一角獣のため息
ケーエス
一角獣のため息
「ハア…」
一角獣はため息をついた。
「振られちまった」
一角獣は昨日のことを思い出してまたふてくされていた。昨日勇気を出して告白したアヒルちゃんは「なんていうか…その…住む世界が違うというか…ごめん!」という後ろにある沼よりも濁った回答を残して去っていったのだった。それからというもの、一角獣は洞窟のおうちでため息ばかりついているのだった。
「アア…」
そこへ二角獣もやってきた。彼もふーっとため息。
「振られちゃったよ」
「? お前もか」
「そうなんだよ」
「アヒルちゃんにさ…」
「ヘッ」
一角はしゃっくりみたいな声を出す。
「お前も?」
「え、キミも?」
一角は目をそらした。
「え、俺は別に…。さ、三角獣のやつが振られたって聞いたから」
そこに三角獣もやってきた。彼もまたふーっとため息。
「はあぁ〜」
「おお、話をしていれば三角くんじゃないか」
「あぁ、おはようございますぅ。話って?」
三角獣は二頭の顔を見比べる。一角は目を泳がせ、二角はうつむいた。
「ああ…先輩たちもお悩みなんですねぇ。お悩み話しづらいですよね、わかります、わかります。ボクもですね、アヒルさんにコクられて今困ってるんですよ」
「ん?」
一角獣の目が固まった。
「え」
二角は顔をあげた。
「急に沼に呼び出されて、なんでしょう、自治会費の回収かなと思ったんですけども、アヒルちゃんが言うんです、こんなこと言うのあれだけど好きです、住む世界が違うあなたに恋をしてしまいましたって」
「おいおいおいおいちょっと待てちょっと待て」
一角が声を荒げる。
「お前が? アヒルちゃんに?」
「ええ、ボクとしてもびっくりというか、こんなボクでいいのという感じでーーー」
「きちんと顔は見たかい? 沼だろ?ガマ美じゃないの? 一角はキミが振られたっていってたけど」
二角も口を挟む。
「いえ、綺麗な白い肌、とんがったくちばし、優しい声。間違いなくアヒルちゃんですぅ…振られた? 一角さん何か知ってるんですか」
一角はたじろいだ。
「うう、あ、あれだ! 三角のやつが対決でアヒルちゃんの豪速球に負けた、空振ったってやつだ、なあそうだろう」
「野球なんてしてないですぅ、釣りはしましたけど」
「えーと、あれだ! 釣りに行ったけど雨に降られて全然できなかったってやつだ」
「雨なんて振ってないですぅ、雲が一個もない空でしたよ」
「ああ、ええとええと!」
今や一角は顔は真っ赤、今にも頭からマグマが飛び出してきそうなありさまだった。そして遂に限界がきた。
「なんで…」
一角は目をカッと開く。
「なんでお前が、ひ弱なお前が選ばれたんだよ、強い俺と、かっこいい二角よりもお前がいいっていうのか! なんで釣りにいくんだ、俺なんか自治会費の回収さえもされたことないんだぞ! クソが!」
一角は三角めがけてペッと唾を吐いた。が、そこにいたのはあひるちゃんだった。
「汚な…なんなの?」
「え、これはそのなんつーか、あれだ」
しかし、一角の言葉は紡がれなかった。
「嘘つき! 言い訳野郎! 最低!」
あひるちゃんのひとことに一角の顔は逆にしぼみ始めた。まるで干しぶどうのようだ。
「ヒヒィィィィィィン!!」
一角はそう叫ぶと一心不乱に洞窟を抜け出し、坂を下っていった。
そしてどこまでもどこまでも走り続けた。一角獣が残した足跡と涙はいつしか恋の街道又は業の街道と名付けられ、語り継がれているのである。
一角獣のため息 ケーエス @ks_bazz
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます