第4話 別に狙ってるわけじゃないから本当に不思議だ

 その後は特に何事も無く午後の授業も終わり放課後がやってきた。俺は靴箱で杏奈と瑠花と合流すると学校を出る。


「あっ、今日は帰りに寄るところがあるから」


「お兄ちゃんにも付き合ってもらうよ」


「どこに連れて行く気だ?」


「後で教えてあげるからとりあえずついてきなさい」


 そう言われたため俺は大人しく杏奈と瑠花についていく。そのまま歩き続けて到着した場所は岡山駅の東口にある噴水広場だった。


「もしかしてここが目的地か?」


「そんな訳ないでしょ、お姉ちゃんとの待ち合わせ場所よ」


「うん、莉乃姉は大学の授業が終わったら来るから」


 それから三人で莉乃が来るのを待ち始める。莉乃の通っている岡山市立大学は岡山駅西口からシャトルバスで五分くらいであり、今日の授業は終わっているらしいのでもうじき来るはずだ。


「あっ、莉乃姉やっほー」


「三人ともお待たせ」


「お姉ちゃん待ってたわ」


 しばらく三人で待っていると莉乃がやってきた。杏奈と瑠花がいつの間にこんな約束をしていたのは知らないがとりあえず莉乃が来たためこれから目的地に行くはずだ。


「そろそろどこへ行くか教えてくれないか?」


「あれっ、杏奈ちゃんから奏多君の奢りでスイーツバイキングに行くって聞いたけど違うの?」


「それで合ってるよ」


「ええ、奏多が全額奢ってくれるから」


「おい、ちょっと待て全額俺の奢りってどういう事だよ!?」


 さらっと聞き捨てならないワードが飛び出したため俺は思わずそう声をあげた。スイーツバイキングに行くだけならまだしもなんで俺が全額奢る流れになってるのか理解出来ない。


「そのままの意味よ」


「うん、お兄ちゃんは私達にナンパされた事を隠してたからその罰だね」


「……へー、奏多君ナンパされてたんだ。その話を詳しく教えて欲しいな、奏多君の奢りでスイーツバイキングをしながらゆっくりと」


 あっ、これはダメなやつだ。莉乃の体から黒いオーラが出始めているため逆らうのはあまりにも危険過ぎる。三姉妹の中で一番おっとりしている莉乃だが怒らせるとめちゃくちゃ怖いのだ。

 てか、昼休みに正直に話さなければ莉乃も交えて家族会議をすると脅されたから仕方なく話したというのに結局バラすのかよ。

 そのまま俺は三人に連行されて岡山駅の中にあるスイーツバイキングへとやってきた。一人分だけで千五百円もするためバイトしていない俺にはかなり痛い出費になりそうだ。


「じゃあお姉さんにナンパの件について奏多君の口から説明して貰おうか」


「別にそんな大して話すような内容はないけど」


「とりあえず話してみてよ」


 店内に案内されて席についたばかりだというのに莉乃は俺を尋問する気満々だ。ちなみに杏奈と瑠花はスイーツを取りに行ってしまったため今は何故か不機嫌な莉乃と二人きりになっておりちょっと気まずい。


「分かったよ、あれは先週の土曜日の事なんだけど……」


 とりあえず俺は昼休み杏奈と瑠花に対して説明したのと全く同じ内容を莉乃に話し始める。途中口を挟んできた杏奈や瑠花とは違い莉乃は俺の話が終わるまで黙っていた。


「……って訳だ」


「奏多君って子供の頃から歳上ウケが良かったけどいまだに健在なんだね」


「別に狙ってるわけじゃないから本当に不思議だ」


 そう、何故か俺は母さんの友達や近所のお姉さんなど歳上の女性からめちゃくちゃ可愛がられてきたのだ。莉乃の機嫌も直ったためひとまず誤解は解けたらしい。

 ちょうどそのタイミングで杏奈と瑠花が両手にスイーツの入ったトレイを持って戻ってきた。どうやら俺と莉乃の分も取ってきてくれたようだ。

 先程までの重々しい雰囲気もすっかりと無くなったため平穏が戻って安心していた俺だが再び雲行きが怪しくなり始める。


「私的に奏多君には歳上の女性が似合うと思うな、流石に上過ぎるのは駄目だと思うけど」


「いやいや、やっぱお兄ちゃんには歳下でしょ」


「どっちもハズレよ、奏多に合うのは同い年なんだから」


 そんな話題で三人がヒートアップし始めてしまったのだ。俺には彼女なんて必要ないとか一生出来ないとかよく言っている癖に何故かこの話題でよく衝突する。

 普段は仲が良い姉妹なはずなのにこの話題になった時だけ喧嘩っぽい雰囲気になるため苦手だ。てか、何故三人が俺に似合う相手というどうでも良さそうな話題で白熱した議論を繰り広げるのか全く理解できない。

 一つだけ言える事としてはこうなった彼女達に対して俺が口を突っ込むのは非常に危険という事だ。だからとばっちりを受ける前にトイレを装って避難しようとする俺だったが残念ながらそれは叶わない。


「奏多君的にはどう思う? と言っても答えは聞くまでもないとは思うけど」


「奏多の答えはもう決まってるわよね?」


「お兄ちゃん莉乃姉と杏奈姉にガツンと言ってやってよ」


 そう口にした莉乃と杏奈、瑠花は俺を見つめてくる。せっかく逃げようとしていたというのにこれでは逃げられない。

 どれを選択しても面倒な事になりそうな未来しか見えなかったためしばらく黙り込む俺だったが三人からの早く答えろという圧が凄まじくこれ以上は耐えられそうにない。


「……やっぱり年齢とかに関係なく好きになれる人かな」


「その答えは一番つまらないんだけど」


「そうよ、ちゃんと選びなさい」


「今のお兄ちゃんみたいなどっちつかずな答えは嫌われるよ」


 無難な答えを出して逃げようとする俺だったが許してくれなかった。三人から集中砲火を浴びせられた俺は観念して答えを出す。


「歳上だ、これで満足だろ?」


「やっぱり奏多君ならそう言うと思ったよ」


「えー、歳下じゃないの? どう考えても歳下だと思うんだけど」


「奏多とはじっくり話し合う必要がありそうね」


 俺の言葉を聞いて満足そうな表情を浮かべた莉乃とは対照的に杏奈と瑠花は明らかに不満そうだ。でも俺の好みは大人のお姉さんなのだから仕方がない。


「ちなみに三人はどうなんだ?」


「お姉さん的にはやっぱり歳下かな」


「私は同い年一択ね」


「私は歳上以外眼中にないよ」


 うん、三人とも見事に被らず全員バラバラだ。八分の一しか血の繋がりがない俺とは違い同じ両親から生まれた姉妹なんだから似ていても良さそうな気がするのに。その後は時間いっぱい四人でスイーツバイキングを楽しんだ。


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これにてプロローグは終わりです

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