第41話 本当の幸せ

 雅様に後ろで座っていようと言われ、出入り口付近の襖近くで座り、待つ。

 時間がかかっているみたい、大丈夫かなぁ。


 隣に座っている雅様は、不安一つないみたい。

 腕を組み、目を閉じ待っていた。


「? どうした、美月」

「い。いえ。大丈夫かなと思いまして…………」

「問題ない。ダレーンなら、どんな病だろうと必ず見つけ、治療する」


 雅様が言い切ったところで、ダレーンさんは息を吐いた。

 どうやら、診察が終わったらしい。


「――――厄介ですねぇ」

「厄介?」


 ダレーンさんの言葉に、雅様は立ち上がり近くまで移動した。

 朝さんはもう目を伏せ諦めている。男性の方は、最後の望みをかけているみたいだけれど、不安が滲み出ていた。


「どういうことだ?」

「確かにこれは、普通の医者ではわかりませんよ。病ではなく、呪いですから」


 え、呪い!?


「なんの呪いだ」

「時間をかけて相手を蝕む類らしいですね、もう命は長くない。早く解かなければ、もう数日も持たないでしょう」


 そ、そんな……。

 それじゃ、お医者様であるダレーンさんでは、どうすることも――……


「そうか。では、今回も任せていいな?」

「人使いの荒い息子だな」

「義理だけどな」

「それでも、私の大事な息子だ。そんな息子の願いを叶えないおじさんはいないよ」


 雅様とダレーンさんの関係性って、どんな関係なんだろうか。

 お時間がある時に聞けば、教えてくれるだろうか。


 いや、それより、任せてもいい、とは?

 もう、呪いが原因だということはわかった。

 お医者様であるダレーンさんでは、呪いを解くことはできないんじゃ……。


「神の手と言われたダレーンには、美月の姉や母のような弱い治癒能力ではなく、どのような病、呪いすら解いてしまう程、強力な治癒能力が備わっているのだ」

「…………へ?」

「ちなみに、ダレーンは桔梗家の血筋だ。今は縁を切り名前すら変え、姿を晦ませていたらしいがな」

「…………えぇ…………?」


「ほっほっほっ」と、笑っているダレーンさんは、何故か質問は受け付けないというような圧を背中からも感じる。


 雅様もこれ以上は話さなかった。どこか焦っているようにも見える。

 …………逆らえはしないのですね、雅様。可愛いです。


「何を見ている」

「いいえ」


 すぐに顔を逸らし、ダレーンさんを見る。

 手に嵌められていた白い手袋を取る。朝さんの額に手を添えると、淡い光が現れた。


「わぁ、キレイ」

「そうだな」


 見ていると、朝さんの様子が変わっていく。

 荒かった息は落ち着き、青かった肌は色づく。


 目には光が宿り、目を微かに開いた。

 光が収まると、何が起きたのかわからないというように体を見るが、不思議そうな表情は消えない。


 男性が「どうした?」と、聞くと、朝さんは涙を流し笑みを浮かべた


「苦しく、ないです」

「――――本当、か?」

「はい!」


 お二人は、涙を流し抱きしめあった。

 良かった。治ったみたい。


「では、私はこれで」

「今回もすまなかった」

「お役に立てて良かったです。また、恩を返すことが出来ました」

「恩など、とうの昔に返されているがな」

「ほっほっほっ」


 髭を撫で、笑いながらダレーンさんは襖から出て行ってしまった。


「では、俺様達も帰るぞ。朝陽、今後は頼むぞ」

「ありがとうございます、本当に、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません。必ずやこの十六夜朝陽、鬼神家のためにこの力を使わせていただきます」


 返事をせず、雅様は頷き襖を出る。

 私も、置いて行かれないようについて行きます。


 廊下には女中さんが待機しており、私達を外まで案内してくださいます。

 準備されていた馬車に乗り、鬼神家へと戻ります。


 そんな時、雅様が外を見て、笑みを浮かべていた。

 安心したような表情です。


 私も、自然と笑ってしまいます。

 思わず雅様を見ていると、視線を感じたらしく雅様が振り向いた。


「どうした?」

「…………いえ。私、本当に幸せだと思いまして」

「なんだ、改めて」


 私が今笑っていられるのは、間違いなく雅様のおかげ。

 雅様が私を救ってくださったから、私に手を差し伸ばしてくださったから。


 不吉だと言われてきた私に、笑いかけてくださる雅様。

 家の為と言うような言葉ですが、雅様が困っている人をほっておけない性格なのも知っています。


 本当に、本当に嬉しいです。


「――――美月」

「は、はい」

「美月が嫁で、俺様は本当に幸せだ」


 っ! その言葉、私のですよ、雅様。


 思わず涙が溢れ出そうになり、それでも笑ってしまう。

 雅様はそんな私の頭を撫で、そのまま口づけをしてくださった。


 不吉な私は、優しく温かい旦那様のおかげで、幸せです。

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赤い瞳を持つ私は不吉と言われ、姉の代わりに冷酷無情な若当主へ嫁ぐことになりました 桜桃 @sakurannbo

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