うつり、かわる、恋心と

@takini-wataru

プロローグ 出会い

 大学生にもなれば、他人と友達の違いは歴然となる。授業で逢う人、ゼミが同じ人、学生食堂で見かける名も知らぬ人。地方の小さい大学であるほど、その認識は顕著といえる。

 三鷹原一泰みたかはらかずやすはというと、ガイダンス初日、最初の昼休みを一人で過ごしていた。実家から通えない範囲でなく、都心も定期内のそこそこ悪くない私立大学。という曖昧な条件で選んだ進学先。当たり障りなく就職したくて選んだメディア系の学部学科。ようはどこにでもいる大学生になったのだな、と自分でも落胆している。学生食堂からも、授業のある講堂からも離れて人気のない体育館棟は、ため息さえも反響してくる。

「ねえ、ここって人来やんよな?」

なんて声が聞こえて、つい息を吞む。人気のない体育館に響いた女性の声と足音。

大学生が人気のないところでする事といえば。なんて悪い予感が脳裏をよぎる。

「あれ、人おった。」

女性は一人だった。身長は155㎝あるだろうか、見て取れるほどのなで肩から滑り落ちるキャンパスバックを肩に掛けなおしつつ、こちらに目を向ける。何か言うべきだろうか。とほんの少し迷いつつも、言葉をひねり出す。

「静かな場所とか、探してるんやったら変わろか?」

10年離れていてもう完全に忘れたと思っていた関西弁が、舌から滑り落ちるかのように飛び出していた。!?と表現するほかないような表情に自分がなっていくのがわかる。

「関西圏の人やったん?どこ?どこ?あたしは三重!」

ああ、この感じ。会話のイニシアチブを取り合うような、会話の剛速球キャッチボールみたいな。懐かしのって感じ。

「昔住んでただけなんやけど、兵庫。お互い関西圏中心とはちゃうなあ。」

「あたし地元離れて一人暮らしやから、友達もまだおらんくて。地元の友達、まだ春休みやから通話したくて空きスペース探しててんけど、話し相手なってくれへん?名前は?あたし、高坂凜たかさかりん。」

「三鷹原一泰、よろしく高坂」

出会った瞬間から、僕は彼女に染められていたのかもしれない。そう思わされるような、そんな出会いだった。


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