第1章
第5話 悪いと思ってるなら誠意を見せてよ?
先日スイーツバイキングを全額奢らさせられてからあっという間に数日が経ち金曜日の夜がやってきた。長かった一週間もようやく終わり明日は休みだ。
夕食を終えた後部屋で週末課題を進めていると扉がノックされる。杏奈はノックせずに入ってくるし瑠花はもっと荒々しいため多分莉乃だろう。そう思っていると案の定莉乃が入ってきた。
「ねえ、奏多君。明日って暇だよね?」
「いや、別に暇じゃないけど」
「よく聞こえなかったからもう一回聞くんだけど明日って暇だよね?」
「だから暇じゃないって」
「よく聞こえなかったからもう一回聞くんだけど明日って暇だよね?」
暇ではないと言ってるのに莉乃はまるで正解を選ばない限りセリフを永久に無限ループするRPGゲームのNPCのように同じ言葉を口にし続ける。
「分かった、暇だ。これで満足か?」
「そっか、やっぱり暇なんだ。彼女どころか友達すらいない奏多君なんかに休日の予定なんてあるわけないもんね」
「……なあ、ぶっ飛ばしてもいいか?」
「ごめんごめん」
莉乃は一応謝ってきたが全くと言っていいほど言葉に心がこもっていなかった。まあ、いつもの事だから別にいいけど。
「それで明日は何に付き合えばいいんだ?」
「うーん、どうしよう?」
「おいおい、自分から誘ってきておいてノープランなのかよ」
「とりあえず行き先は私の方で考えとくからよろしく。あっ、くれぐれも杏奈ちゃんと瑠花ちゃんには内緒で頼むね」
言いたい事を言い切って満足した莉乃は部屋から出て行った。明日は強制的に莉乃と遊びに行く予定が入ってしまったため面倒だが従わないと後が怖いため諦めるしかない。
「莉乃も俺とじゃなくて友達と一緒に行けば良いのに」
大学生になってから莉乃の交友関係はかなり広がっているので一緒に行く相手なんていくらでも見つかると思うのだが。
「てか、何で杏奈と瑠花には秘密にしたいんだろうな。別に後ろめたい事なんて何もないのに」
俺的には姉弟で遊びに行く事なんて別に普通だと思っているため莉乃が二人に隠そうとする理由が全く分からなかった。
まあ、莉乃がそうして欲しいと言うなら全然従いはするが。そして俺は一体明日はどこに連れて行かれる事になるのやら。
◇
土曜日の朝リビングで外出する準備をしていると瑠花が話しかけてくる。
「あれ、お兄ちゃんどこかへ行くの?」
「今日は岡山市内で友達と遊ぶ予定があって」
「えっ、お兄ちゃんなのに遊ぶような友達なんていたんだ」
「莉乃とか杏奈もそうだけど瑠花も俺を馬鹿にし過ぎだろ」
朝から俺を揶揄ってくる瑠花にそう文句を言った。瑠花に対して嘘をつく事に罪悪感もあったが今ので完全に吹き飛んだ。
「えへへ、ごめんね」
「俺じゃなかったら間違いなくブチギレてるからな」
「じゃあ私は部活に行くからそろそろ行くね」
「ああ、いってらっしゃい」
瑠花を見送ってから少しして準備が完了した俺は家を出ると電車に乗って岡山市内方面へと移動を開始する。莉乃とは岡山駅の中で待ち合わせをする予定だ。一緒に行かないのは言うまでもなく杏奈と瑠花から怪しまれないためだ。
「よし、着いた」
二十分ほど電車に揺られ集合場所である岡山駅改札前に到着した。土曜日という事もあって今日はスーツ姿や制服姿はやはり少ない。
しばらくスマホでダウンロードした電子書籍を読みながら時間をつぶしていると莉乃が手を振りながらこちらへとやってきた。
「お待たせ、待った?」
「ああ、遅いから帰ろうと思ったぞ」
「もう、そこは今来たところって言う場面でしょ」
俺の返事が気に食わなかったらしい莉乃は不満気な表情を浮かべているが一体どんな反応を期待してたんだろうか。
「ごめんごめん、悪かったって」
「悪いと思ってるなら誠意を見せてよ?」
「仕方ないな、いくら欲しいんだ?」
「お金は別にいいからさ、今回は奏多君の体で払って貰おうかな」
カバンから財布を出そうとしていると莉乃は腕を絡ませ俺の体に自分の胸を押し当てながらそんな言葉を口にした。
「お、おい急に何するんだよ!?」
「あれー、顔真っ赤だけどどうしたの?」
「突然胸を押し当てられたら誰でもこうなるだろ」
「あっ、もしかしてお姉さんに欲情しちゃった?」
「してないからな」
本当はめちゃくちゃ興奮させられたが何とか平静を装う。莉乃のような美少女から密着されて興奮するなという方が無理だ。実の姉弟とは違い八分の一しか血の繋がりがない事もきっと関係しているに違いない。
「奏多君を揶揄って遊ぶのはこのくらいにしてそろそろ出発しようか」
「……ちなみに今日はどこへ行くんだ? 行き先とかまだ何も聞いてないけど」
「あそこだよ」
俺の問いかけに対して莉乃はニコニコした表情で壁に貼られていたポスターを指差す。それは岡山駅から東に行ったところにある岡山ミラノ公園のものだ。
「ミラノ公園か、行くのも結構久々だな」
「そうそう、あそこならデートっぽいかなと思ってさ」
「いやいや、これってデートなのか?」
「男と女が二人で遊ぶんだからデートに決まってるよ」
莉乃は平然とそう言い放った。他人ならともかく俺と莉乃は姉弟のためデートじゃないと思うんだがそれ以上は突っ込まなかった。
「って訳だから早速行こうか」
「おい、急に腕を絡めてくるな」
「デートなんだからそのくらい普通だって」
そう口にした後莉乃はますます腕を絡ませてきたため多分辞めてはくれないだろう。だから俺は諦めて目的地に向かう事にした。
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