お姉ちゃんが欲しかった私と、お姉ちゃんになれなかった私
間川 レイ
第1話
私は昔から。それこそ、物心ついた頃からお姉ちゃんが欲しかった。困った時には相談に乗ってくれて、いざとなったら頼りにできるお姉ちゃんが。これは別に、私がお姉ちゃん属性萌えというだけではない。私には、頭を撫でてくれる人が必要だった。私を抱きしめてくれる人が必要だった。私を大切だと告げてくれる人が必要だった。私にはどれも無かったから。本来そうしてくれるはずの両親とは、猛烈に仲が悪かったから。
私の両親は、厳しい人だった。こと、学校の成績や習い事の成績にはうるさかった。成績が悪ければ容赦なく手を挙げ、口を極めて罵るなんて日常茶飯事だった。それでいて、私がもう嫌だと癇癪を起こせば、嫌なら辞めれば?とそっけなく言い放つ。ただし、その後どうなっても知らないからねという副音声を伴いつつ。私は、両親から見捨てられることが怖くて、何も諦めることができなかった。何もかも中途半端に努力した。中途半端な努力なんて、報われるはずがない。成績は何もかも低迷し、その度に打たれ、殴られ、罵られた。私達はこんなにおまえの為を思いやっているのに、何故こんなに出来が悪いという眼差しとともに。
私は、そんな眼差しから庇ってくれる人が必要だった。出来が悪くても良いと、励ましてくれる人が必要だった。胸に縋りついて泣いてもいい、弱音を吐いても許される人が必要だった。私だって頑張ってるんだって泣いても、ゴミを見るような目で見ない人が必要だった。
それが私にとってのお姉ちゃんだった。私はお姉ちゃんがいる友達が羨ましかった。口では悪口を言っていても、二人並んで帰るその背中には確かな慈しみがあって。家族という感じがした。本当の優しい家族。私にもそんな人が欲しかった。私にもお姉ちゃんが欲しかった。お姉ちゃんがいたらきっと庇ってくれるのに。ずっとそんな事ばかり考えている子供時代だった。
でも、今になって思うのだ。私にも妹はいるが、私は妹にとってそんなお姉ちゃんになれたのかと。残念ながら、私はそうは思わない。実家にいる時の私は、とても褒められたお姉ちゃんではなかった。親に散々怒鳴られた後、遊んでと甘えにきた妹にキツく当たったこともある。猛烈な勢いで叱り飛ばされ、殴られている妹に割って入った事なんて一度もない。
だって、こちらに飛び火するのが怖かったから。私は正直、妹が憎かった。時に厳しく指導されるとは言え、遥かに私より良好な関係を両親と築けている妹が。私は親に褒められたことなんてない。どんな賞をとったって。だけど妹は褒められる。頭を撫でてもらえる。私はそんな妹が憎かった。それが、私の反骨心剥き出しの性格のせいだとしても。世渡り上手な妹を羨んでいるだけだとしても、妹が憎かった。
だから、私がお姉ちゃんとしてしてあげられたのは、頭を撫でてあげたことぐらい。たくさん抱きしめてあげたことぐらい。それが、私にできる罪滅ぼしだったから。無垢な瞳でお姉ちゃんとすり寄ってくる妹を、愚かにも逆恨みしてしまう馬鹿な姉にできる数少ない事だったから。後は、二人揃って馬鹿みたいに罵られた時に一緒に泣いたり、もう死にたいと一緒のベッドで泣く妹に、死ぬ時は一緒に死のうと、下手な慰めをいうぐらい。
だからきっと、私はいいお姉ちゃんにはなれなかった。なのに私はお姉ちゃんに夢を見る。それは叶わぬ夢だと、心のどこかで理解しながら。
お姉ちゃんが欲しかった私と、お姉ちゃんになれなかった私 間川 レイ @tsuyomasu0418
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