伝説はこうして作られた

@kunimitu0801

伝説はこうして作られた

 異世界に転生して、俺は「伝説の勇者」として生きることを決めた。まあ、実際にはただのはったりなんだけどな。俺は特別な力なんて持っていないし、剣を振るうことすら下手くそだ。でも、周りの人たちが俺を英雄として崇めるのを見るのは悪くない。

 そんな俺には、優秀な弟子がいる。彼女の名はリリィ。彼女はすでに魔法の才能を持っていて、どんどん強くなっていく。俺はその力を利用して、自分の名声を高めることにした。リリィの後ろで「俺が教えた」とはったりをかますのが、最近の俺の日常だ。

 ある日、村の広場で俺の話を聞いた人たちが集まってきた。自分の過去の冒険談を語り始めると、村人たちの目がキラキラと輝く。俺が「悪党を打ち倒した」と言えば、みんなが拍手を送り、俺の名声はどんどん高まっていく。

 でも、心の奥では不安が渦巻いていた。リリィは俺の助けを必要としているのか? それとも、ただ俺のはったりに付き合っているだけなのか?そんな疑念が頭をよぎる。だが、今はリリィの成長を見守りながら、彼女と共に冒険を続けるしかない。伝説の勇者としての道を進むために。

 次の冒険がどんなものになるのか、不安がほとんどだが少しだけ楽しみでもあった。


 リリィの成長は目覚ましい。俺が考えていた以上に彼女は才能に溢れていて、いつの間にか村一番の魔法使いになってしまった。最近では、彼女が一人で魔物を退治する姿をよく見るようになった。俺はその様子を、隠れて見守ることしかできなかった。

「師匠、見ててください!今から魔物を倒します!」

 リリィが大声で叫ぶと、周囲の村人たちが期待の眼差しを向ける。俺は心の中で冷や汗をかきながら、リリィの後ろに立っている。彼女が俺の名を冠して挑むことに、罪悪感を抱かざるを得なかった。俺はただの偽物の勇者なのに、彼女は本物の強さを持っている。

 村を襲った魔物たちとの戦いが始まると、リリィは素早く動き、炎の魔法を放った。まるで舞うように、彼女は敵を次々と倒していく。周りの人々は歓声を上げ、俺はその中心にいることに恥ずかしさを感じた。俺は何もできないのに、ただ見ているだけだ。

 戦闘が終わり、リリィが無事に帰還すると、村人たちが一斉に拍手を送る。リリィはその中で微笑みながら、俺の方を振り返った。

「師匠、見てましたか?私、やりました」

 その瞬間、俺は思わず言葉を失った。彼女は本当に成長していた。自分の力を信じて、自信に満ちている。その姿を見ていると、嬉しさと同時に、焦燥感が込み上げてきた。俺は彼女の力に頼っているだけの存在なのだ。いずれ、彼女は俺を超えてしまうのではないかという恐れが心を締め付ける。

 このままではいけないと思いつつ、俺は彼女に何か言葉をかけなければならない。勇気を振り絞り、俺は口を開いた。

「お前の力は本当にすごいな、リリィ。誇りに思うよ」

 そう言って俺はリリィの頭を撫でた。リリィは嬉しそうに笑ったが、その笑顔の裏にある真実に気づくのは、まだ少し先のことだった。


 リリィが村を救った日のことは、俺の心に深く刻まれた。村人たちは彼女を称賛し、「真の勇者」として崇めた。俺はその輪の中にいることが恥ずかしくて仕方がなかった。実際のところ、俺は何もしていない。ただ彼女の後ろで見守るだけだった。

 そんなある日、俺は決意を固めた。

「リリィ、俺はお前に真実を話さなければならない」

 俺は真実を彼女に告げることにした。その瞬間、彼女の目が驚きで大きくなった。だが、言葉を口にする前に、村の広場で人々が集まってきた。

「勇者様、リリィ様、魔物が再び現れました」

 村人の叫び声が響く。心臓が高鳴った。俺は彼女の前に立ち、何とかして彼女を守らなければと思った。だが、今やリリィは俺よりずっと強くなっていた。彼女は戦う決意を固め、俺の手を引いて、戦場へと向かう。

「師匠、心配しないでください!私が守りますから」

 その言葉に、俺は胸が締め付けられる思いだった。彼女が俺をかばうのか?俺は、ただのはったりで名声を築いてきた男なのに、彼女は真剣に俺を守ろうとしている。戦闘が始まると、リリィは目を輝かせながら、魔法を使って次々と敵を撃退していく。

「やった、リリィ、すごいぞ」

 俺はつい叫んでしまった。村人たちも声を上げ、彼女を称える。だが、俺の心の奥底では不安が膨れ上がっていった。リリィがこの戦闘の後、自分の力に気づいたらどうなるのか。彼女が本当の勇者だと認識するその瞬間、俺はただのはったり屋だとバレてしまうのではないか。

 そして、ついにその時が来た。戦闘が終わり、村人たちがリリィを囲み、彼女を賛美する声が響く。その中で、彼女が俺を見つめる。目が合った瞬間、彼女が言った。

「師匠、私の力はあなたのおかげです。あなたが孤児だった私を拾ってくれて鍛えてくれたからです」

 その言葉に、村人たちが再び俺を見上げる。だが、心の底では罪悪感が押し寄せてきた。

「お前の力は、俺が与えたものじゃない」

 小さな声でつぶやいた。俺ははっきりとそう言えなかった自分を恥じ、リリィの誠実な思いに心が痛む。

 このままはったりを続けている限り、彼女の信頼を裏切ることになる。俺は彼女の力を支えに、はったりだけで生きている存在であることに耐えられなくなりつつあった。


 村の賛美の声が響く中、俺はリリィの横に立っていた。彼女の強さを誇る村人たちの中で、俺はただの影に過ぎなかった。しかし、心の中にはある決意が芽生えていた。もう、はったりでごまかすのはやめよう。彼女に、自分の本当の姿を告げる時が来たのだ。

「リリィ、実は俺……強くない。ずっと、はったりだけで生きてきたんだ」

 俺は何とか言葉を絞り出せた。彼女の目が驚きで大きくなる。だが、その後に続く言葉に、少しだけ笑みが浮かんだ。

「私、ずっと知ってましたよ」

 彼女の声は穏やかだった。驚きのあまり、俺は言葉を失った。

「え? それなら、どうして……」

「だって、師匠は私のことをいつも支えてくれました。私はその力を信じて、師匠と共にいるのが好きだったからです。」

 その言葉が心に響く。リリィは俺の無力さを知りながらも、俺と共にいることを選んでくれたのか。そんな彼女の思いに、感謝と同時に申し訳なさが込み上げた。

「だから、私がずっと師匠のはったりに付き合ってあげます。だから、私と結婚してください。」

 その言葉が耳に届いた瞬間、思考が停止した。結婚? 俺は強くもないただのはったり屋なのに、リリィは俺を受け入れ、さらにはその先まで考えてくれていた。

 いや待て。冷静になれ。相手は十七歳の少女でこちとら倍以上いきる三十五歳だぞ。

「リリィ……本当にいいのか?」

「もちろんです。師匠と一緒なら、どんな毎日でも楽しめます」

 その言葉に、俺の心は温かく満たされた。リリィと共に歩む未来が、少しずつ具体的なものになっていく。彼女の支えがあれば、どんな困難も乗り越えられる気がした。

 俺はリリィのプロポーズめいた言葉に具体的な回答はしなかった。

「行くぞ。リリィ新しい伝説を作るために」

「はい。師匠」

 俺の言葉に、リリィは力強く頷いた。二人の旅は続いていく。強さや名声だけではなく、信頼と愛に満ちた冒険を通じて、新しい伝説がこうして作られていくのだ。

 最強の魔法使いとそれを従える伝説の勇者の英雄譚が人々に語られるようになるのはそれからわずか三年後のことであった。


          *


 伝説の勇者と語られたあの冒険の日々から数年が経ち、俺たちは平穏な日々を送っていた。リリィと俺の間には、子供たちが生まれ、彼らは元気に成長している。夕暮れの柔らかな光の中、リリィは子供たちを集めて、冒険の日々の話を始めた。

「さあ、みんな、今日はパパと私の冒険の話をしよう」

 子供たちは興味津々で、目を輝かせてリリィを見つめる。俺はその横で、リリィの話を聞きながら、彼女がどれだけのことを子供たちに伝えているのかを感じていた。

「昔、パパは強い勇者だと思われていたの。でも、実はね……」

 リリィはふふっと笑い、子供たちが好奇心いっぱいの顔をしているのを見ながら続ける。

「パパは強くなかったの。でも、彼はいつも私を支えてくれたの。私が一番強くなれるように、パパは自分の力を惜しみなく使ってくれた。」

 俺は恥ずかしさを感じたが、リリィがそう言ってくれるのが嬉しかった。俺は特別な力を持たない普通の男だ。でも、彼女と一緒にいたからこそ、冒険を続けられた。

「パパは強くないけど、すごく強かったのよ」

 リリィは子供たちの目を見つめ、真剣な表情を浮かべる。

「勇気や愛、そして仲間を大切にする心が、パパの一番の強さなの」

 その言葉が子供たちの心に届くと、彼らは小さく頷き、興味深そうに俺を見つめてくる。俺は、リリィが俺をどう見ているのか、そして子供たちにどんなメッセージを伝えようとしているのかを感じた。

「だから、みんなも大切な人を守るために、心を強く持ちなさい。どんな困難があっても、パパのように、信じる心を忘れずにね」

 リリィの言葉に、俺の心は温かくなった。彼女の支えがあってこそ、俺は本当の勇者になれたのだと、改めて実感した。子供たちの未来も、彼女と共に描いていくことができる。

「そして、いつかあなたたちも、素晴らしい冒険を経験することになるから、楽しみにしていてね」

 その言葉を聞いて、子供たちは目を輝かせて笑った。俺たちの旅は続いていく。新しい伝説は、こうして受け継がれていくのだ。

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