第6話 ったく、マジで手がかかるな
俺と莉乃は岡山駅を出て岡山ミラノ公園へと向かい始める。土曜日の午前中という事もあって岡山駅周辺は多くの人で溢れかっていた。
「ミラノ公園に皆んなで最後に行ったのっていつだっけ?」
「確か私が中学一年生の頃だったと思うから七年くらいは前じゃないかな?」
「そっか、もうそんなに前になるのか」
俺が弓波家に引き取られたばかりのショックと絶望でふさぎ込んでいたあの頃はよく父さんと母さんに連れ出してもらって皆んなで岡山ミラノ公園まで行ってたっけ。
訳もわからないまま理不尽な運命に巻き込まれたせいであの頃は本当に毎日が辛かったが莉乃や杏奈、瑠花のおかげでめちゃくちゃ救われた。
今の俺がこうして元気でいられるのは父さんや母さん以上に三人の助けが大きい。まあ、本人達に言うと調子に乗りそうなので絶対に言わないが。
そんな事を考えながら歩いているうちに岡山ミラノ公園前に到着した。遊園地という事もあってやはり子供の姿が多い。
「じゃあ早速入ろう」
「あれっ、チケットは買わなくていいのか?」
「それならさっき電子チケットを買ったから大丈夫」
そう言って莉乃はスマホの画面を見せてきた。なるほど、確かに今の時代わざわざ並んで窓口や券売機に並んで買う必要もないよな。
「流石は出来る女だな」
「でしょ、もっと褒めてくれてもいいよ」
「それを言わなかったらなお良かったから残念だ」
「こらっ、それは思ってても口にしない」
そんな会話をしながら俺達は中に入る。最後に来たのが小学生の頃という事もあって中がどんな感じだったのかはっきりとは思い出せないが、どこか見覚えはあるので恐らく大きく変わってはいないのだろう。
「それで何から乗る?」
「うーん、久々だから私も悩んでるんだよね」
「とりあえず初めは軽めのやつから行こう」
そう口にした莉乃が選んだアトラクションはコーヒーカップだった。確かにこれならそんなに激しくないだろう。そう思っていた時期が俺にもありました。
「お、おい。いくら何でもこれは激しく回し過ぎじゃないか?」
「これがコーヒーカップの醍醐味なんだから別にいいじゃん」
「いやいや、流石にやり過ぎだって」
何と莉乃はコーヒーカップのハンドルを全力で回し始めたのだ。想像以上に激しく気分が悪くなりそうだった。そして案の定そうなる。俺ではなく莉乃が。
「……うー、気持ち悪い」
「だから言っただろ」
俺はベンチで横たわってダウンしている莉乃に呆れ顔でそう声をかけた。昔から莉乃は思い付きで行動してよく失敗していたが、その悪癖は相変わらずのようだ。
ひとまず俺はベンチのすぐそばにあった自動販売機でサイダーを買う。本当かどうかは知らないが酔った時は炭酸が効果的らしいので試すことにしたのだ。
「ほらっ、とりあえず炭酸を飲んで元気出せ」
「……一人じゃ飲めそうにないから奏多君手伝って」
「ったく、マジで手がかかるな」
仕方なく俺はベンチに横たわる莉乃にサイダーを飲ませた。これではどっちが歳上なのか分からない。ちなみに三姉妹の中で一番しっかりしているのは長女の莉乃ではなく次女の杏奈だ。
「ありがとう、だいぶマシになってきたよ」
「もうあんまり無茶はするなよ」
「うん、さっきので流石に懲りたから」
「本当だろうな?」
俺は莉乃に対して疑いの眼差しを向けた。するとそんな視線に気付いた莉乃は不満そうな表情を浮かべて口を開く。
「えー、奏多君はお姉さんを信じてくれないの?」
「だって莉乃だし」
今まで莉乃が色々とやらかしたせいで被害を被った事がある身としてはすぐに信用なんて出来るはずがない。絶対にまた何かしでかすはずだ。
それからしばらくして莉乃が完全復活したため次のアトラクションに向かう。次はミラノ鉄道というコースターに乗るつもりだ。
「ミラノ鉄道って奏多君が子供の頃めちゃくちゃ好きだったよね?」
「だな、今となっては何であんなに夢中になってたのか分からないけど」
「確かに子供の頃に夢中になってたものって大人になると何であんなにハマってたんだろって事は私もあるな」
そんな話をしながら俺達はミラノ鉄道の乗り場に並ぶ。案の定並んでいるのは小さな子供達ばかりだった。その中にぽつぽつとカップルの姿も混じっているが。
「二年生になったばっかりだと思うけど学校はどうなの?」
「今のところは可もなく不可もなくって感じだな、莉乃こそ大学生活はどうなんだ?」
「私も大学生になって一年経つし、特に問題はないかな。上手い授業のサボり方も分かったしね」
「いやいや、それは駄目だろ」
大学生になった途端人が変わったように不真面目になる奴が多いとは聞いた事があったが莉乃もまさかのそのパターンかよ。
いや、でも莉乃は高校時代から週末課題を出さずに逃げてたしあの頃からその片鱗はあった気もする。テストでは毎回上位五位以内に入るくらいは頭が良いのに課題を出さなかったせいで教師達から目をつけられていた事は言うまでもない。
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