第9話 さっさと電話をかわりなさい、怒るわよ?

 お化け屋敷を出た後園内のレストランで遅めの昼食を食べていると、突然スマホが振動して画面にチャットアプリLIMEの通知が表示される。

 メッセージの相手は杏奈からでどこに行っているのかという内容だった。莉乃と遊んでいる事は秘密にするように言われているため俺は友達と岡山駅前のショッピングモールで遊んでいると返信する。

 すると5秒も経たないうちに既読になった。もしかしてちょうどスマホを手に持っていたのだろうか。そんな事を考えていると杏奈から電話がかかってくる。ひとまず俺は席を外す。


「もしもし、急にどうしたんだ?」


「メッセージには友達と遊びに行ってるって書いてたけど、奏多は今誰と一緒にいるわけ?」


 杏奈からそんな事を聞かれたため俺はドキッとしてしまう。まさか莉乃と一緒にいる事がバレたんじゃ無いだろうな。いや、それは流石に考え過ぎか。そう思いながらひとまず俺は質問に答える。


「クラスの奴だけど」


「クラスの奴って具体的には誰?」


「そ、それは……」


 何故か不機嫌そうな声の杏奈が事細かに追求してきたため俺は言葉に詰まってしまう。当然クラスの奴となんて遊んでいないためすぐに名前は出てこない。


「まさかとは思うけど私に嘘をついてたりしないでしょうね、正直に答えてくれたらまだ許すかもしれないけど?」


 俺が黙り込んでいると杏奈は問い詰めるような口調でそう話しかけてきた。恐らく杏奈には何かしらの確信があるに違いない。これ以上誤魔化すのは得策では無いと判断した俺は正直に答える。


「……悪い、実は嘘だ。今は友達と遊んでるわけじゃないんだよ」


「へー、やっぱりそうなんだ。とりあえず今すぐお姉ちゃんにかわって貰えるかしら、どうせ一緒にいるんでしょ?」


「えっ!?」


 杏奈の口からお姉ちゃんという言葉が飛び出してきた事に驚いた俺は思わずそう声をあげた。えっ、何で莉乃と一緒にいる事まで知ってるんだよ。


「さっさと電話をかわりなさい、怒るわよ?」


「わ、分かったから落ち着け」


 あまりの剣幕にもう既に怒ってるじゃんとは流石に突っ込めなかった。俺は席に戻ると莉乃にスマホを差し出す。


「どうしたの?」


「杏奈から電話だ」


「えっ、何で私宛の電話が奏多君のスマホにかかってるのか理解出来ないんだけど?」


「どうしてか知らないけど俺と莉乃が一緒にいるのが杏奈にバレたんだよ」


「うそっ、何でバレたの!?」


 莉乃は驚きつつ俺のスマホを受け取って電話に出て杏奈と話し始める。そしてしばらくして電話を終えた莉乃は俺にスマホを返しながら口を開く。


「パンダカーに乗ったのは失敗だったな」


「杏奈にバレたのとパンダカーに一体何の関係があるんだ?」


「実はパンダカー乗り場の近くに杏奈ちゃんの友達がいたみたいでさ、私達が目立ち過ぎてたから杏奈ちゃんにたれこみが入ったみたいなんだよね」


「まさかの理由じゃん」


 バレた原因がまさかのパンダカーで俺は思わずそう声を漏らした。やっぱり乗るんじゃなかったというのが正直な感想だ。


「とりあえず今から杏奈ちゃんもここにくるって」


「杏奈は何しにくるんだよ」


「杏奈ちゃんも一緒に遊びたいみたいでさ」


 それから俺達は引き続き食事を続け、追加で注文したデザートをちょうど食べ終わったタイミングで杏奈が到着した。


「奏多の癖に私に嘘をつくなんていい度胸ね」


「別に俺は隠したり嘘をつくつもりは無かったんだって、ただ莉乃がどうしても秘密にして欲しいって言ったから」


「えっ、私そんな事言ったかな?」


「おい、しらばっくれて逃げようとするな」


 そもそも莉乃が秘密にしたいとさえ言っていなければ俺は嘘をつかなかったし、杏奈から詰められる事もなかったのだ。だから今回の件で一番悪いのは俺的には莉乃と認識している。


「お姉ちゃんも私と瑠花に黙って抜け駆けするのは無しだからね」


「ごめんごめん、これくらいは姉弟のコミュニケーションの範囲だと思っててさ」


「ちなみに私は奏多やお姉ちゃんとは違って瑠花には岡山ミラノ公園で二人と一緒に遊ぶ事はちゃんと報告したから」


 杏奈は包み隠さず瑠花に伝えたようだ。てか、瑠花には朝会った時に友達と遊びに行くって伝えていたからこれで嘘をついていた事がバレるな。

 絶対に後で瑠花から文句を言われそうな未来しか見えない。杏奈もそうだが瑠花も俺に対してはマジで容赦無いのだ。


「そうそう、奏多とお姉ちゃんには後で罰を与えるからそのつもりで」


「えっ、俺もか!?」


 一体莉乃が何を抜け駆けしようとしたのかは分からないがただ巻き込まれただけの俺まで罰の対象に含まれるのはちょっと理解出来なかった。


「当たり前でしょ、奏多はお姉ちゃんの共犯者なんだから」


「ちなみに俺と莉乃の過失割合は?」


「私的には同じくらいの罪だと思うから5対5ね」


「マジかよ」


 つい先日もナンパされた事を隠していた罰でスイーツバイキングを奢る羽目になって懐が寂しくなったばかりなのでこれ以上は流石に勘弁して欲しい。

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2024年12月12日 12:02

恋愛弱者だと揶揄ってくる血の繋がりが八分の一しかない義理の美少女三姉妹が実は俺の厄介ガチ恋だった件 水島紗鳥@11/22コミカライズ開始 @Ash3104

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