話聞いてよ

尾八原ジュージ

 はなしねぇ、話すよねぇ。休み明けの子供とかすごい話しかけてくるよね。先生先生先生先生って、真夏のセミより凄いんだよなぁ勢いが。それも大抵緊急性とかなくって、夏休みに水族館行ったらラッコいたとか、ブリッジしたまま歩けるようになったとか、相応に可愛い報告してくるんだよね。

 でもその中にいきなり「ぼくの弟いなくなりました」とか混ざると、やっぱりギョッとしてしまうんだよ。ていうかまずキミ誰だっけ? うちの学校の子だっけ? ってとこから詰めたいんだけど、子供ってとにかく話したいことワーッて話すじゃない? だから水族館とかブリッジの合間に、弟が消えた話をどんどん挟んでくるのね。「三丁目の材木置き場の裏に草ぼうぼうの家があって、お化け屋敷みたいだったから弟と入りました」「二階に上がったら階段が見つからなくなって帰れなくなってぼくは窓から飛び降りたけど弟は怖がっててダメでした」「弟を迎えにいきたいけど怖いので、先生一緒に行ってください」――ってまずキミの親とか、せめて担任の先生に相談しなさいって話なんだけど、そういうのをラッコとかの間に挟んでくるの、本当に止めてほしいよね。

 でもそういう話に限ってよく耳に入っちゃうというのもよくある話で、その廃屋の住所とか弟の名前とか結局全部聞いてしまって、次の土曜日の午後に一緒に迎えにいくって約束までさせられてしまって、だから現在進行形ですごく困っている、という話を今僕があなたにしているんです。

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話聞いてよ 尾八原ジュージ @zi-yon

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