第7話 でも瑠花ちゃんなら喜んでついてきてくれるよ
二人で雑談しながら待っているうちにようやく俺達の順番がやってきた。俺と莉乃は係員の指示に従ってシートに座る。
「なあ、ミラノ鉄道ってこんな感じだったっけ?」
「うん、昔と全然変わってないよ」
「よく覚えてるな」
久々過ぎて全く記憶に残っていなかった俺に対して莉乃はしっかりと覚えていた。俺はコースターが蒸気機関車風だった事くらいしか覚えていなかったというのに莉乃は相変わらずの記憶力だ。
そんな事を思っているうちにコースターがゆっくりと動き始める。そしてコースターはどんどん進んでいき最後の上り坂の頂点に到着したタイミングで岡山ミラノ公園の眺望が目に飛び込んできた。
「あっ、ここの景色はめちゃくちゃ見覚えがあるぞ」
「ここから見える景色はかなり印象的だもんね」
「ああ、上から公園全体の綺麗な景色が見えるから子供心をくすぐられて何回も乗ってたんだろうな」
ちなみにミラノ鉄道はコースターの中でもかなりスピードがゆっくりなため子供以外はあまり楽しめないという口コミもある。だが俺は懐かしい景色を見れたため普通に楽しめた。
「楽しかったな」
「昨日誘った時は全然乗り気じゃなかったのにまるで別人みたいにはしゃいでるね」
「行き先不明の状態で誘われてノリノリの奴なんてまずいないだろ」
「でも瑠花ちゃんなら喜んでついてきてくれるよ」
「あいつは単純だからな」
瑠花は友達などから何かに誘われると用事が無い限りはまず断らない。あまりにもフットワークが軽いので兄としてはいつか悪い男にホイホイついていかないか心配だったりする。
「それで次はどうする?」
「じゃあ、あれとかどう?」
「えっ、流石にあれはちょっと……」
莉乃が指差した先にはパンダカーがあった。言うまでもなく子供向けとなっているため俺や莉乃が乗ったら間違いなく浮く。案の定乗っているのは幼稚園児や小学生くらいの子供ばかりだ。
「せっかくだし乗ろうよ」
「乗るなら一人で乗ってくれ」
「えー、お姉さんと一緒に乗ってくれないの?」
「いやいや、俺まで乗ったら凄い絵面になるから」
美少女な莉乃だけならともかく俺が一緒に乗ったら完全に不審者だろ。下手したら公共の場でそういうプレイを美少女に強要するやばい奴として見られる可能性すらある。
「それなら間を取って奏多君だけパンダカーに乗るってのはどう?」
「それは一番最悪な選択肢だからな」
しばらく乗る乗らないの攻防を繰り広げる俺達だったがお互い一歩も引かなかったため完全に膠着状態に入った。すると莉乃は悪そうな笑みを浮かべて口を開く。
「そう言えば話は変わるんだけどこの間奏多君の部屋を掃除してる時にこんな物を見つけたんだよね」
そう言い終わった後莉乃はスマホの画面を俺に見せてくる。そこにはなんと厳重に隠していたはずのエロ漫画が俺の勉強机の上に並べられて写っていたのだ。激しく動揺する俺だったがしらばっくれる事にする。
「……何だよ、これ? 俺はこんな物なんて知らないぞ」
「でも奏多君の部屋にあったんだけど?」
「もしかしたら父さんが俺の部屋に隠してたんじゃないか?」
ひとまず父さんのせいにする方向でこの危機を乗り越える事にした。実際に父さんは過去にエロ漫画を隠し持っている事がバレて母さんから怒られていた前科があるから説得力としては十分だと思う。
「内容的にお父さんでは無いと思うな、お父さんの好みは逆レイプ物だし」
「えっ、そんな性癖持ってたのかよ!?」
莉乃の発言を聞いて俺は思わずそう声をあげてしまった。父さんの性癖なんて知りたくなかったんだけど。
「って事でお父さんじゃないなら消去法的に奏多君しか有り得ないと思うんだけど何か反論はある?」
「……無いです」
これ以上何か言い訳しても無意味な事を悟った俺は大人しく白旗をあげるしかなかった。こうなった莉乃には昔から勝てた試しが無い。
「奏多君が一緒にパンダカーに乗ってくれるならこの写真は消しても良いけど、乗ってくれないなら杏奈ちゃんと瑠花ちゃんに送っちゃうかもね」
「それだけはマジで勘弁してくれ」
瑠花からはネタにされるだろうし杏奈からは間違いなくゴミを見るような目で見られる未来が容易に想像出来てしまう。
傷口をこれ以上広げたくなかった俺は仕方なく首を縦に振った。それから俺は莉乃に付き合ってパンダカーにまたがる。
「周りからめちゃくちゃ見られてるんだけど」
「大丈夫、カップルがいちゃついてるとしか思われないから。最近カップルでこういう写真を撮るのが流行ってるらしいし」
「それは全然大丈夫とは言えないだろ」
もし知り合いに見られたらマジで最悪だ。もしそんな事になってしまったらショックで部屋に引きこもる自信すらある。
そしてエロ漫画を隠し持つのは非常に危険という事がよく分かった。今後買う時は今回の教訓を活かして形のある紙書籍ではなく目に見えないデータの電子書籍にしよう。
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