第3話 もし誤魔化そうとしたら莉乃姉も交えて家族会議だからね
「それにしても中等部の校舎に行くなんて久々よね」
「ああ、高等部に進学してからは基本行かないもんな」
中等部と高等部は一応同じ敷地内にあるものの校舎が別々になっているため何かしらの用がない限り行く事はない。
しばらくして中等部の校舎に入ると周りからの視線が集中する。多分高等部の制服を着ている俺達がここにいる事が珍しいからに違いない。
「……中等部三年生の教室ってどこだったっけ?」
「まだ卒業して二年しか経ってないのに忘れるってどういう事よ?」
「来ないからド忘れしたんだよ」
「仕方ないわね、私が案内してあげるわ」
「ありがとう、助かる」
さっきは杏奈に来なくても良いと言ったが居てくれて助かった。それからようやく目的地に着いた俺達は教室の中に入る。
予想通り入った瞬間教室中の視線が俺に集中した。やはり高等部の制服効果はここでも発揮されるらしい。
「あれっ、瑠花のやつ教室にいないじゃん」
「本当ね、いつも昼ごはんは教室で食べてるって言ってたのに」
「誰かに聞いてみるか。ちょっと教えて欲しいんだけど
「る、瑠花ちゃんは昼休み始まってすぐ先生に呼ばれて職員室に行きましたけど」
入り口近くにいた女子生徒に尋ねるとそう教えてくれたわけだが少し顔がこわばっていた。すると隣にいた杏奈が怒ったような口調で話しかけてくる。
「ちょっと、いきなり知らない男子高校生から話しかけたらその子も驚くでしょ。うちの奏多が迷惑かけちゃってごめんね」
「いえ、大丈夫です……それよりもしかしてお二人は瑠花ちゃんのお兄さんとお姉さんですか?」
「ええ、そうよ」
「あっ、やっぱりそうなんですね。瑠花ちゃんからカッコいいお兄さんと美人なお姉さんがいるって聞いてたのでもしかしたらって思って」
俺達の素性が明らかになって警戒心が解けた女子生徒はそう言葉を口にした。すると杏奈が急にニヤニヤし始める。
「私はともかく奏多がかっこいいってのはあり得ないでしょ」
「おい、さらっと俺をディスるな。こう見えてもたまにかっこいいって言われるんだぞ」
「えー、本当かしら? ちょっと信じられないんだけど」
「ちなみに先週も岡山駅でナンパされたから」
「「は?」」
俺が少し得意げな顔でそう口にした瞬間そんな低い声とともに隣と後ろから左右の肩を強く掴まれる。爪が食い込むくらい強く肩を掴んでいるのは隣にいた杏奈といつの間にか後ろにいた瑠花だ。
「ちょっとそれどういう事よ」
「そうだよ、私も杏奈姉も莉乃姉そんな事があったなんて一言も聞いてないんだけど」
「だって聞かれなかったし」
何故かは分からないが凄まじい剣幕で詰め寄ってくる杏奈と瑠花にそう正直に伝えた。すると二人はさらに不機嫌になる。
「それなら今からゆっくりとその事についてお兄ちゃんの口から詳しく教えて欲しいな」
「そうね、私達に嘘や隠し事は許さないわよ」
「わ、分かったからとりあえず場所を移動しよう。めちゃくちゃ見られてるから」
瑠花のクラスメイト達は俺達の様子を遠目から興味津々な様子で眺めておりとにかく恥ずかしかった。修羅場だと言う声も聞こえてきており完全に見世物状態だ。
ひとまず移動には杏奈と瑠花も同意してくれたため教室を出て中庭に向かい始める。その間も二人から両脇を固められていて逃げられそうになかった。
「じゃあ説明しなさい」
「もし誤魔化そうとしたら莉乃姉も交えて家族会議だからね」
「分かったよ、話せばいいんだろ」
中庭に着いた途端ベンチに座らされて杏奈と瑠花から問い詰められた俺は渋々先週の土曜日にあったエピソードを話し始める。
「へー、お兄ちゃんは岡山駅前のショッピングモールへ行った帰りに駅前で女の人から呼び止められたんだ」
「それで奏多はその女からナンパされたと」
「ああ、そうなるな」
突然の事でありかなり驚いた事は記憶に新しい。てか、二人とも腕組みしながら睨みつけてくるのは辞めろ。
「ふーん、それでその後は?」
「私と杏奈姉に隠してたって事は何かやましい事でもあったんじゃないの?」
「いや、普通に断ったけど」
「「えっ?」」
俺の言葉を聞いた杏奈と瑠花は二人揃って間抜けな声をあげた。しばらく固まっていた二人だがすぐに再起動する。
「断ったって嘘をついて誤魔化そうとしてるんじゃないでしょうね?」
「本当だって」
「性欲モンスターのお兄ちゃんが断るなんて信じられないんだけど」
「いやいや、瑠花は俺をなんだと思ってるんだよ。流石に一回り以上歳上でしかも既婚者とか無理だから」
そう、俺をナンパしてきたのは三十歳くらいで左手薬指に指輪をはめた女性だったのだ。ちなみに相手は俺を高校生とは知らずにナンパしてきたらしく未成年である事を知るとため息をつきながらどこかへと行ってしまった。
「これで満足か?」
「ええ、奏多は人妻からナンパされて喜ぶ性癖があるって事がよく分かったわ」
「お兄ちゃんキモい」
「お前らが無理やり話させたくせにこの扱いは酷すぎるだろ」
そう言葉を口にする俺だったがとりあえず杏奈と瑠花の体から出ていたあからさまな不機嫌オーラが無くなったため一安心だ。
「そう言えばお兄ちゃんと杏奈姉は私の教室まで何しに来たの?」
「そうだった、俺の弁当の中身がどっちも白米だったんだよ。それで瑠花が俺のおかずを持ってるんじゃないかと思ってな」
「そうそう、私が違うなら間違いなく瑠花でしょ」
「なるほど、それでわざわざ私の教室まで来てたんだ。戻ったら確認してみるよ」
途中トラブルもあったがようやく本題に入る事が出来た。いつの間にか昼休みも半分以上が経過していたためおかずだけ受け取ったらさっさと自分の教室に戻ろう。
それから瑠花の教室に戻った俺は弁当箱の中身を確かめる。二段弁当の中身は両方おかずだったためやはり瑠花が持っていたようだ。
「じゃあ俺達はそろそろ帰るから」
「またね瑠花」
「うん、お兄ちゃんも杏奈姉もまた後で」
こうして俺達は瑠花の教室を後にした。ちなみに杏奈と別れて自分の教室に戻る頃には昼休みが残り10分を切っていたため早食いをするはめになった事は言うまでもない。
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