出䌚い゚スカレヌション【ディレクタヌズカット】

スロ男

🐈‍⬛


 姉貎の車から飛び出しおコンビニの自動ドアをくぐる。あたりを芋回しお、奥の方にトむレを芋぀ける。小走りで曞棚を、保冷ケヌスを通り過ぎ、トむレのドアを開けるず䞀畳ほどの空間の巊に男子トむレ、右偎に男女のマヌクがあった。

 男子トむレのドアを開けようずするが、開かない。䜿甚䞭の赀い印も出おないが、ガチャガチャやっお諊め、振り向く。共甚トむレは取手の銀色郚分に、䜿甚しおないこずを瀺す青い印——

 ガチャっず、こずのほか倧きい音を鳎らしながらドアを抌し開けるず、䞭の女性ず目があった。ドアは圌女の脚だかにぶ぀かり、それ以䞊進たない。

「ごめんなさいっ」

「いいから早く閉めお  」

 閉めるず、背埌でドアの開あく音がしお、開ひらいたドアが思い切り背䞭に圓たった。

「痛ェ」

「お、すたねえな、あんちゃん。  ちょっずそこどいお。ドア開かねえから」

 奥ぞ進むず、䞭幎の男はこちらをちらっず芋おから肩をすくめ、そしお狭い空間を出おいった。

 あ、手を掗いたかったのか、ず寄りかかったのが掗面台であるこずに気づき、それから尿意を思い出しお俺は男子トむレに飛び蟌んだ。

 解攟感——

 なぜ男子トむレは倖開きで共甚トむレは内開きなんだろう

 そんなこずを考えながら甚を足し、ドアを開けるず掗面台に女性の埌ろ姿があった。

   気、気たずい。

 そヌっず逃げようずしたら、声をかけられた。

「手ぐらい掗いなよ、バッチぃ  」

 ショヌトヘアの、゚ンゞ色のニットにタむトスカヌト。幎䞊だろうか、姉貎ぐらいか

 敢えお冷静に振る舞っおるのか、それずも现かいこずを気にしない性質なのか、圌女は軜く県を䌏せた感じで堂々ず俺の前を通り過ぎた。

 勿論、狭い空間だから、俺は壁にひっ぀くようにしお圌女を芋送った。

 手を掗っおトむレから出るず、圌女はレゞ前にいた。


 これが圌女ずの第䞀回接近遭遇だった。


      🐈‍⬛


 圌女ず二床目の出䌚いを果たしたのは、そのわずか䞉日埌のこずだった。バむト先の曞店に圌女がやっおきたのだ。

 最初は他人の空䌌かず思った。チノパンにざっくりしたセヌタヌを着たラフな栌奜で、けれど前髪にかかる気の匷そうな倪い眉毛はおそらく圌女で間違いなかった。

 どうしようかなあ、そもそも気づかないかなも、ず悩んでるうちに数冊ファッション雑誌を抱えおレゞの方ぞ向かっおきたので、思わず俺は逃げた。

「リヌダヌ、急に腹が  」

「ちょっず北斗ほくず君  」

 呌び止める声を無芖しおバックダヌドぞ駆け蟌む。

 駅近のそこそこ倧きな曞店だし、圌女ず出食わす可胜性は十分あった。けれど普段は立ち寄らない垂内の端のコンビニで出䌚っただけだし、自分だっお圌女のこずなんおいたのいたたで忘れおいた。

 五分ほどうろうろしおから店内ぞ戻った。

 ず、リヌダヌが明らかにホッずした顔で「すたん、レゞ代わっお」

「え」

「俺も腹が痛いの オダツのアレがよくなかったのかなあ  灜難だねえ」

 冷や汗を浮かべながら小走りするリヌダヌを呆れお芋おからレゞぞ——

「あ」

 圌女だった。

 カゎの䞭には、いわゆる薄い本が十冊ほどファッション誌に挟たれおいた。

「あ」ず圌女がいっお少し頬を赀らめた。

 こちらに気づいたのか、肌色倚めのBL本ばっかりのカゎを芋られたからなのか、䞡方なのか党然違うのか、たったくわからない。

 が、圌女はケホず喉を鳎らしおから柄たした顔で「お䌚蚈、ただですか」ず蚀った。

 俺の顔を芋返したりはしなかった。


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 二床あるこずは䞉床ある。

 ずはいうけれど、それは䞉床で終わるこずを意味しない。

 が。ずもあれ䞉床目の出䌚いは倏䌑み、姉に荷物持ちずしお同行させられた海倖資本の倧型スヌパヌでだった。

 倧型犬でも運べそうなカヌトの䞭に猫や小型の犬ぐらいの倧きさの商品をどんどん攟りこんでいく姉貎に、がそっず「犬ず猫でラグビヌの詊合ができそうだね」ずいったら、おたえ頭おかしヌんじゃねヌの、ず返っおきた。

「あら、マミダちゃん」

 姉を呌ぶ声がする。

「やヌん久しぶりです ちょダメろ」

 抱き぀こうずするフリル倚目のワンピヌス姿の女性を宥めるようにどうどう、ず塩察応する姉に、そのクヌデレっぜいずこ奜きヌ、ず女性は続けたが、「クヌ」はいいずしお「デレ」ずか芋たこずないんですけど

「萜ち着いお、ナヌミナ先茩」

「えぞ、だっお五十䞉日ぶりじゃヌん」

「先々週も䌚合で䌚っおるし、どこからでおきたんですかその数字」

「東海道五十䞉日、なん぀っお」

 ここに来るのに1号線なんか䜿いたせんよ、ず呆れた口調の姉の肩越しにナヌミナ先茩ずやらを芋ながら、俺はため息を぀いた。

 圌女だった。

 姉貎ず知り合いかよッ ずいうのもさるこずながら、なんだこの栌奜。なんだこの口調。倚重人栌か䜕かなのか

 芖線に気づいたのか、カヌトにもたれかかる俺を芋たナヌミナ先茩は、「あら幎䞋」ず姉を぀぀いた。

「そりゃ匟が幎䞊だったら倧倉ですわ」

「あら、匟さん   君ぃ、高校生」

「来幎受隓ですよ」ず姉。「だっおのに暇持お䜙しお家でぐうたらしおるから連れ出したんですよ」

 じヌっず顔を芋続ける俺に䞍審を芚えたのか、ナヌミナ先茩は眉をひそめた。

 もう二回目の邂逅から五ヶ月が経っおいる。さすがにもう気づかないだろうず俺は高をくくっおいた。

「おヌい、マリ こっち来お」

 離れたずころから男の声がしお、圌女は手を振っお応えるず「じゃね、マミダちゃんず匟くん」

 なんだよ男いんのかよ、ず思った瞬間、声が出おいた。

「BLッ」

 バカっ䜕倧声で恥ずかしい ず姉に頭を叩かれたが、ナヌミナ先茩の肩がほんの少しわなないたように芋えた。

 垰りの車䞭、思い出したような䜓おいで姉に蚊いた。

「ナヌミナ先茩 あの人、孊校の人」

「  南先茩ね。そうよ、あんたりチ来たらあの人の埌茩だから。たあ、でも来幎卒業だから入れ替わりね。タむプ」

「いや、そういうんじゃないけど」

「面癜い人だけどね。でもさ」

 姉の声が曇った。

「倏でもい぀も長袖着おるし、䜕床か青アザ䜜っおるの芋たこずある。県垯しおるずきもあったわ」

 それ以䞊䜕も蚀わず運転する姉に、俺は黙っお車窓を眺めた。


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 ずころでその倏、もうひず぀出䌚いがあったこずは蚀わねばならないだろう。

 倏䌑みも終盀、課題を片付けるのに疲れお倜の散歩ず排萜蟌んだ時のこずだ。

 悲鳎のようなものが聞こえお、俺はぎたっず立ち止たった。気のせいかもしれない。颚が匷い。あのビルずビルの間を颚が吹き抜けたらいたみたいな——

 気のせいじゃなかった。

 気のせいではなかったが、もしかするず猫の声かもしれない。しかし猫の発情期ずいう時期でもないのだけれど、ず恐る恐るビルの圱から现い路地をのぞいた。

 チンピラみたいな栌奜のふたりが䜕かを足蹎にしおいるようだった。通り過ぎるヘッドラむトの差し蟌みが路地を瞬間明るくするが、䜕が蹎られおるのかたではわからない。

 気づかれないようにそっず近寄っおいき、過ぎゆく灯火でようやく刀別できたそれは、

「え、カツラ  」

 思わず出おしたった声にひずりが反応する。

「え、これカツラか  」

「カツラはしゃべらな  ああ、カツラかこれ」

 䜕がおかしいのかケタケタずふたりが笑い始めたので、

「おにヌさん、おにヌさん」ず声をかけた。「ここらぞん、譊察巡回しおるんでカツラなんかほっずいお家に垰ったほうがいいですよ。最近、痎挢隒ぎがあったもんで」

 いた初めお俺の存圚に気づいたずいった感じで、んあ、そうか そうだな、ずひずりが蚀っお、もうひずりが、おおそうだなあんちゃんありがずな、ず続けお、ふたりは肩を組んで䜕か唄いながら去っおいった。

 それはカツラではなく、猫だった。いや、本圓に猫なのかコレ

 䞞たっおる姿はたさにカツラそのものだったが、少し埅っおいるず身を起こしおぶるっず䜓を震わせた。

 やたら毛足の長い黒猫だった。

「僕の名前はダギュり。ありがずう、芋知らぬ人」

「え、しゃべるの⁉」

「でも君が助けたのは僕じゃない。䞖界の平和だ。なぜなら——ちょ、お兄さん⁉」

 䜕も芋なかったこずにしお、僕は屈めおいた腰を䌞ばし、カツラみたいな黒猫みたいな奎から離れた。ただ䜕か蚀っおるので走った。぀いおこられるのもやっかいなので遠回りをしお䞘を登っお降りおスヌパヌに入っお反察口から出おダギュりなんだよ猫なんだか犬なんだかカツラなんだかわからない芋た目でダギュりっおがいないこずを確認しおから垰宅した。


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 その日はUMA知芚党サヌクル名の䌚合の日で、぀たり飲み䌚があったので俺はいそいそず垰り支床を始めた。講矩は2コマだけで、しかも盎接単䜍に関わっおくるようなものではない授業だった。

「なんか忙しそうね」

 顔だけ知っおる女孊生が話しかけおきた。

「いや倧しお忙しいわけじゃないんだけど、店の予玄の確認ずか色々あるから」

「サヌクルかなにか」

 俺は蚀葉に詰たった。UMA知芚党などずいうバカげた名前のサヌクルの説明を、たいしお面識もない女に語らなくちゃならないのだろうか

 リスみたいな雰囲気の圌女は、坐ったたたこちらを䞊目遣いで芋おいる。

「そんなもんです」

 無芖するのも気が匕けお、それだけ答えお教宀を出た。


 飲み䌚にOGが来るらしいぞ、ずいう話になっお堎が盛り䞊がった。男ばかり六人、チェヌンの居酒屋で、歳䞊だろうがなんだろうが女性が来るずなればにわかに掻気づく。

 元々UMA知芚党は「UMA未確認生物を愛でるかい」ずいう名称だったが、䞉代前だかの䌚長が名称を倉曎、倏は屈斜路湖や池田湖で合宿を、冬は本栖もずす湖や糞魚いずい川で合宿をするゆるヌいサヌクルだった。

 喋る黒猫の情報が手に入ったらいいな、ずいう軜い気持ちで入ったサヌクルだったが、䌚員数が50人ほどいるこずに驚き、熱心に掻動するのは粟々7〜8人皋床だず知っお玍埗した。勿論、女性䌚員の数はかなり少ない。

「ほんずに来るのかよヌ」ず誰かがいったずきにはメンバヌはあらかた出来䞊がっおいた。酒の飲み方だけは䜓育䌚系ず䞀郚でいわれる所以ゆえんである。

 座敷の前を女性らしい圱が通るたび、䞀瞬堎が静たり、過ぎゆくずたたくだらない雑談が始たった。ず、そこぞ——

「ごめんごめん、遅くなった」

 片手を顔の前で立おた女性は、俺の姉貎だった。

 危うく口の䞭のものを吐き出すかず思った。

「おっそいよヌ、䌚長」

「いた䌚長はあんたでしょ」

 姉貎は䌚長に荷物を手枡すずブヌツを脱ぎながら、ちらちらず来た方向をうかがい、䞊がりかたちに䞊がったずきに、顔がぱヌっず明るくなった。

「きたきた 本日のビッグゲスト 我が知芚党の䞭興の祖、南マリ先茩のおなヌりヌ」

南  

 ひょこっず顔を出した長身の女性の姿に、今床こそビヌルを吹き出した。

 たさか同じサヌクルだったずは。いや倧孊が同じなのはわかっおいたし、姉ず面識がある時点で可胜性は十分以䞊にある。が、そもそも姉がこんなけったいなサヌクルに入っおいるずは知らなかったのだ。しかも䌚長っお  。

「あら、北斗いたの」

 䞀瞥しおすぐに南先茩をひっぱっお䞊座ぞ向かう。  驚かないずいうこずは、向こうは知っおたんだろう。なぜ蚀わない⁉ クヌずかなんずかっおレベルじゃねヌぞ


 同じ堎で飲んでたずいうのに、圌女ずはほずんど䌚話もなかった。メンバヌどもは元䌚長の女ふたりに矀がり、あれこれずUMAに察する新芋解や圌氏の有無などを聞くのに倢䞭で、俺は䞋っ端ずしお冷めた焌き鳥を片付けたり、飲み物の远加を泚文したりしながら、隒がしいあたりを眺め぀぀、ちびちびず酒を舐めおいた。


 堎はお開きずなり、二次䌚に行こうず必死で男どもが誘ったが、姉の「これからふたりでデヌトだから」発蚀にすごすごず匕き䞋がった。

 女ふたりを芋送っおから、カラオケ掟ず飲み掟でゞャンケンをし、カラオケ掟が劣勢になった時、カラオケで飲み攟題にすればいいやん、ず誰かが蚀いだし、皆でぞろぞろず繁華街を歩き始めた。


 俺は、その途䞭で猫の鳎き声を聞き、裏路地ぞず入っおいった。


「やあ、僕の名前はダギュり」

「知っおるよ。  ずいうか、おたえ、い぀も俺の呚りちょろちょろしおんじゃないか。そんなに暇なのか」

「暇じゃないよ、倧忙しさ でも、君にも是非ヒヌロヌになっおほしいんだ」

「『も』っおこずは他にもいるんだろ、そのヒヌロヌずやらが。俺はやらん」

 最初の出䌚いの時こそ、やたら毛足の長いUMAめいた姿だったダギュりは、二回目からは、芋た目はただの黒猫になっおいた。

 寂しげに、なあご、ず鳎いお同情を匕こうずするが、その手には乗らん。


 路地を出るずメンバヌの姿が芋圓たらない。基本、薄情なんだよな、あい぀ら。だが行動経路はわかっおいる。のんびりずい぀も行くカラオケ屋ぞず足を向けた。

フツヌならあんだけ持お囃はやした䌚長の匟がいるんだから、そこ詳しく聞こうずかしないかねえ

 銬鹿で考えなしが倚く、そんなだから圌女なんおいない連䞭ばかりだが、だからこそ居心地がいいのかもしれない。


 倧孊絡みで圌女ず遭遇したのは、その䞀床きりだった。

 倧孊がらみ、では。


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 姉に足代わりに連れおこられたショッピングモヌルで男連れの圌女ず出くわし、ひず蚀ふた蚀䌚話を亀わした。男は以前ず倉わっおいなかった。

 前に倧型スヌパヌで邂逅したずきの、姉の蚀葉——倏でも長袖を着おいる、を思い出したが、それは単に䌚ったシチュ゚ヌションが䌌おいたからだろう。圌氏は、少し傲慢なタむプに芋えないこずはなかったが、普通に仲睊たじいカップルに思えた。

 初秋ずはいえ、ただ残暑が厳しく、ノヌスリヌブの客の姿も倚かったが。

 圌女は盞倉わらずの長袖ニットにロングスカヌトだった。


 それからも圌女ずは、コンビニず曞店で出くわした。今床は俺がトむレに入っおる時にドアが開けられ——なんおこずはなく、向こうは店員で、俺は客だった。流石に俺のこずに気づいおないなんおこずはないだろうに、圌女は䞀芋いちげんの客に芋せる愛想ず察応をするだけだった。

 曞店ではバッタリず鉢合わせし、向こうが先に「あ」ずいう圢に口を開けたが、䌚釈しお去っおいった。明らかに俺だず認識しおいる。しおいるけれど、こずさら接觊を拒んでいるようだった。なぜだ

 ずはいえ、俺も積極的には螏み蟌たなかった。きっず理由はあるのだろう。友達の匟にしおサヌクルの埌茩である俺ず、䞀定以䞊距離を瞮めたくない䜕かが。

   たずえば生理的に受け付けないずか涙。


 冬䌑みに入る前の最埌の講矩。ほにゃらら抂論ずかいう、サヌクルが始たる前たでの暇぀ぶしに遞択したものなので最初から最埌たで寝おすごすぐらいの心算こころづもりだった。

 で、熟睡した。

「ねえ、君。颚邪ひくよ」

 揺すられお起きるず、この講矩でよく芋かける女生埒だった。  やっぱリスみたいな顔しおる、ず寝がけ県で思った。

「ありがず、えヌず」

 なぜ名前を呌がうず思ったのかわからない。そもそも知らないのに。

「月子。君は間宮北斗くんだよね」

「え、なんで」

「い぀も寝おる君のこずを、みんなのび倪くんっお呌んでる。で気になっおたから、こないだの授業のずき、埌ろからレポヌト甚玙のぞいちゃった」

 悪びれずにいう月子——月子 本名だろうか——に、むしろ奜感があがった。こういうタむプのほうが俺には向いおるかもしれない、等ず倱瀌なこずを考えた。

「間宮くんっお、猫ずお喋りできるの」

「北斗でい——え、いたなんお」

「こないだ、黒猫ず楜しそうにお喋りしおるの芋ちゃったんだ。月子でいいよ」

 ぺろっず舌を出しお月子は笑った。



「おヌい、ダギュり」

 キャンパスの西端、ちょっずした庭園のようになっおいるずころで、俺はベンチにしゃがみ蟌みながら蚀った。

「こんなずこにいるの」

「どこにでもいるよ、あい぀は」

 ひょこっず怍え蟌みから黒猫が顔を出した。

「やあ、僕はダギュり」

「キャヌかわいいヌ」

「きれいな顔しおんだろ、こい぀カツラだったんだぜ  」

 月子が腰をかがめ、手を䌞ばした姿勢でそろそろずダギュりぞず近づく。

「逃げんなよ、ダギュり。抱かれおやれ」

「やヌん、寝取らせBLみたいヌ」

 腰をくねらす月子。

 おたえはどこに興奮しおるんだ。が、無事ダギュりを捕たえるず、立ち䞊がっお振り返り、フンスず錻息を荒くしおドダ顔を芋せおきた。

「黒猫ゲットだぜ」

「  僕はい぀たでこうしおいればいいの、間宮北斗」

「その女の気の枈むたでだ」

 あ、ず月子が蚀った瞬間、黒猫はするりず飛び降りお、こちらに尻尟を向けた。

「僕も暇じゃないんだ、契玄する気がないなら去らせおもらうよ」

 飛び跳ねるようにしお消えたダギュりを芋ながら、

「いやあ、ほんずに話しおるみたいに芋えた」

 うっずりず月子。

「え⁉ 埅っお、おたえさんにはダギュりの蚀葉はわからないのか」

「北斗くんのようにはいかないみたいね」


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 远われおいた。

 䜕に

 わからない。

 気配ずしかいいようがない。

 それが远っおくる。

 捕たったら終わりだ、ずいう根拠のない予感ずずもに远っおくる。

 繁華街を抜け、川のほうに来たのは自分でもなぜかわからない。ただ、人の倚いずころで捕たっおしたえば、俺だけでなく、呚りにいる無関係な人も呜を萜ずす、そんな気がしただけだ。

 川ずはいっおも岞はなく、䞡偎ずも舗装された道路だ。昔はむケナむ店が建ち䞊んでたずいうあたりたで息を切らせお走る。すぐそばは高架䞋になっおいお、二床ばかり電車が走り抜ける音が響いた。

 ダメだ、そろそろ䜓力の限界だ——

 このあたりなら人通りも少ない  よろけながら欄干にもたれかかり、死を芚悟した。

 ず、背埌でフラッシュが焚かれたような光。

「よくがんばったわね」

 聞き芚えのある声がしお、れ゚れ゚息を吐きながら振り向くず、そこに熊ほどの倧きさの茪郭の闇が凝ったモノ、それず察峙する女性の埌姿があった。

「南  さん」

「え、うそ。ちょっず。なんでバレおるの  ⁉」

 明らかに動揺した声に、隙を芋たのか圱熊が襲いかかり、けれど動揺をたったく感じさせない俊敏さで圌女は避けた。

 俺は色々ず呆然ずした。

 状況もそうだが、薄暗がりに浮かびあがる圌女の姿が、ちょっずなんおいうか——砎廉恥に芋えたからだ。

 背䞭䞞出しで、膚らんだ圢のスカヌトは短く、その材質はテカテカずしたビニヌルか䜕かのように芋えた。

 手には星圢が先端に぀いた譊棒——いや、この堎合はステッキず呌ぶべきなのか。

 頭にはパヌティヌでかぶるようなずんがり垜子をかぶっお——

「魔女  」

「魔法少女よ」

 恥ずかしさを打ち消すためなのか、それずも怒りの衚明か、やけに匷い語気でいっお南さんは圱熊にステッキでの䞀撃を喰らわすず、すかさずその背埌に呚り、レヌザヌ照射のような閃光が圱熊を貫いたかず思うず、俺の頭䞊を掠めおいった。


 魔法少女姿から普段着ぞ䞀瞬で着替えた南さんは、力なく笑っお近くのベンチぞ目で誘いざなった。

 俺はこくんずうなずいおから、道路の反察偎に自販機があるのを芋぀け、猶コヌヒヌず玅茶を買っお南さんの隣ぞ坐った。

「なんずなく、そんな気がしたのよね」

「そんな気」

 玅茶を差し出すずそっちがいいず猶コヌヒヌを取られた。ゎクゎクず飲んで、

「君には芋砎られちゃうんじゃないかなあ、っおさ」

「魔法少女なのを」

 無糖にすればよかった、ず思いながら俺も玅茶に口を぀ける。染みる。悪くない。

「わたしも倧䜓普段は抜けおるんだけど、それでも魔法の力は垞時うっすら働いおいるから、危険ずかは察知したり跳ね返したりできるのね。でも、あなたにはトむレのドアを開けられた」

「え。  芚えおたんですか」

「芚えおるわよ、目に焌き぀いおる。あんな無防備な顔、圌氏にだっお芋せたこずないのに。しかも、その埌もなんか出くわすし、マミダちゃんの匟だっおいうし、気づいたら人倖の気配挂わせおるし  」

「人倖の気配  」

 あ、ダギュりのこずか、ず思い圓たる。

 顔をこちらに向けお、初顔合わせのずきのような眉の圢で南さんは蚀った。

「だから、あなたずはこれからも距離を眮くし、今日のこずは忘れなさい。でないず——」

 どこから出したのか星圢のステッキを錻先に぀き぀けられた。

「敵認定、よ」


 圌女が去ったあず、しばしがヌっずしおいた俺は、適圓な方向に向かっお声をかけた。

「おい、ダギュり、いるんだろ」

 なあご、ずいっお黒猫が通りの向こうから姿を珟し、トトトッずこちらぞやっおきた。

「僕の名前はダギュり。僕ず契玄しおヒヌロヌにならないか」

「そのテンプレどうにかならんのか。  それより話聞いおたんだろ、どう思う」

「どう思うも䜕も、魔法少女は実圚する。でも僕たちずは盞容れない。存圚の根源が違いすぎる」

「」

「魔法少女はふわふわ、キラキラずした倢や垌望ずいったもので出来䞊がっおいる。けれどヒヌロヌはリビドヌの力、アダムの遺䌝子によっお存圚する。産めよ増やせよ地に満ちよ、ず神は蚀ったね。けど、女をその気にさせ、合意を持っおあたうるかぎり、ずは蚀わなかった。支配せよ、ず神は続けた。  これがリビドヌの力だよ」

「よくわかんないけど、でも少女ずは確かに盞容れなさそうだ」


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 その埌もあらぬずころで遭遇したり、街䞭で謎の勢力ず戊っおるのを芋かけたりしたが魔法少女は『䞍可知の領域』ずいうので戊うらしく、普通の人には芋えない、䞭でも䞀番驚いたのは圌女の結婚匏に俺が居合わせたこずだ。

 俺はバむトで結婚匏堎に勀めおいお、そこで圌女の結婚匏が催された。花嫁姿の圌女はきれいだった。幞せそうでよかった、ず照明を操䜜しながら感慚に耜った。

 花婿は、䟋のちょっず俺様颚の男だったが、いたならわかる。

 圌女が普段肌を芋せなかったのは戊いの痕跡のせいであり、圌がどこたで真実を知っおいるのかはわからないが、そんな圌女のありのたたを受け止めおくれるだけの床量のある男だず。いい男じゃないか。

 心からの祝犏を、俺は裏方から送った。


 結婚しおからも床々戊う圌女の姿を芋かけたし、盞倉わらずダギュりは行く先々で姿を芋せた。

 倧孊を卒業し、䌚瀟勀めを始め、孊生時代に付き合い始めた女性——月子ずいうのは本名だった、芪埡さんルナティックすぎるだろ——ず結婚した俺は、盞倉わらずコンビニや曞店で圌女ず出くわし、戊う姿を芋かけ、たたには向こうもこちらを認識しながらも䞍干枉を貫いた。

 が、今回ばかりはそうもいっおられなかった。圌女が苊戊しおいた。

 盞手は子䟛ほどの圱の集合䜓で、それが䞉䜓。取り囲むようにしお圌女をヒットアンドアりェむで害しおいった。

 異倉を感じた俺はかなりそばたで寄り、物圱から様子をうかがう。

 敵が手匷いずいうよりも、圌女に粟圩がないように芋えた。

 それたで皮䞀枚皋床の攻撃を䜕床も受けおいた圌女だったが、぀いに鮮血が飛び散るほどの攻撃を受けた。たたらず俺は叫んでいた。

「ダギュり、力をよこせ」

「契玄成立」

 猫のうなり声ずずもに俺の䜓は発光し、内から湧き䞊がる力任せに、圌女に远い蚎ちをかけようずする䞀䜓に䜓圓たりした。

「え、誰  」

 困惑する圌女の声が聞こえ、圱は䞉䜓瞊に積み重なっお䞀䜓の倧きな圱になり、俊敏さはそのたたに倧きく振りかぶっおきた。

 避ければ圌女に圓たっおしたう。

 俺は腕を頭䞊で亀差させ、腰を萜ずした。受け止める。骚たで響く衝撃にくらくらする。ダギュりが叫ぶ。歊噚を䜿え、ず。

 俺は圱を力任せに抌し返すず、無意識に巊拳に右拳を添え、そのたた居合の芁領で倧きく袈裟に切った。

 圱はたっぷた぀になり、俺の右手には光る刀があった。

「お䞊手、それがダギュり゜ヌドだよ。別名、アセンション゜ヌド」

 ダギュりが二本足で立っお肉球でぜふぜふず拍手した。


       🐈‍⬛


 さお、ここたでが俺ず圌女ずの出䌚いにた぀わる話。

 ここから俺ず圌女が䞖界ずおさらばする話になる。


       🐈‍⬛


 圌女から呌び出された俺は、重い腰を䞊げ、立川ぞず向かった。地䞋斜蚭内は隒然ずしおいお、それずいうのも䞖界の砎滅が近づいおいるから、だずいう。

 予芋の力に長けた最長老ず呌ばれる魔女が、倧いなる灜厄の蚪れを予期したのだ。

 灜厄ずいうのは——おそらく、ずただし曞きが぀いお——五次元以䞊の゚ネルギヌ䜓が、この地球䞊の゚ネルギヌ、人の様々な感情や飛び亀う電波などに匕き寄せられお近づいおきおいる、ずのこずだった。

 それぱネルギヌであればなんでも貪欲に吞い蟌む、恐ろしい存圚なのだずいう。地球の、公転、自転の゚ネルギヌたでも吞い尜くしおしたうだろう、ず予枬された。

 地球そのものの存亡も危ういが、仮にそれは免れたずしおも、地球はおよそ生き物の生きられる環境ではなくなり、感情や思考を倱ったゟンビが埘埊——であればただなにがしかの生呜が残る可胜性があるだけマシな郚類だろう、ずいうこずだった。

 そこでようやく魔法少女ずヒヌロヌが手を組むこずになった。

 知芚に優れ、珟実を凌駕する魔法を操る魔法少女が䞊䜍次元ぞの扉を開け、芋えない次元をも断ち切る力を持ったヒヌロヌが敵を打ち砎る。

 単玔な胜力でいえば、俺ず南以䞊の胜力者はたくさんいた。けれど、いったん䞊䜍次元ぞ飛び蟌んでしたえば戻っおこれる保蚌はない。たずえ勝ずうが負けようが。

 いや、むしろそのたた消えおなくなるか、さもなくば芋知らぬ䞋䜍次元ぞ挂着できれば埡の字だろうずいうこずだった。

——ならば、ベテランである我々の出番だろう。

「たさか最埌の最埌であんたず手を組むずは思わなかったわ。それにしおもずるいわね、ヒヌロヌは倉身するず顔も芋えない」

 最初に顔を合わせたずきには倉身埌の姿を芋られる恥ずかしさで消え入りそうになっおいた南も、いたはシャンず背を䌞ばし、埀時の凛々しさを垣間芋せた。

「  そうだな」

 䜕重にも斜された封印の奥、か぀お爆匟開発などに䜿われおいたずいう地䞋蚭備ぞず歩みを進めながら、俺は衝動的に南の手を握っおいた。

 南は、ふくよかな手で握り返しおきた。

「  その高次゚ネルギヌ䜓ずいうのは意思疎通できないのかしら」

「さあな。向こうはこちらのこずを理解したずしおも、その事実を俺らが認識できないんじゃないか」

「そうかなあ  そうかもね。でも」

 俺たちは歩みを止めず、ただ前だけを芋おいる。手を繋ぎながら。

「そういう理屈ずか超えちゃっおこそ、魔法少女だず思わない」

 きっず南は、少女のような笑みを浮かべおいるだろう。

「そうそう、わたし、この春、初孫を授かるのよ」

「おお、やっずか。孫はいいぞ。䜕より可愛い。  芋れなくお残念だな」

「ううん、生きおいおくれれば、それでいいの。それがいいの。だから——」

 わかっおる。

 突き圓たりで俺たちは立ち止たる。

 むンカムからノむズ混じりの合図が聞こえ、俺たちはうなずきあう。

 最埌の封印の、扉がゆっくりず開き始める——





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