Book 1【巻末資料】ヴァルバリア王国の概要

ヴァルバリア王国は、地中海のイオニア海に浮かぶ島国である。


(Α)君主:

イネッサ女王(イネッサ・アウレリア・アシュムニカル・ヴァルバリヤス)


(Β)国民のルーツと国名の由来:


紀元前12世紀ごろ、ヒッタイト帝国の崩壊後に一部の遺民が新天地を求めて地中海へ旅に出て、辿り着いた無人島に築いた国が現在のヴァルバリアだと言われている。


国名は、象形文字ルウィ語で「強い、勇敢な」を表すwarpali-が以下の音変化を経た形に、「国」を表す接尾語-iaを加えたもの。


・w→v / #__

・C→C[+voi] / R__


(Γ)言語


公用語であるヴァルバリア語は、現存する唯一のアナトリア語(インド・ヨーロッパ語族)。ルウィ語の強い影響を受けたヒッタイト語、あるいはヒッタイト語の強い影響を受けたルウィ語を起源とすると考えられる。人名を含む固有名詞には、リュキア語などアナトリア語派に属する他の古代言語に由来するものも見受けられる。


しかし、常用単語の過半数がラテン語・ギリシャ語からの借用であること、および音素目録に重複子音や歯茎ふるえ音(「巻き舌」)が含まれることから、イタリア語に近いロマンス語の一つだとの誤認が広まっている。


(Δ)階級制度


国民は、王族・世襲貴族で構成される上級階級と一般階級に二分される。奴隷制は違憲。異国籍の滞在者も一般階級の国民と同等の権利を有する(但し参政権に関しては項目(Ι)を参照)。


王族はイネッサ女王と彼女の長男・レオニード王太子(レオニード・アウレリウス・シュピルリウマス・ヴァルバリヤス)を含む8人。


18,000人を僅かに下回る人口のうち、約1%が世襲貴族。王族と血縁が近い順に公爵・伯爵・男爵の3つの爵位が存在する。このうち公爵とその子女は王位継承権を有する。


これに加え、王族以外の国民の中で美・頭脳・運動能力のうちどれか一つの分野において類まれな特性(「才能」)を発揮する者には実力貴族メリストクラットの称号が与えられる。彼らは以下の3つの「館」のいずれかに属する(Book 1-IIを参照: https://kakuyomu.jp/works/16818093086446271671/episodes/16818093086691862368)。


・アフロディーテの館(美)

・アテナの館(頭脳)

・クラトスの館(運動能力)


(Ε)宗教


古代アナトリアの複数の民族の信仰とギリシャ神話との融合(シンクレティズム)により独自の発展を遂げた多神教が深く根付き、国の主な機関・制度・慣習の基盤を成している。一方で、信教の自由は認められている。移民を含む長期居住者の約1割はアブラハムの宗教を信仰している。


(Ζ)地理


約150km²の本土は休火山で構成される。その標高は定かではないが、周辺地域の他の火山や山岳地帯を訪れたことのある探検家達の証言によると、ティレニア海のストロンボリ島よりやや低い800〜850mほどだと考えられる。


その最西端の海岸から約2kmの地点に位置する約1.5km²の離島、および周辺の十数の無人島も領土に含まれる。


(Η)行政区画


ヴァルバリア本島は、以下の5つの「まち」(アフィーリャ)に分けられている。


・ネオハトゥーシャ:島の東部の沿岸から南東の地域にかけて広がる、首都に当たる都市。王族が暮らす宮殿、教育機関、王国議会議事堂、騎士団(項目(Θ)を参照)の砦、実力貴族達の事務所など、国家の主要施設が建ち並ぶ。多くの世襲貴族やブルジョワが住む高級住宅地もここに位置する。


・ツァルバ:ヴァルバリア人の先祖達が最初に流れ着いた地点だと言われている。現在は南欧諸国やオスマン帝国、北アフリカから訪れる移民達が独自のコミュニティをつくり上げ、その福祉向上を目指す「移民連盟」が結成されている。一神教信者のほとんどがここで暮らし、教会・モスク・シナゴーグが1堂ずつ存在する。


・アルナフィーリャ:島の南側の沿岸部に築かれた港町。内陸寄りの地域では農業も盛んに行われる他、加工品や工芸品の主な生産地にもなっている。一般階級の約半数がここで暮らす。国の商業の中心地「アゴラ」はこことネオハトゥーシャにまたがる地域に位置する。


・ネピシュフィーリャ:休火山の頂上を含む、最も標高の高い地帯。最も面積が広いアフィーリャでもあるが、人口密度は非常に低い。わずか数十世帯が林業や天然資源の採掘で生計を立てて暮らしている。島の最北端・最西端の地点もここに含まれるが、海岸が切り立った崖になっていることもあり、商業活動はほとんど行われていない。


・カンマルフィーリャ:かつては可食植物の採集が盛んだった緑の多い丘陵地帯。約半年前より魔界からの不法入国者による加害事件が多発し、荒廃してしまった(Book 1-XI参照: https://kakuyomu.jp/works/16818093086446271671/episodes/16818093087603103612)。魔界との交流が絶たれた現在も犯罪の温床となっている。正確な人口は不明だが、一年以上に渡ってここで暮らす長期滞在者は数百人と推定される。


(Θ)軍事


120名で構成されるヴァルバリア騎士団が国家と国民の安全を守っている。平時は公共施設の警備や犯罪の取り締まりの他、医療従事者による救助活動の援助を行う。他国による侵略や海賊などの犯罪組織による襲撃を受けた際には、戦闘員として国民の保護と事態の沈静化に努める。援軍として他国に派遣されることはない。


(Ι)政治


イネッサ女王を君主/国家元首とする立憲君主制。


18歳以上の全ての国民に参政権が与えられている。


王国議会は以下の18名で構成される。


・君主

・カンマルフィーリャを除く4つの行政区画より各3人、合計12人の議員。参政権を持つ国民の投票により民主的に選ばれる。

・各館の代表者1名、合計3人。実力貴族達の投票により民主的に選ばれる。

・騎士団長

・移民連盟の代表者1名。ヴァルバリア国籍を有さない居住者には一般的な参政権が与えられていないが、この代表者を選出する選挙では票を投じることができる。


魔界に通じる扉が封鎖された1801年までは、ここに魔術師会総長も加わっていた。


(Κ)その他:独自の文化や特異性


(K-α)食の生産と食生活


地中海沿岸で自生する、あるいは簡単に栽培できる食材が主に消費される。伝統料理は南欧、中東、北アフリカのそれに近いが、宗教上の理由により魚介類を一切口にしない点が大きな違いである。海洋生物の殺傷は、故郷を失った先祖達を島へ導いたとされるネプチューンへの冒涜と見なされている。


また、放牧や家畜飼料の生産に適した広大な土地の欠如から、畜産や酪農も行われていない。但し、鳥類や哺乳類を食すことが法的・宗教的に禁じられているわけではない。国内で販売・消費される畜産物のほとんどが近隣諸国から輸入されている。また、狩猟で食料を得る国民もいる。しかし、商業利用目的での屠殺が歴史的に行われてこなかったことから、殺生全般をタブー視する風潮もある。このため狩猟者や彼らが消費する動物に関する統計的調査は実施されたことがない。


(K-β)針金細工


畜産動物の欠如、および殺生をタブー視する風潮により、皮革・毛皮・象牙など動物由来の素材が衣類やその他の生活用品で使用されることがほとんどない。その代替品となる無機物を加工した装飾や工芸品の生産技術が発達した。中でも針金細工は国の主要な伝統工芸とされている。


(K-γ)温泉


標高の高い地域に天然温泉が点在し、古代ローマのテルマエの影響を受けたとされる公衆浴場が運営されている。世襲貴族やブルジョワの多くは天然温泉が存在する土地を所有しており、それが大きな収入源となっている。


(K-δ)未来からの伝来物


魔術が合法だった18世紀以前に時空間の旅人達により未来から伝えられた技術や知識、制度が今でも活用されている。主な例は以下の通りである。


・教育制度


19〜20世紀にヨーロッパや北米を中心に発展し、世界に広まっていった学校制度をモデルにした教育システムが取り入れられている。14世紀ごろにヴァルバリア王立大学が設立されたと同時に、大学進学前の子どもの教育課程を初級(5、6歳から10歳ごろまで)・中級(10代前半)・上級(10代後半)に分割するのが一般化された。地域ごとに設けられていた小規模な学校の数々は、1803年に「ヴァルバリア学院」に統一された。学院の生徒達は初等部・中等部・高等部の教育課程をそれぞれ4年間で修了するのが基本だが、飛び級・落第を経験する子どももいる。また、「部活動」や「遠足」によって一般的な教育課程では得られない知識や技能を身につける機会も与えられている。


・マッチ棒


調理や照明器具の点灯に利用されている。


※尚、実は電球など電気の性質を応用する照明器具も持ち込まれたことがあるが、宗教・政治的な理由により普及することはなく、アテナの館の者達の間でのみ伝承される機密事項とされている。ヴァルバリアの宗教観においては雷(=電気)を武器とするゼウスが最高神であり、電気とは人智を超えた神秘的なものと認識されている。その電気が技術の発達とともに誰でも手軽に利用できるようになることを一般国民が知ってしまうと、神々への信仰心が揺らぎ、いずれ王族や政治家など人間の権力者に対しても敬意を示さなくなって秩序を乱す可能性が懸念されるためだ。


・手動式タイプライター


タイプライターの原型とも言える機器は既に他国で発明されているものの、19世紀後半に開発される高性能なモデルが持ち込まれている。高級品だが、ヴァルバリア学院や王国議会議事堂などの主要機関には導入されている他、アテナの館の貴族達にも一台ずつ支給されている。


・プラスチック製品


主に液体や食料の容器が未来から持ち込まれたが、主原料となる天然資源が得られないことから国内で再現することはできなかった。1814年現在、15年以上前に持ち込まれたものはまだ残っているが、劣化が激しく、ごみ溜めなど衛生的な配慮がさほど必要でない場面で主に利用されている。


・根粒菌による窒素固定に関する知識


マメ科の植物とその他の作物の混作を行い、前者と共生する根粒菌による窒素固定を利用することで、限られた土地と資源で効率的に食糧を生産している。これにより、動物性堆肥の供給量が著しく低い環境でも肥沃な土壌を保ち、国民達の菜食中心の食生活に欠かせない良質な植物性タンパク質と豊富な炭水化物の生産が可能となっている。

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