第8話 こ、これは貧乏ゆすりしてるだけだ

 パンダカーという苦行から解放された後はフリーフォールやメリーゴーランドなど複数のアトラクションに乗った。そして次にどこへ行くかという話をする俺達だったが現在激しく揉めている。


「やっぱり夏と言ったらお化け屋敷じゃん、せっかくだから行こうよ」


「そんな子供騙しの幼稚な仕掛けしかないようなところに行ってもどうせつまらないって」


「ここのお化け屋敷は結構作り込まれてて本格的だよ、奏多君は一回も入った事無いから知らないかもだけど」


「じゃあ莉乃だけで楽しんでこいよ」


「えー、奏多君と一緒が良いんだけど」


 そう、俺と莉乃はお化け屋敷に入るかどうかで攻防を繰り広げているのだ。お化け屋敷に入りたい莉乃に対して俺は全力で拒否していた。

 俺が拒否している理由に関してはお化けが苦手だからという単純な理由だ。小学生の頃うっかり夜中にホラー映画を見てしまいトラウマを植えつけられてから無理になった。

 だからお化け屋敷や肝試し、ホラー映画などは全てNGなのだ。そんな事を思っていると莉乃は悪い笑みを浮かべながら口を開く。


「そっか、奏多君ってまだお化けが怖いんだね。てっきりもう大丈夫になってるのかと思ってたよ、ごめんね」


「お、お化けなんて別に怖く無いし」


「別に強がらなくても良いよ、やっぱり奏多君にお化け屋敷はまだ早かったか」


 莉乃はここぞとばかりに俺をめちゃくちゃ煽ってきた。流石にそこまで言われると俺も黙ってはいられない。


「強がってないから、そこまで言うならお化け屋敷くらい行ってやるよ」


「本当かな、入る直前でやっぱり辞めたって言いそうな気がするんだけど?」


「男に二言はない、絶対に入る」


 俺は勢いに任せてそう言い切った。完全に莉乃の挑発に乗る形にはなったがもう高校二年生なのだからお化けなんてきっと怖くないはずだ。それから移動した俺達はお化け屋敷の前へと到着した。

 ここのお化け屋敷は北欧にある呪われた洋館という設定でかなり不気味な見た目をしており中からは女性客の悲鳴が聞こえてきている。最初はまだ心に余裕のあった俺だが順番待ちの列が進むにつれてだんだん不安が増していく。


「さっきから震えてるように見えるのは私の気のせい?」


「こ、これは貧乏ゆすりしてるだけだ」


 明らかに無理のある言い訳をする俺だったが莉乃はそれ以上は突っ込んでこなかった。そして俺達の順番がやってくる頃には後悔する気持ちでいっぱいになっていたがもはや後には引けない。

 お化け屋敷の中に一歩足を踏み入れるとそこには不気味な雰囲気が漂っており辺りからはうめき声のようなものが聞こえてきていた。


「久々に入ったけど中は相変わらず凝った作りだね」


「……だな」


「そう言えば子供の頃に入った時は杏奈ちゃんも瑠花ちゃんも泣いてたっけ」


「……それな」


 莉乃は色々と話しかけてきていたが何を言っているか全く耳に入ってこなかったため適当な相槌を打つ事しか出来ない。そんな中突然眩しい光とともに雷の音が辺りに鳴り響く。


「うぉっ!?」


 俺は思わず莉乃に抱きついてしまった。普段なら絶対にこんな事はしないが今回は体が無意識に動いてそうしてしまったのだ。


「ち、ちょっと奏多君!?」


「ご、ごめん」


 何故か慌てふためく莉乃の姿を見てようやく我に返った俺は謝りながら離れた。すると莉乃は突然手を差し出してくる。


「また突然抱きつかれても心臓に悪いから特別に手を繋いであげるよ」


「助かる」


 俺は迷わずその手を取った。こんな状況という事もあって普段なら感じるであろう莉乃と手を繋ぐ恥ずかしさなどは全く無い。

 莉乃と手を繋いだまま通路をゆっくりと進んでいくと全身血まみれの女性が通路の脇に横たわっている姿が目に入ってくる。

 あっ、これ絶対に起き上がってくるパターンじゃん。そう思った次の瞬間、案の定女性はガバッと起き上がってきたためつい莉乃の手を強く握ってしまう。


「いくら何でも驚き過ぎじゃない? こんなところで倒れてたら起き上がる事くらいバレバレだと思うんだけど」


「分かってても怖いものは怖いんだよ」


 莉乃に手を握られているおかげかさっきよりも心にゆとりがあったためそう返す事が出来た。莉乃もさっきより俺に余裕がある事に気付いたようで自分のおかげと言いたげな表情を浮かべている。

 その後もビビりながら莉乃と二人でお化け屋敷を進みようやく出口の明かりが見えてきた。ようやくこの地獄から解放されると安心しきっていた俺だがそれが良くなったらしい。

 後少しで出口というタイミングで天井から血まみれの生首が落下してきたのだ。それに驚いた俺は反射的に莉乃の手を強く引っ張ったわけだがそこでトラブルが発生する。

 なんとそんなにも強く手を引っ張られるとは思っていなかったようで莉乃は盛大に俺を巻き込んでバランスを崩したのだ。


「だから驚き過ぎだって」


「……マジでごめん」


 そう口にしながら倒れる寸前に閉じた目を開くと莉乃は俺に覆い被さるような体勢になっていた。誰かに見られたら誤解をされそうな体勢だが天井からぶら下がる生首があるせいでカオスな絵面になっているに違いない。

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