかし、外には思わぬ伏兵が…
外で眠りの舞を踊って居ると、店内の店主もそれを窓越しに見ていたトワ様もノエルもシオンも皆んなうたた寝をしてしまった。しかし、少しポエな顔を見せる
カプッと肩によく生え揃われた犬歯が刺さる。
それをじゅるりじゅるりと吸って居るのは、紛れも無い吸血鬼の姿形をした夜空メルだった。
おねんねなメル様と出会い頭の邂逅。特にこれと言って吸われる血も持たないアキロゼだが、其の効果は無いものだろう。何せ眠って居るまま、首筋では無く、肩に対して、なのだ。これでは吸える命も吸えた試しは無いだろう。
「ふわ〜。ぺっ。不味いな。若しかして、何か昔に重篤な症状でもあった?」
「つい最近、魔王に敗北した。闇の魔の手で掴まれ、敗北寸前までダウンを取られた。」
「あー、君がつい最近魔王がよく話す様になった
これにて一件落着〜と、ふとそんなに凶悪な見た目じゃ無いのに魔王に近しいのかと疑問に思ってしまう。
確かに今の女性、夜空メルからは魔力は感知できないのに何処にあるのかと探ってみれば、足元に夥しい魔力が付随して居る事に気付いた。歴戦の兵共を思う存分屠散らかして来たと言わんばかりの尋常じゃ無い魔力量。こんなのが相手に控えて居るなんて、魔王は恐ろしい存在だと、前以て知って置いて良かったと思った。
ホロらいふ~白と金~~勇者アキと魔王ヤゴーの冒険譚~ @h1229ryo158
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ホロらいふ~白と金~~勇者アキと魔王ヤゴーの冒険譚~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます