守るべき約束

第40話 医者

 鬼神家に平和が戻り、今は雅様と共に、なぜかわからないのですが三ツ境国に来ています。


 三ツ境国の門の前に来て待機、風が心地よい場所だから苦ではない。

 むしろ、気持ちよく、しかも雅様と一緒。嬉しくないわけがありません。


 嬉しいです。嬉しいですが……。


「あの、雅様。なぜ急に三ツ境国に来たのですか?」

「約束があってな。そのために、少々人と待ち合わせもしているのだ。付き合わせて悪いな」

「いえ、私は全然大丈夫なのですが……」


 約束?

 もしかして、以前三ツ境国にある一番強い家、十六夜家に話し合い行った時になにか約束をしたのでしょうか?

 詳しく聞こうとすると、雅様が手を上げ誰かを出迎えます。


 視線の先を辿ると、一人の老人が片手に大きな鞄を持って歩いていました。


「お待たせしてしまい申し訳ありませんねぇ、雅様」

「いや、こっちこそ遠い所からわざわざ悪かった、ダレーン」


 老人の名前は、ダレーンと言うらしい。

 白髪に、深緑色の着物に白い羽織を肩にかけております。

 柔和な笑みを浮かべており、私を見ると軽く腰を折ってくださいました。


「噂には聞いておりましたが、綺麗な方ですねぇ~」

「自慢の妻だ」

「おやおや、幸せそうで何より。おじさん、嬉しくなってしまうよ」

「おじさんではなく、おじいちゃんだろ」

「心はまだまだ若いですぞ」


「ほっ、ほっ、ほっ」と、笑うダレーンさん。

 この人は、一体? 名前からして外の国から来たというのはわかるのだけれど……。


「おっと、自己紹介しないとわからないですよね~。私の名前はダレーン、医師を名乗らせていただいております」

「お医者様、ですか? え、雅様!? ま、まさかどこか悪いのですか!? なぜそれを言ってくださらなかったのですか!!」


 雅様はまた一人で我慢を!?

 私はなんて愚かな妻なのでしょうか、雅様が苦しんでいるのに全く気付かないなんて!


「俺様ではない。約束を守るために呼んだのだ」

「や、くそくですか? さっき言っていた……」

「そうだ」


 雅様は頷き、手を繋ぎ歩き出す。

 ダレーンさんも後ろをついてきます。


 あ、あの、約束とは、いったい?


 ※


 向かった先は、大きな屋敷。

 ここは、十六夜家の屋敷らしく、ここに病で苦しんでいる方がいると雅様が言っていた。


 今まで様々な医師に匙を投げられ、今回のダレーンさんが最後らしい。

 なんで、最後なんだろう。


 不思議に思いながらついて行くと、部屋に通された。

 中には、一人の男性と、布団の中で横になっている女性。二人が兄妹なのは、見た目が瓜二つなのでわかる。


「雅様!! 本当に連れてきてくださったのですね!」

「約束は必ず守る主義だからな。それより、妹の方は大丈夫か」


 雅様が中に歩き、ダレーンさんも笑みを浮かべながらついて行く。

 わ、私はどうすればいいのですか? なぜ、ここに私がいるのですか?

 場違いすぎませんか?


 ポカンとしていると、雅様が振り向いた。


「詳しく説明しなくて悪かった。美月、来い」


 手招きされたので、雅様の隣に移動すると、肩に手を回された。

 み、雅様?


「これから、十六夜家には鬼神家に協力してもらうため、俺様からは医者を提供したのだ」

「て、提供…………」


 言い方が雑な気がしますよ、雅様。

 ダレーンさんは――――普通に笑っていた。

 髭を触りながら、ほっほっほっと柔和な笑みを浮かべている。


「えぇっと。お医者様に診ていただくということは――……」


 ずっと、気になってはいた。

 布団の中で目を閉じている女性。

 こちらの方が、病に侵されているのだろうと。


 でも、さっき言っていた”最後”と言う言葉が引っかかる。


「そうだ。十六夜朝は、今までどの医者に診てもらっても匙を投げられ終わりだったらしい。だから、今回を最後に、命を諦めると言っていた」

「そ、そんな!! なんで、だって……」

「もう、期待する人生は嫌なんだとよ」


 雅様は、説明している時でも表情を一つ変えず、女性――朝さんを見つめる。

 朝さんの近くにいる男性は不安そうに目を伏せ、膝に置かれている拳を強く握った。


「なるほど。それで、深刻そうな手紙を送ってきたのですね、雅様」

「あぁ、診てもらえるな?」

「もちろんだとも。必ず救ってみせます。この、神の手を信じてください」


 ダレーンさんは、自信満々に朝さんに近付いて行く。

 隣に座ると、同時に朝さんは目を覚ました。


 それにしても、神の手、とは?


「――――あなたは?」

「私の名前はダレーン。医者をしております」

「…………そう」


 目を覚ました朝さんは、ダレーンさんを見ると、すぐに顔を逸らした。

 期待していない。もう、これで最後なんだという諦めが伝わってくる。


「では、失礼しますね。体は起こせますか?」


 男性の力を借りて、朝さんは体を起こす。

 その後は、様々な道具を取りだし、診察を始めた。

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